ep.55「制御の必要性」
──山中。
「行くぞ」
短く告げる。
嶺二と蓮也が同時に構えた。
雷と風。
それぞれの力を纏いながら。
先に動いたのは嶺二だ。
踏み込みと同時にーー
空気が弾ける。
ーーバチッ
身体に雷を纏うと、速度が一段跳ね上がる。
蓮也が小さく笑う。
同時に風が巻く。
嶺二の動きに合わせて、蓮也の風が補助する。
前よりも明らかに速い。
連携も滑らかだ。
だがーー
「まだ上げられるはずだぞ」
踏み込み、捌く。
そして崩す。
いつも通りに。
しかし。
「っ……!」
嶺二の拳がかすめる。
(……速い)
その直後。
風に押される。
体勢が僅かに崩れる。
「今よ!」
蓮也の声。
嶺二の一撃が迫る。
「もっとギアを上げろ」
最小の動きで躱す。
そのまま足を払う。
「まだだ!」
倒れながらも、嶺二が手を突く。
その瞬間。
雷が、膨れ上がった。
「ーーっ」
違和感。
制御が、甘い。
「嶺二、止めろ」
止まらない。
ーーバチバチバチッ!!
雷が暴れ始める。
地面が焦げる。
「ちょっと待って!これまずい!」
蓮也の声。
風で抑えようとするがーー
弾かれる。
「抑えきれない!」
(暴走か……!)
即座に踏み込んで距離を詰める。
「意識を切れ」
「出来るかよ……!」
嶺二の顔が歪む。
力に引きずられている。
(……間に合うか)
手を伸ばして直接触れる。
「くっ……!」
嶺二から放出され雷に繋がるエネルギーを断ち切る。
強制的に。
パキン、と音がした。
スっと雷が、消えた。
「……っ、はぁ……!」
嶺二がその場に膝をつく。
「ちょっと……本気で焦ったんだけど……」
蓮也も息を吐いた。
「怪我はないか」
「……ああ」
「大丈夫……」
「……制御が甘い」
静かに告げる。
「力に飲まれるな」
「……分かってる」
嶺二が低く答えた。
その声に、悔しさが混じる。
「……あれ、普通にヤバかったわよ」
蓮也が腕を組む。
「ちょっと間違えたら、私たち纏めて感電してたわよね」
「いや、いざとなればこの前のように結界を展開するまでだ……とは言え、少し焦ったけどな」
「セレスが焦るなんて珍しいわね」
「お前たちを育てるのと同時にお前たち自身の力からも守るのが俺の役目だからな」
その自分の言葉が嫌に胸に響く。
(……役目、か)
頭の奥に浮かぶ。
小さな手。
眠っていた姿。
(……トール)
胸の奥が、わずかに軋む。
(……あの子を)
視線が、二人へ向く。
嶺二。
蓮也。
(この二人を鍛えるということは)
(……そういうことだ)
無意識に拳が握られる。
「……セレス?」
「どうしたのよ」
「……いや」
小さく首を振る。
「問題ない」
そう言い切る。
言い切ってしまう。
(……俺の役目だ)
それ以上は考えない。
「続けるぞ」
「ああ」
「はぁ!?今の見て言う!?」
「制御出来ない力は意味がない」
「それはそうだけど……!」
「ならやるしかない、って事だろ」
「そうだ」
淡々と告げる。
その声の奥に。
僅かな揺れが残っていた。




