ep.54「片鱗」
ーー山籠りを始めて数日。
「はぁっ……!」
「くっ……!」
連続した攻防の末、嶺二と蓮也がその場に膝をつく。
肩で息をしながらも、二人のその目はまだ力強さを宿している。
「一旦休憩だ」
「っ……やっとか」
「しんっど……」
「十五分だ」
「短っ!!」
「回復し切る必要はない」
「あるわよ!」
「その状態でも動けるようになれ」
「鬼……!」
◇
「立て」
「は?」
「ちょっと待って今休憩中でしょ!?」
「休憩時間を有効活用する」
「……休憩とは」
「今の間に魔法を教える」
「私たちにも使えるもんなの?」
「ここなら出来るだろうな。まずは感知だ。来た時にも言ったが、この場所はエネルギーに満ちている」
「感知って……どうすんのよ」
「呼吸を使え。吸う時に取り込み、吐く時に巡らせろ」
「……難しいわね」
「要は考えなきゃいいんだろ」
「そうだ。無になって集中しろ」
「ねぇ、矛盾って知ってる?」
蓮也の声を無視して続ける。
「周囲を“見る”な。触れろ」
「意味がわからない……」
「感覚で捉えるんだ」
◇
五分経っても変化はない。
「仕方ないな」
嶺二の胸元に手を当てる。
俺が取り込んだエネルギーを嶺二へ流し、巡らせる。
「っ……!?」
「分かったか」
「ああ……」
次に蓮也へ。
嶺二にした事と同じ事をする。
「えっ……」
「それだ。やれ」
二人が目を閉じ、呼吸を深く整える。
少しの静寂の後ーー
「……あ」
蓮也が静寂を打ち破った。
「今……なんか……」
嶺二も反応を見せる。
「この感じか……」
「よし、そのまま集めろ」
「無理よ!」
「やれ。出来る」
ーー数秒。
ふと、嶺二が空を見上げた。
一瞬で上空に黒い雲が発生した。
雲の中にチカチカと閃光が走っている。
(これは……)
瞬時に判断する。
威力の桁が違う。
「ーー下がれ」
俺たちを包み込むように半透明の球体が形成される。
巨大なシャボン玉のような結界を展開する。
ーーゴロゴロ……バチィィィィンッ!!
「……お?」
雷が地面へ。
落雷の轟音の中に蓮也の素っ頓狂な声が紛れた。
辺りに電流が走る。
だが、結界に触れた瞬間、電流は弾かれ散った。
そして再び訪れた静寂。
スッと結界を解く。
「……出来たな」
「……はぁ!?」
蓮也の声が裏返る。
「ちょっと待って!?何!?今の!雷!?威力おかしくない!?見て!?地面焦げてデッカイ穴空いてるわよ!?」
「……ぉおう」
俺の口からも意図せず、出したことのない声が漏れた。
「セレスが引いてるわよ兄貴!貴重よ!?」
「蓮也、落ち着け」
「適性が高いな嶺二」
「高いってレベルじゃないでしょ!?っていうか、さっきの半透明のあれは何!?」
「結界だ。空間ごと遮断した。感電じゃ済まなそうだったんでな」
「……私の理解の範疇を超えてるわ」
「お前もなんかやってみろ」
「なんか、って……相変わらず雑なんだから」
ぶつぶつと文句を垂れながら蓮也が再び集中する。
◇
「……っ」
空気の流れが明らかに変わった。
風が蓮也の指先に集まりーーふわりと渦巻いた。
「……出来、た?」
「まだ小さい力だが、安定はしているな」
「ちょっと待って、私と兄貴の差なんなの!?」
「俺に言われても知らん」
「いいか。嶺二はさっき見ての通り雷だ」
「だよな」
「俊敏性、破壊力に長けている。そして蓮也。お前は風だ」
「でしょうね!」
「制御、補助、流れを操る」
「へぇ……」
「相性は悪くない。むしろーー」
二人を見据える。
「組み合わせれば更に化ける」
「ふーん。面白いわね」
「だが」
一歩踏みだす。
「まだ嶺二は威力コントロールが、蓮也は出力が足りない」
「そうだな」
「実戦で思い通りに使えなければ意味がない。体術訓練と並行で続けるぞ」
「まさか、今、この瞬間から……?」
「当たり前だろう。休憩は終わりだ」
「今の間に休憩なんてどこにあったのよ!?」
山に響き渡る蓮也の叫び声。
今この場から、雷と風。
この二つの力が、確実に“戦う力”へと二人の身体に刻まれ始めた。




