ep.53「重なる動き」
ーー山中。
静寂の中に踏み込む音が響く。
嶺二が前へ出る。
同時にーー
蓮也が横から滑り込む。
それでもーー
「甘いな」
半歩引く。
嶺二の拳を躱し、そのまま軸をずらす。
蓮也の蹴りも空を切る。
「くっ……!」
「またか……!」
「動きは悪くない。だが、狙いが単調だ」
「単調……」
「読めるって事か」
「ああ。動きが素直すぎる」
「なら……!」
嶺二のフェイント。
だが、見切って崩す。
「兄貴のフェイント見切れるの何で!?私だって見切った事ないのにっ!」
「悔しがるとこそこかよ」
俺を見据える二人の視線は言葉とは裏腹に鋭い。
「繋げ」
「もうやってるわよ!」
「浅い」
「はぁ!?」
「“合わせる”から“重ねる”にアップデートしろ」
「それを言うならグレードアップでしょ!?」
「スマホゲームのやり過ぎだな」
そう言いながらも嶺二の目付きが変わった。
「そういう事か」
次の瞬間ーーこれまでとは明らかに違う動きを見せた。
嶺二が前へ。
だが今回はーー
蓮也が遅れない。
ぴたりと重なる。
(言葉だけでここまで出来るとは……)
嶺二の拳を躱したその瞬間。
蓮也の蹴りがすぐそこに来る。
「ーーっ」
僅かに反応が遅れる。
腕で受けると衝撃が走った。
「届いた……!」
後ろへ一歩下がる。
「いいな。今のは悪くない……だが」
一歩踏み出す。
「まだ足りない」
瞬間。
一気に距離を詰める。
「ーーっ!?」
嶺二が反応する。
だが、それよりも速く嶺二の体勢を崩す。
そして、そのまま蓮也へ。
「速っ……!」
蓮也が構える前に、崩す。
たった数秒。
それだけで形勢は逆転する。
「さっきの感覚を忘れるな。重なった瞬間、お前たちは格段に強くなった」
「……ああ」
「それは……感じたわ」
「それでもまだ、俺の域には届かない」
これは紛れもない事実だ。
「だから、もっと上げろ。全てを」
「全て……」
「力、技術、スピード、反射、感性」
「上げるってどこまでよ……」
「限界以上まで」
再び構える二人。
風が吹いて木々がざわめく。
(……)
ほんの一瞬。
思考が静かに乱れる。
(……トール)
ギリっと歯を食い縛り、軽く頭を振る。
(今は集中しろ……)
「来い」
短く告げると二人が地を蹴る。
拳の威力。
蹴りの速度。
連携。
どれもが上がり、隙もほぼない。
「まだまだだ」
変わらず俺は捌いて崩す。
だが先程よりも確実に手応えがある。
(このままいけばもしかしたら……想定以上になるかもしれないな)
「続けるぞ」
この訓練の中で二人の強さは確実に、引き上げられていくーー




