ep.52「さらに上の段階へ」
ーー数日後。
共鳴の訓練は順調に進んでいた。
嶺二と蓮也の動きが、以前よりも明確に噛み合っている。
共鳴した意識も安定して保っていられている。
(……十分だな)
「一度止めろ。」
「なによ、急に止めて」
「もう共鳴は十分やった。成果も申し分ない」
「まぁ、それはそうでしょうけど……」
「だから次の段階へ進むぞ」
「次?」
「山に行くぞ」
「はぁ?どうしていきなりそうなるのよ」
「ここでは限界がある」
周囲を軽く見渡す。
「人目がある」
「そうだな」
「そして、この環境では魔法が使えない」
「……ああ」
嶺二が納得したように頷いた。
「だが、山なら自然エネルギーが満ちている。この前の野営」
「キャンプね」
「キャンプ地のように」
「そういえば魔法で火つけてたな」
「つまり。実戦に備えた訓練が本格的に出来るってこと?」
「その通りだ」
「で?どのくらいの期間行くのよ?」
「数日か、数週間か……だが、取り急ぎ進める必要がある」
「期間未定って訳ね。まったく……」
「何か問題でもあるか」
「そりゃあるわよ。でもまぁ、やるしかないわね」
肩をすくめる蓮也に嶺二が口角を上げてニッと不敵に笑った。
「面白くなってきたな」
「こいつがゲームに熱中してた分の皺寄せが来てるんだけど!?」
「いいじゃねぇか蓮也。長期間だらだらやるより、短期間で一気に詰め込んだ方が身体に叩き込まれるだろ」
「もうっ!それも分かるけど!」
(決まりだな)
「準備しろ、明日の朝出るぞ」
◇
ーー明朝。
蓮也のマンション前。
「若頭不在って大丈夫なの?家は」
荷物を車に乗せながら蓮也が嶺二を見た。
「親父が居るし平気だろ」
「ああ……そうね、父さんならどうとでもするわよね」
「お前こそBARはいいのか」
「暫くは後輩に任せてあるし問題ないわ」
「荷物は積み終わったな、行くぞ」
「運転は俺だがな」
「兄貴早くー!サービスエリアでソフトクリーム食べたいんだから!」
「はぁ……ったく、相変わらず切り替わりが早いなお前は」
◇
車が走り出して少しすると、蓮也が助手席でスマホを取り出して何やら操作をし始めた。
「兄貴、流していい?」
「ああ」
二人の短いやり取りの後、車内に音が流れ始めた。
低く響くリズム。
絡みつくような旋律。
そして、歌。
「……」
暫く無言で聴く。
「これがこの世界の音響芸術、か」
「なにそれ」
「こっちだと“音楽”っつーんだよ」
「なるほど」
嶺二が喉を鳴らして笑う。
「回りくどい言い方しやがって」
「……妙だな」
「何が?」
「崩れているようで規則性がある」
「……は?」
「音に言葉を乗せるのは分かる。だが言葉の意味を論理的思考ではなく、感情として伝えているな」
「そんな分析して聴くもんじゃないのよ!?」
「……悪くないな」
「お前がそれ言う時って気に入ったって事だよな」
「もうなんとなく分かってきたわよね」
◇
サービスエリアでうにょうにょとしたアイスを買ったり、流れる音楽に対する蓮也のどこか熱烈な話を聞いたりしているうちに、車は高速道路を離脱し、山道へ入る。
道は徐々に細くなり、やがて辺り一面自然に囲まれた。
そして、ポツンとある木材建物の前に車が止まった。
「着いたぞ」
「家があるのか」
「九条組が所有してるロッジだ。必要最低限の寝床と水回りは設備されてる」
「トイレとかお風呂は必要だし、車中泊やテントじゃなくて布団で寝られるわよ」
「山小屋みたいなものか」
「そうだ」
扉を開けて外へ降り立つ。
やはり街とは空気が違う。
キャンプ地よりも遥かに澄んでいて、静かでーーどこか重い。
(濃いな)
「何よその顔」
「感じないか」
「何が?」
「空気の流れ、満ち溢れる自然エネルギー」
「ああ……俺もなんとなくだが分かる」
「そうね、言われてみれば確かに……」
「ここなら確実に使えるだろう」
◇
少し開けた場所まで来ると、周囲の自然エネルギーを集める。
意識を研ぎ澄ますと指先に小さな火が灯る。
「っ……まだ見慣れねぇな」
「ほんとよね……」
「今のは自然エネルギーを代用しただけだ。この世界には魔力は無いに等しいからな」
「はぁ……それをやれって事なのね」
「ああ。まずは体で覚えろ。行くぞ」
「は?」
「なに」
二人の声には答えず一歩踏み込む。
「っ!?」
一瞬で距離を詰める。
嶺二の懐へ。
足を掛け、腕を取り、崩す。
「なっ……!?」
「遅い」
横から来た蓮也を躱し、押して、崩す。
「甘い」
「ちょっと待って!いきなり過ぎるでしょ!」
「実戦だからな」
「もうっ!魔法訓練じゃなかったの!?」
「両方やる」
俺から距離を取る二人。
同時に向かって来る。
動きを読み、捌き、崩す。
その繰り返し。
「はぁっ……!」
「くそっ……!」
「繋げ」
「今戦ってんだけど!?」
「だからだ。戦闘時に自然と共鳴出来るようになれ」
「仕方ねぇな……やるか」
辺りの空気が震えた瞬間、二人の動きが変わった。
格段と俊敏に、そして共鳴による連携で隙なく。
「それだ」
この世界だけに限って言えば二人は相当な手練だろう。
だがーー
“こちら側”で魔王討伐をするのはただの“喧嘩”とは格が違う。
訓練を指導する俺の言葉、動き、全ては二人の強さを向上させる。
それ即ち二人の命を守る事と直結する。
「ここからだ。続けるぞ」
山の中。
静かな空気。
その中でーー
訓練は本格的に始まった。




