ep.51「訓練再開」
ーー手紙を受け取った翌日。
「で?」
蓮也が腕を組んでこちらを見ている。
「急にどうしたのよ」
「何がだ」
「何が、じゃないでしょ」
呆れたようにため息をつかれた。
「昨日まであんなにだらけてゲームばっかりしてたくせに、いきなり“しっかり訓練するぞ”なんて」
「必要なんだ」
「ま、いいけど。どーせ手紙で妹さんにせっつかれたんでしょ」
「そんなとこだ。嶺二も呼んであるんだよな?」
「一応ね。連絡はしたわよ」
その時、タイミングよくインターホンが鳴った。
そして数分後、嶺二が部屋に来た。
「話は聞いてる」
「そうか」
「緊急性でも高まったか」
「ああ」
◇
ーー外。
人通りの少ない場所。
念の為、周囲を確認する。
(……よし、人目はないな)
「それじゃ、まずは基礎からだ」
視線を二人へ向ける。
「共鳴の制御」
「制御か」
「もちろん段階は踏む」
淡々と告げる俺の声はーー僅かに固い。
「感覚でいいから意識を合わせろ」
「つまり、なんとなくでいいのね」
「ああ、今はな」
「難しくはねぇな」
「お前たちはすでに繋がっているからな」
嶺二が小さく息を吐く。
「……やるか」
「そうね」
蓮也が頷いた。
二人の意識が、静かにゆっくりと揃い、重なっていく。
俺たちの周囲だけ空気が変わった。
僅かに、震えるような感覚。
(出来ているな)
これまでよりも強く、そして明確に。
「いいぞ、そのまま維持しろ」
様子を見る。
意識の重なりがどれほどか。
安定性の持続時間。
(これは……予想以上だな)
◇
共鳴訓練の最中、ふと思考が逸れる。
(……トール)
妹同然であるミレイユの末息子。
脳裏に浮かぶのはーー
生まれて間もなかった頃のトールの姿。
小さく、すぴすぴと眠っていた無垢なあの赤子。
(……)
あの子が、魔王の生まれ変わりである可能性が高いと、アイリーンの手紙には書かれていた。
(……)
視線が、自然と目の前の二人へ向く。
嶺二。
蓮也。
今、自分が鍛えようとしている“勇者”。
(あの子を討つ為の力を……俺が、育てるのか)
組んでいる腕に、指が食い込む。
「おい」
嶺二の声に意識が引き戻された。
「どっかいってたろ」
「……すまない」
すぐに思考を切り替える。
そして小さく息を吐く。
(俺の……役割だ)
「続けろ」
短く指示を出す。
「今の状態を維持したまま、出力を上げろ」
「まったく、無茶言うわね……!」
迷いは見せない。
見せるべきではない。
◇
ーー僅か数分後。
空気がビリビリと震え、共鳴が強まった事を知らせてくる。
僅かに、制御が乱れる。
「っ……!」
「落ち着け嶺二」
即座に声をかける。
「乱すな。繋げたまま保て」
「簡単に言ってくれるな……」
「大丈夫だ、出来る」
そして言い切る。
「お前たちならな」
一瞬静まる。
再び安定する。
(掴んだか)
「いい」
頷く。
「その感覚を忘れるな」
これが基礎だ。
全ての始まり。
◇
訓練を続ける。
時間が過ぎる。
だがーー
意識の奥に、残るものがある。
(……)
消えない。
消せない。
(……トール)
それでも。
(進むしかない)
◇
「今日はここまでだ」
息を整える二人。
「結構……キツいわね」
「悪くねぇ」
対照的な反応。
だが、どちらも前を向いている。
その様子を見ながら、静かに震える息を吐く。
やるべき事は決まっている。
迷う理由は、確かにある。
それでもーー
「……休憩したらまた再開するぞ」
宮廷魔導師として、情に流されてはいけない。
感情を立ち止まる理由にしてはいけない。
静かな空気の中でーー再び、訓練を始めた。




