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異世界から勇者をスカウトしに来た宮廷魔導師、現代が快適すぎて任務を忘れかけています。  作者: ココアバナナ
最終章【繋がりの先】

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ep.50「果たすべき役割」

 

 ーークリスタリア王国。


 魔導師棟。


 静寂に包まれた空間の中央。


 淡く光を放つ魔法陣が、ゆっくりと波動していた。


「……そろそろね」


 アイリーンは静かに呟いた。


 月に一度、兄の居る異世界と繋がる僅かな時間。


 その“道”が開く。


 手をかざし、魔力を放つ。


 魔法陣の光が一気に強まる。


 そしてーー


 一枚の紙が現れた。


「……」


 その紙がふわりとアイリーンの掌に舞い乗った。


 そこに書かれている文字、見慣れた筆跡。


「兄さん……」


 小さく息を吐いて視線を滑らせる。


 内容はいつも通り、簡潔。


 軽い現状報告、そして異世界がいかに快適かという事。


「まったく、相変わらずね。」


 けれど、読み進める中でアイリーンはふと気付いた。


「……もしかして、何しに行ったのか忘れてるんじゃ」


 思わず零れるため息。


「どうしようもないわね、本当に」


 そしてアイリーンの表情はすぐに厳しいものへと変わり、視線が鋭くなった。


「満喫してる場合じゃないのよ……兄さん」


 手紙を持つ手に微かに力が入る。


 そして頭に浮かぶのはーー

 ルシアンとミレイユの末っ子、トール。


「……魔王の生まれ変わりの可能性」


 無邪気に笑うトールの影だけが、歪に揺れていた光景をこの数日、アイリーンも、トールの両親であるルシアンもミレイユも、そしてトールの姉と兄である双子も、幾度となく目撃していたのだった。


「今はまだ様子を見る猶予はあるわ……けど、兄さんにはしっかり役割を思い出してもらわなきゃいけないわね……」


 そう小さく呟いて思考を整理すると、自身の執務室へ戻り椅子に座ると、机の上に羊皮紙とペンを取り出した。


「勇者の存在をあの闇に悟られるのは……まずい」


 ペンを握る指先が微かに震える。


「しばらくはーー」


 そして静かに結論を出す。


「向こうで、しっかり育ててもらうしかないわね」


 ◇


 ーー現代。


 昼。


 マンションの一室。


「……」


 ソファに座り、スマホを操作する。


 いつも通りの静かな時間。


 何も変わらない日常。


 ーーその時。


「……?」


 空気が揺れ、僅かな歪みが空間に現れた。


「これは……来るな」


 呟き声が漏れた次の瞬間ーー


 目の前の空間が光り、淡く揺らめく。


「なっーー」


 蓮也の声は、突然現れたその現象に驚きを隠せない。


 だが、俺は違う。


「アイリーンからだな」


 光の中から手紙が現れた。


 ゆっくりと落ちてくるそれを手に取る。


 見慣れた、けれど懐かしくも感じる羊皮紙。


 無言で開いて目を通す。


 書かれている内容は簡潔だった。


 だがーー重い。


 “共鳴”


 “異常性”


 “魔王”


 “トール”


 “観察”


 “勇者の秘匿”


 それらの単語に思考が止まり、呼吸を忘れる。


「……勇者」


 ぽつりと漏れた。


 その言葉。


 その意味。


 俺の目的。


 ここに居る理由。


「……あっ」


 この前の引っ掛かりと全てが繋がった。


 この世界に来た目的、任務、そして俺の役割。


 全てを思い出した。


「……」


 数秒の静止。


 蓮也が心配そうにこちらを見ている。


「なに?手紙?」


 嶺二もこちらに視線を向けてくる。


「何て書いてあるんだ」


「……」


 手紙からゆっくりと顔を上げる。


 そして視線を二人へ向ける。


「……忘れていた」


「何をよ」


「……俺は勇者を探しに来たんだったな」


「……は?まさか、忘れてたわけ!?」


「ああ、すっかりさっぱりばっちりとな」


「何もばっちりじゃねぇだろ」


 まぁ、勇者は見つかっている訳だし、後はしっかり鍛えるだけだ。


 そう考えながらも、脳裏に浮かぶのはーー


 幼馴染の心境に寄り添う感情と、宮廷魔導師としての責任の狭間で人知れず揺れているであろう妹の姿だった。




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