ep.49「曖昧な引っかかり」
今日も特に変わった事はない。
いつも通りの作業に没頭し続ける。
「……クソっ……またガチャすり抜けた」
◇
しばらくしてから、画面を閉じて立ち上がる。
特に目的はないが、外に出る。
◇
ーー街中。
行き交う人々の流れ。
看板や建物。
どれも既に見慣れたものだ。
違和感も不自由もない。
(……寧ろとてつもなく快適だ)
◇
コンビニに入り、選んだ商品を手に取る。
会計を済ませて外へ出る。
(……俺も慣れたものだな)
自然と体が動いている。
◇
いつもの公園でベンチに座る。
包みを開けてサンドイッチを齧る。
「……これも美味いな」
小さく呟くと、風が頬を掠めた。
穏やかな空気。
今この場に何も問題はない。
◇
ーー夕方。
マンションへ戻る。
「おかえり」
「ああ、ただいま」
「どこ行ってたのよ」
「適当に歩いていた」
「だと思ったわ」
呆れたように笑う蓮也。
これもいつも通りだ。
◇
ーー夜。
BAR《月影》。
いつもの場所。
いつもの空気。
いつもの静かな音楽。
グラスを磨に、注文を受けて酒を作る。
動きが身体に染み付いている。
◇
営業が終わると片付けや掃除、閉店作業を蓮也と手分けし、全てを終えてから店を出る。
「今日も平和だったわね」
「そうだな。先を読んで動けるようになったぞ」
「お陰で楽だわ」
◇
信号の赤い光に足を止める。
「……」
その時ふと、頭の隅に何かが引っ掛かった。
(……何だ?)
ほんの僅かな違和感。
それが何なのか、ぼんやりとしていて鮮明にはならない。
「どうしたの?」
「……いや」
少しだけ考える。
何かを思い出しかけたような感覚。
だが、それ以上は出てこない。
「なんでもない」
そう答える。
信号が青に変わり、再び歩き出す。
蓮也と俺の足音が重なる。
何の変哲もない、いつも通りの帰り道。
◇
マンションの前。
「先に行っててくれ。少し考えたい事がある」
「分かったわ。じゃ、先入るわね」
「ああ」
蓮也が中へ入って行き、一人になった俺は空を見上げた。
「……」
さっきの感覚。
引っかかり。
思い出しかけた何か。
「……何か、大事なことを」
そこまで呟いて、止まる。
言葉が詰まって、思考も止まる。
「……」
数秒の沈黙。
それから小さく息を吐く。
「……まあいい」
今は問題ない。
その筈だ。
思考を切り替えてマンションの中へ入りエントランスを抜ける。
エレベーターで上がって少し歩いた先の扉を開ける。
いつもの部屋。
変わらない日常。
その中へ、何の迷いもなく足を踏み入れる。
ーー感じた違和感を、置き去りにしたまま。




