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異世界から勇者をスカウトしに来た宮廷魔導師、現代が快適すぎて任務を忘れかけています。  作者: ココアバナナ
第3章【穏やかな日々】

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ep.48「回転する食文化」


「久しぶりにお寿司食べたいわねぇ……」


 ソファに寝転がっている蓮也がぼやく。


「おすし……」


 その未知の単語に反応する。


「あ、そういえばセレスってまだお寿司未経験だっけ」


「……なんだそれは」


「メニュー豊富な海鮮料理」


「……興味がある」


「じゃあ行きましょ、兄貴の奢りで」


 そう言って蓮也はスマホを取り出した。


「あ、もしもしー?兄貴ぃー、蓮也とセレスねぇー、お寿司食べたぁい」


『奢れと』


「そう!察しがいいわね!」


『お前のその甘え方は昔から何かを強請る時だからな』


「で?奢ってくれんの?」


『……ったく、仕方ねぇな。どっちだ』


「セレス未経験。回る方が楽しい」


『分かった、回転寿司だな。準備して待ってろ』


 通話が切れる。


「決まりね」


「ああ」



 ーー回転寿司。


「……」


 嶺二が機械を操作し、出てきた紙の番号に従って席に着く。


 どうやら予約をしてくれていたらしい。


 目の前を流れる皿。


 規則的な動きと距離感覚。


(……運搬機構か)


「生魚……か?」


「生だから美味いんだ。まずはこれ食ってみろ」


 嶺二が一皿取って差し出す。


「ネタに醤油つけろ」


「……ネタ?」


「上に乗ってる方だ」


「なるほど」


 醤油を少しつける。


 口に運ぶ。


「……美味いな」


「だろ」


「だがーー」


 少し考える。


「米が主張している」


「だから逆だ」


「逆?」


 嶺二が手元の寿司を軽く持ち上げる。


「ひっくり返せ。ネタを下にして食うんだよ」


「……ほう」


 言われた通りに持ち直す。


「……こうか」


「ああ」


「しゃりを味わいに来てんじゃねぇ」


 淡々と続く。


「それじゃ何食っても同じだろうが」


「……」


「ネタがメインだ。味覚はどこにある?」


「舌だな」


「ならどうする」


「……舌にネタを当てる」


「そういうことだ」


 一口。


「……なるほど」


 小さく頷く。


「この方が魚の旨みがよく分かるな」


「だろ」



 いくつか皿を重ねる。


 魚。


 貝。


 それぞれ違う味。


(……面白いな)


 だが、その時。


「……これは何だ」


 視線が止まる。


 流れてくる一皿。


 海苔に包まれた、小さな山。


 黄色い粒。


「コーンマヨ軍艦」


 蓮也が言う。


「……寿司か?」


「寿司よ」


「……」


 少し考えて、手に取る。


 一口。


「……」


 もう一口。


「……」


 沈黙。


「どう?」


「……これを追加だ」


「え、もう?」


 再び取る。


 食べる。


 また取る。


「……おい」


 嶺二が呟く。


「そればっか食うな」


「バランス悪いわよ」


「問題ない」


 淡々と答える。


「粒状で摂取効率が良い」


「何その理屈」


「味の調和も取れている」


「ただのコーンマヨよ!?」


 だが、手は止まらない。


 皿が増えていく。


 同じ色。


 同じ形。


「……お前それ好きすぎだろ」


「合理的な選択だ」


「絶対違うわよ」


「好みなんだ、いいだろ」



 しばらくして。


 皿が積み上がる。


 その大半がーー


「……コーンだらけじゃねぇか」


「気に入った」


「見りゃ分かるわよ」


「おい……嶺二のそれは何だ?プリンか?」


「茶碗蒸しだ。食うか?」


「ああ」


スプーンを借りて一口貰う。


「なん、だ……プルプルなめらか……温かくて出汁が効いていて具も入っている……初めての感覚だ……俺もそれを注文する」



 会計を終えて店を出る。


「どうだった」


「……悪くない」


「セレスったら後半コーンマヨと茶碗蒸しばっかりだったわね」


「また来たい」


「よっぽど気に入ったのね」


 蓮也が笑う。


 少しだけ考える。


「……あの“コーンのやつ”は特に良い」


「気に入りすぎでしょ!」


 嶺二が小さく息を吐く。


「……まぁいい。連れて来た甲斐はあったな」



 歩きながら、ふと口にする。


「……回転している理由も理解した」


「なによ急に」


「選択を容易にするためだ」


「まあ、そうね」


「スマホの大きいやつで注文出来るのも合理的配慮だ……良く出来ている」


「タブレットね」


 小さく頷く。


 この世界の仕組み。


 文化。


 食。


 どれもーー


(……興味が尽きない)


「……必ずまた来る」


 ぽつりと呟いた。


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