ep.48「回転する食文化」
「久しぶりにお寿司食べたいわねぇ……」
ソファに寝転がっている蓮也がぼやく。
「おすし……」
その未知の単語に反応する。
「あ、そういえばセレスってまだお寿司未経験だっけ」
「……なんだそれは」
「メニュー豊富な海鮮料理」
「……興味がある」
「じゃあ行きましょ、兄貴の奢りで」
そう言って蓮也はスマホを取り出した。
「あ、もしもしー?兄貴ぃー、蓮也とセレスねぇー、お寿司食べたぁい」
『奢れと』
「そう!察しがいいわね!」
『お前のその甘え方は昔から何かを強請る時だからな』
「で?奢ってくれんの?」
『……ったく、仕方ねぇな。どっちだ』
「セレス未経験。回る方が楽しい」
『分かった、回転寿司だな。準備して待ってろ』
通話が切れる。
「決まりね」
「ああ」
◇
ーー回転寿司。
「……」
嶺二が機械を操作し、出てきた紙の番号に従って席に着く。
どうやら予約をしてくれていたらしい。
目の前を流れる皿。
規則的な動きと距離感覚。
(……運搬機構か)
「生魚……か?」
「生だから美味いんだ。まずはこれ食ってみろ」
嶺二が一皿取って差し出す。
「ネタに醤油つけろ」
「……ネタ?」
「上に乗ってる方だ」
「なるほど」
醤油を少しつける。
口に運ぶ。
「……美味いな」
「だろ」
「だがーー」
少し考える。
「米が主張している」
「だから逆だ」
「逆?」
嶺二が手元の寿司を軽く持ち上げる。
「ひっくり返せ。ネタを下にして食うんだよ」
「……ほう」
言われた通りに持ち直す。
「……こうか」
「ああ」
「しゃりを味わいに来てんじゃねぇ」
淡々と続く。
「それじゃ何食っても同じだろうが」
「……」
「ネタがメインだ。味覚はどこにある?」
「舌だな」
「ならどうする」
「……舌にネタを当てる」
「そういうことだ」
一口。
「……なるほど」
小さく頷く。
「この方が魚の旨みがよく分かるな」
「だろ」
◇
いくつか皿を重ねる。
魚。
貝。
それぞれ違う味。
(……面白いな)
だが、その時。
「……これは何だ」
視線が止まる。
流れてくる一皿。
海苔に包まれた、小さな山。
黄色い粒。
「コーンマヨ軍艦」
蓮也が言う。
「……寿司か?」
「寿司よ」
「……」
少し考えて、手に取る。
一口。
「……」
もう一口。
「……」
沈黙。
「どう?」
「……これを追加だ」
「え、もう?」
再び取る。
食べる。
また取る。
「……おい」
嶺二が呟く。
「そればっか食うな」
「バランス悪いわよ」
「問題ない」
淡々と答える。
「粒状で摂取効率が良い」
「何その理屈」
「味の調和も取れている」
「ただのコーンマヨよ!?」
だが、手は止まらない。
皿が増えていく。
同じ色。
同じ形。
「……お前それ好きすぎだろ」
「合理的な選択だ」
「絶対違うわよ」
「好みなんだ、いいだろ」
◇
しばらくして。
皿が積み上がる。
その大半がーー
「……コーンだらけじゃねぇか」
「気に入った」
「見りゃ分かるわよ」
「おい……嶺二のそれは何だ?プリンか?」
「茶碗蒸しだ。食うか?」
「ああ」
スプーンを借りて一口貰う。
「なん、だ……プルプルなめらか……温かくて出汁が効いていて具も入っている……初めての感覚だ……俺もそれを注文する」
◇
会計を終えて店を出る。
「どうだった」
「……悪くない」
「セレスったら後半コーンマヨと茶碗蒸しばっかりだったわね」
「また来たい」
「よっぽど気に入ったのね」
蓮也が笑う。
少しだけ考える。
「……あの“コーンのやつ”は特に良い」
「気に入りすぎでしょ!」
嶺二が小さく息を吐く。
「……まぁいい。連れて来た甲斐はあったな」
◇
歩きながら、ふと口にする。
「……回転している理由も理解した」
「なによ急に」
「選択を容易にするためだ」
「まあ、そうね」
「スマホの大きいやつで注文出来るのも合理的配慮だ……良く出来ている」
「タブレットね」
小さく頷く。
この世界の仕組み。
文化。
食。
どれもーー
(……興味が尽きない)
「……必ずまた来る」
ぽつりと呟いた。




