ep.47「非日常の遊技場」
ーーとある日の昼過ぎ。
「どこか面白い場所はないのか」
ふと、口にした。
ソファに座ったまま、スマホから視線を上げる。
「この前キャンプ行ったでしょ?」
蓮也が呆れたように言う。
「野営以外にだ。もっとこう……俺が体験した事の無いような刺激が欲しい」
そう返すと、蓮也は少し考えてから口を開いた。
「……じゃあ遊園地行く?」
「ゆうえんち?」
「まあ行けば分かるわよ。待ってて兄貴呼ぶから」
「分かった」
なんだかんだ蓮也は嶺二が大好きらしい。行動を見ていれば分かる。
◇
あれから嶺二と合流し、到着したこの場所はーー
人が多い。
音が多い。
色も多い。
「……騒がしいな」
「それがいいのよ」
蓮也が笑う。
隣には嶺二。
「混んでんな」
「祝日だからねぇ」
(……非効率だ)
だが、同時にーー
(……興味深い)
「さ、チケット買って入りましょ」
◇
「さーて!とりあえずこれ」
入場するなりどこかへ行って戻って来た蓮也が差し出してきたのは、大きな容器。
「……なんだこれは」
「ポップコーン」
中を見る。
軽そうな粒の山。
「食い物、か……?」
「そうよ、食べてみて」
「……軽いな」
「でしょ?」
もう一つ。
また一つ。
「……手が止まらんな」
「それが罠よ」
確かに。
量の割に満足感が薄い。
(……気に入った)
その時。
「こっちも食べてみる?」
蓮也が別の容器を差し出す。
「味違い。そっちのはキャラメル味だけど、こっちはバター醤油なの」
「ああ」
一口。
「……美味いな」
少し考えて容器を蓮也へ傾ける。
「こっちに少し分けてくれ、俺のもやる」
「混ざるわよ?キャラメルが着いてないやつとかこっちのと見分けつかなくなると思うんだけど!?」
「問題ない、サプライズ感があって楽しいだろう」
「そんなサプライズ求めてんの?」
「ああ、くれ」
「仕方ないわねぇ」
蓮也が呆れながらも分けてくれた。
キャラメルとバター醤油、同時に口に入れてみる。
「……甘じょっぱくてこれはこれで悪くないな」
「あんた口中調味出来るのね……」
「……待て」
ふと、手が止まる。
「何よ」
「何かが……挟まっている」
「は?」
舌で確認する。
歯の隙間に感じる違和感。
「……取れん」
「ポップコーンあるあるよそれ」
「……欠陥食品ではないのか」
「違うわよ!!」
嶺二が小さく笑う。
「気にしすぎだ」
「気になるものは仕方ない」
しばらく無言で格闘する。
◇
「あれ乗るわよ」
漸く歯の間の挟まりが取れた矢先、指差された先に視線を向ける。
大きな構造物。
急角度。
高速移動。
「……あれは何だ」
「ジェットコースター」
「面白そうだ」
◇
ーー数分後。
「……」
「……」
「……どう?」
「……違うな」
「何がよ」
「馬車とは別物だ」
「そりゃそうだろうよ」
視線が定まらない。
体がわずかに揺れる。
「……内臓の位置がズレた気がする。何だこの不快感は」
「酔ったんじゃない?大丈夫?」
「問題ない」
少し間を置く。
「……二度目はないな」
「苦手なんだな」
「兄貴は昔から平気よね」
「俺が苦手なのはトマトだけだ」
「パクチーもでしょ」
「あれは苦手どうので片付けられる代物じゃねぇぞ」
◇
しばらくベンチに座る。
風が気持ちいい。
「……落ち着いたか」
「ああ、もう大丈夫だ」
完全ではないが。
◇
そしてーー
夕方。
巨大な円形の乗り物。
ゆっくりと上昇していく。
人や街が、少しずつ小さくなっていく。
夕暮れの茜色が、辺りを染めている。
「にしても男三人で観覧車か……」
嶺二が小さく呟く。
「何よ、たまにはいいでしょ?」
蓮也が楽しそうに笑った。
「……そういうもんか」
言葉とは裏腹に嶺二の表情は満更でもなさそうだ。
「……」
視線を外へ向ける。
広がる景色。
整えられた街。
あちこちで輝く灯り。
楽しそうな人々の流れ。
その全てが、穏やかに見える。
「……この世界の街並みは」
ぽつりと呟く。
「こんなにも美しく、平和なのか」
自然と口から出た言葉だった。
「……」
一瞬、静かになる。
蓮也が少しだけ視線を逸らす。
「……まあね」
嶺二は何も言わずにただ、外を見ている。
「……悪くないな」
ゆっくりと回る乗り物。
沈みかけた太陽。
その光の中で。
俺は静かにその景色を見つめていた。




