ep.46「別の役割」
ーー昼過ぎ。
特に予定はなかった。
ソファに座り、スマホを操作しているとーー
「暇か」
短い声。
タイムをタップしてスマホから視線を上げると嶺二が立っていた。
「忙しいがこれが終わったら暇だ」
「なら手伝うか」
「手伝い?」
「こっちの仕事だ」
「……なるほど興味深い」
◇
連れて来られたのは、街の外れにある倉庫だった。
大きな建物。
人の出入りがある。
(……妙だな)
空気が違う。
「若頭、お疲れ様です」
入口付近の男が頭を下げた。
「……ああ」
短く返す嶺二。
それだけで、周囲の動きがわずかに変わる。
(……統率が取れているな)
視線を巡らせる。
無駄がない。
命令系統が明確だ。
一般的な職場とは、少し違うのかもしれない。
◇
「こいつは」
嶺二が俺を軽く示す。
「俺の友人だ」
それだけ。
それ以上はない。
「……失礼しました」
男が小さく頭を下げる。
俺を見る視線が変わる。
先程までのものとは違う。
(……なるほど)
簡潔だが、十分らしい。
◇
「で、何をする」
「荷物の整理だ」
倉庫の奥を顎で示す。
積み上げられた箱。
(……多いな)
「適当に運べ」
「雑だな」
「お前なら問題ねぇだろ」
まぁ、否定はしない。
◇
箱を持ち上げる。
重さを確認する。
(……そこまで重くないな)
既に積まれた荷物の配置を見る。
順番や積み方。
(……無駄が多いな)
一歩踏み出して積み直す。
順序を変え、位置を調整する。
「おい、それーー」
誰かの声。
だが、止めない。
数分後。
「……こんなものか」
整理された空間。
しっかりと通路ができている。
動きやすい配置。
取り出しやすい構造。
「……」
「……」
沈黙。
「……早ぇな」
嶺二が呟いた。
「このくらい当然だ」
◇
別の場所へ移動する。
同じ作業と同じ結果。
ひたすら繰り返す。
効率は落ちない。
むしろ上がる。
「……なんだあいつ」
小さな声が聞こえる。
「分からん」
「若頭のご友人らしいぞ」
「……マジかよ」
気にしない。
作業を続ける。
◇
しばらくして。
「終わりだ」
嶺二の言葉に周囲を見る。
(こんなものか……)
「……お前」
嶺二がこちらを見る。
「なんだ」
「向いてるな」
「そうか?」
「ああ」
◇
倉庫を出る。
外の空気が少しだけ軽い。
「どうだった」
「悪くない」
素直に答える。
「単純だが、効率を詰める余地がある」
「だろうな」
嶺二が喉を鳴らして笑う。
◇
少し歩く。
言葉はない。
だが、気まずくもない。
「……またやるか。効率を極めたい」
「好きにしろ。あいつ等には伝えておく」
◇
変わらない日常。
だがーー
場所が変われば、役割も変わる。
BAR。
倉庫。
外。
どれも違う。
だからこそ面白い。
「……」
小さく息を吐く。
どこでも。
何をしていても。
「……充実してるな」
そう呟いた。




