ep.45「手伝い」
ーーキャンプから帰って数日。
変わらない日常を過ごしている。
朝起きて。
適当に時間を潰し。
外に出て。
そしてーー
夜。
「そろそろ店行くわよ」
蓮也に声を掛けられる。
「ああ、分かった」
このやり取りも、既に日常の一部になっていた。
◇
見慣れた道を並んで歩く。
キャンプの時とは違う、人工的な光に照らされた街。
整えられた空間。
自然も良いが、こちらにも利点はある。
「なに考えてんの?」
「比較だ」
「なんのよ」
「外と中だ」
「キャンプと日常?」
「ああ」
「大体分かってきたわ。あんたの頭の中」
「どちらにも利点がある」
「珍しくまともなこと言うじゃない」
「いつもだろう」
◇
BAR《月影》に到着すると、蓮也が施錠を解き、二人で中へ入る。
落ち着いた雰囲気。
カウンターの中へ入る蓮也に俺も続く。
◇
「じゃ、いつも通りお願いね」
「ああ」
掃除を終えてから磨いたグラスを並べる。
位置。
間隔。
グラスの輝き。
(……問題ない)
「ほんと慣れたわね」
蓮也が横目で見る。
「そうか?」
「最初の頃、掃除機の使い方も知らなかったでしょ」
「……未知の機械だったからな」
軽く笑われる。
◇
開店から少しして常連客がやって来た。
いつもの注文が入る。
「バーボン、ロックで」
「了解」
氷を入れる。
酒を注ぐ。
グラスを差し出す。
「どうぞ」
「お、ありがとう」
◇
しばらくして。
カウンターの中で、淡々と作業をこなす。
流れとタイミング。
注文の把握。
(……効率は悪くない)
むしろ俺にはーー
(……適しているな)
動きに無駄はない。
「ねぇ」
「なんだ」
「あんたさ」
少しだけ笑う。
「もう完全に店員よね」
「そうか?」
「そうよ、違和感ゼロ」
「それは光栄だな」
ふっと小さく笑って手元のグラスを磨く。
布の感触。
グラス表面の光沢。
指に伝わる感触の微細な変化。
「……」
ふと、手を止める。
(……)
思い出すのはキャンプで過ごしたあの夜。
(……)
だが、それも一瞬。
すぐに意識を戻す。
「どうしたの?」
「いや」
短く答える。
「なんでもない」
◇
再び作業に戻る。
注文を受けて酒を注ぐ。
会話を聞きながら蓮也の動きを見て酒の作り方を新しく覚える。
全てが流れるように進む。
「……」
夜は続く。
変わらない流れで。
変わらない空気で。
その中で確かに。
自分の居場所は、ここにあると感じた。




