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異世界から勇者をスカウトしに来た宮廷魔導師、現代が快適すぎて任務を忘れかけています。  作者: ココアバナナ
第3章【穏やかな日々】

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ep.44「眠れぬ夜」


 ーーテントの中。


 外の音が、少しだけ遠く感じる。


 風が布を揺らす音。


 木々のざわめき。


「じゃ、寝るわよ」


 蓮也の声。


「明日もあるし」


「ああ」


 短く返す。


 エアーマットの上に並べられた寝袋に入る。


 隣では嶺二が既に目を閉じている。


「おやすみ」


「ああ、おやすみ」


 やり取りはそれだけ。


 すぐに静寂が訪れる。


「……」


 目を閉じる。


 呼吸を整えて力を抜く。


(……)


 だがーー


 眠れない。


「……」


 目を開ける。


 布越しの暗がり。


(……妙だな)


 体は疲れているはずだ。


 だが、意識が落ちない。


 それどころかーー


(……落ち着かない)


 胸の奥が、わずかにざわつく。


 不安ではない。


 警戒でもない。


(……これは)


 少し考える。


 この感覚。


 経験がない訳ではない。


「……なんだか胸がむず痒くて寝付けないな」


 ぽつりと漏れる。


「なにわくわくしてんのよ?」


 すぐ隣から声が飛んできた。


「修学旅行の中学生じゃあるまいし……」


「しゅうがくりょこう?」


「いいから寝なさい」


 呆れた声。


 だが、どこか笑っている。


「……わくわく、か」


 小さく繰り返す。


 言われてみればーー


 確かにその言葉に近い高揚感。


「うるせぇな、早く寝ろ」


 嶺二の低い声。


「……起きていたのか」


「さっきから気配がうるせぇ」


「そうか」


 納得する。


 意識が落ちない以上、無意識に動いていたのかもしれない。



 再び目を閉じる。


 外の音に意識を向ける。


 風。


 木。


 虫の声。


 静かだが完全な無音ではない。


 自然の声。


 その“揺らぎ”が、心地いい。


(……)


 今日のことを思い返す。


 車の速度と安定。


 サービスエリア。


 そしてーー


 焚き火。


 調理と会話。


(……)


 どれも、普段とは違う。


(……楽しかった、な)


 小さく息を吐く。


 自覚する。


 この感覚。


 この状態。


 これが“わくわく”ならーー


「……なるほど」


 納得する。


 状況を理解すれば、落ち着く。



 自然に身を委ねる。


 意識が、ゆっくりと沈んでいく。


 さっきまでのざわつきは、もうない。


 代わりにあるのは静かな安心感。



 外では風が吹いている。


 テントがわずかに揺れる。


 だが、その中は温かい。


 両隣りで眠る蓮也と嶺二の穏やかな寝息。


 それらが、自然と意識を落とす。


「……」


 もう言葉はない。


 考えも、薄れていく。


 ただーー


 静かに。


 ゆっくりと。


 眠りへと落ちていった。


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