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異世界から勇者をスカウトしに来た宮廷魔導師、現代が快適すぎて任務を忘れかけています。  作者: ココアバナナ
第3章【穏やかな日々】

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ep.43「火を囲む時間」


 焚き火の炎が静かに揺れている。


 パチパチと薪が弾ける音。


 風が木々を揺らす音。


 街では聞こえない、自然の音だけが鼓膜を震わせる。


「じゃあ、焼いてくわよ」


 蓮也が網の上に食材を並べる。


 肉。


 野菜。


 香ばしい匂いが辺りに広がる。


「……」


 その様子を、じっと見る。


「なにその顔」


「観察だ」


「ただの食いしん坊の顔よそれ」


 違う。


 これはーー


(……調理工程の確認だ)


 焼き加減。


 火力と食材の配置。


 その全てに無駄がないかを見ているだけだ。


「ほら、あんたもやりなさい」


「いいのか」


「やりたいんでしょ」


 否定はしない。



 トングを受け取ると肉を掴む。


 網に乗せるとジュワッと焼ける音。


「なるほど。これは中々……」


 少し位置をずらす。


 火の強い場所と弱い場所を見極める。


「ちょっと、うまくない?」


 蓮也が覗き込んできた。


「そうか?」


「普通初めてだと何かしら焦がすのよ」


「構造は単純だ」


 火と位置関係。


 それだけの話だ。



 肉を裏返す。


 油が落ちて火が上がる。


「……面白いな」


 ぽつりと漏れる。


「でしょ?」


「変化が分かりやすい」


「バーベキュー向いてるんじゃない?」


「そうかもしれんな」



 焼けた肉を頬張る。


「……美味いな」


「自分で焼いたからでしょ」


「それもあるだろうな」


 だが、それだけではない。


 環境要因も大きく影響してそうだ。



 しばらく、三人で焼いては食べる。


「……いいな、これ」


 ぽつりと呟くと蓮也が笑う。


「こういうのがキャンプの醍醐味よ」


「なるほど」


 納得する。


 これは確かに悪くない。



 食事を終えて暫く談笑していると蓮也が立ち上がった。


 荷物を漁る。


「次はこれ」


 グラスを取り出す。


 瓶に入った液体。


「何だそれは」


「ホットカクテルを作るわ」


「……酒か」


「温かいやつ」


 何かを混ぜて火にかける。


 そして温まったところでグラスに注がれる。


「……」


 興味が湧く。


「ほら」


 手渡される。


 グラスの取っ手に指を通す。


「……」


 一口飲むと柔らかい甘さが広がる。


 温かい酒が喉を通る感覚。


「……変わっているな」


「でも良いでしょ」


「ああ」


 体の内側から温まる。


 何故かほっとする。



 グラスを手に持ち、三人で焚き火を囲む。


 ふと、蓮也が口を開く。


「……さ」


「なんだ」


「あんたさ」


 少しだけ間を置く。


「ほんと、どこでも順応するわよね」


「そうか?」


「そうよ」


 苦笑混じり。


「普通もうちょい戸惑うもんでしょ」


「戸惑っていたぞ」


「最初だけでしょ?」


 否定はしない。


「必要があれば、適応するだけだ」


「それが結構簡単じゃないのよ」


 小さく笑う。


「まあ、向いてんだろ」


「何がだ」


「こういうのが」


 嶺二が焚き火を顎で示す。


 自然。


 環境。


 この時間。


「元いた世界ではこういうのが当たり前だったからな」


 少しだけ考える。


 火の揺れを見つめる。


 音。


 空気。


 全てが静かに流れていて、懐かしい感覚。


「どんな所なの?あんたの世界って」


「そうだな……この前やったRPGゲームに似てる」


「知らない間にそんなゲームにまで手出してたの!?」


 嶺二が喉をクツクツと鳴らし肩を揺らして笑っている。


「……」


 カップを傾ける。


 温かい液体が喉を通る。


「電気は無く街中の灯りはガス灯だ」


「暖を取るのは?」


「暖炉だな」


「娯楽はあるのか」


「もちろんだ。玩具も祭りもある」


「へぇ」



 それからクリスタリア王国の話を時折アイリーンやその幼馴染の名前も出しつつ続けた。


 火はまだ燃えている。


 空を見上げると元いた世界と変わらない満点の星が広がっている。


 その中で何も特別なことは起きていない。


 この時間、この瞬間は。


「……いい時間だな」


 心からそう思った。


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