ep.43「火を囲む時間」
焚き火の炎が静かに揺れている。
パチパチと薪が弾ける音。
風が木々を揺らす音。
街では聞こえない、自然の音だけが鼓膜を震わせる。
「じゃあ、焼いてくわよ」
蓮也が網の上に食材を並べる。
肉。
野菜。
香ばしい匂いが辺りに広がる。
「……」
その様子を、じっと見る。
「なにその顔」
「観察だ」
「ただの食いしん坊の顔よそれ」
違う。
これはーー
(……調理工程の確認だ)
焼き加減。
火力と食材の配置。
その全てに無駄がないかを見ているだけだ。
「ほら、あんたもやりなさい」
「いいのか」
「やりたいんでしょ」
否定はしない。
◇
トングを受け取ると肉を掴む。
網に乗せるとジュワッと焼ける音。
「なるほど。これは中々……」
少し位置をずらす。
火の強い場所と弱い場所を見極める。
「ちょっと、うまくない?」
蓮也が覗き込んできた。
「そうか?」
「普通初めてだと何かしら焦がすのよ」
「構造は単純だ」
火と位置関係。
それだけの話だ。
◇
肉を裏返す。
油が落ちて火が上がる。
「……面白いな」
ぽつりと漏れる。
「でしょ?」
「変化が分かりやすい」
「バーベキュー向いてるんじゃない?」
「そうかもしれんな」
◇
焼けた肉を頬張る。
「……美味いな」
「自分で焼いたからでしょ」
「それもあるだろうな」
だが、それだけではない。
環境要因も大きく影響してそうだ。
◇
しばらく、三人で焼いては食べる。
「……いいな、これ」
ぽつりと呟くと蓮也が笑う。
「こういうのがキャンプの醍醐味よ」
「なるほど」
納得する。
これは確かに悪くない。
◇
食事を終えて暫く談笑していると蓮也が立ち上がった。
荷物を漁る。
「次はこれ」
グラスを取り出す。
瓶に入った液体。
「何だそれは」
「ホットカクテルを作るわ」
「……酒か」
「温かいやつ」
何かを混ぜて火にかける。
そして温まったところでグラスに注がれる。
「……」
興味が湧く。
「ほら」
手渡される。
グラスの取っ手に指を通す。
「……」
一口飲むと柔らかい甘さが広がる。
温かい酒が喉を通る感覚。
「……変わっているな」
「でも良いでしょ」
「ああ」
体の内側から温まる。
何故かほっとする。
◇
グラスを手に持ち、三人で焚き火を囲む。
ふと、蓮也が口を開く。
「……さ」
「なんだ」
「あんたさ」
少しだけ間を置く。
「ほんと、どこでも順応するわよね」
「そうか?」
「そうよ」
苦笑混じり。
「普通もうちょい戸惑うもんでしょ」
「戸惑っていたぞ」
「最初だけでしょ?」
否定はしない。
「必要があれば、適応するだけだ」
「それが結構簡単じゃないのよ」
小さく笑う。
「まあ、向いてんだろ」
「何がだ」
「こういうのが」
嶺二が焚き火を顎で示す。
自然。
環境。
この時間。
「元いた世界ではこういうのが当たり前だったからな」
少しだけ考える。
火の揺れを見つめる。
音。
空気。
全てが静かに流れていて、懐かしい感覚。
「どんな所なの?あんたの世界って」
「そうだな……この前やったRPGゲームに似てる」
「知らない間にそんなゲームにまで手出してたの!?」
嶺二が喉をクツクツと鳴らし肩を揺らして笑っている。
「……」
カップを傾ける。
温かい液体が喉を通る。
「電気は無く街中の灯りはガス灯だ」
「暖を取るのは?」
「暖炉だな」
「娯楽はあるのか」
「もちろんだ。玩具も祭りもある」
「へぇ」
◇
それからクリスタリア王国の話を時折アイリーンやその幼馴染の名前も出しつつ続けた。
火はまだ燃えている。
空を見上げると元いた世界と変わらない満点の星が広がっている。
その中で何も特別なことは起きていない。
この時間、この瞬間は。
「……いい時間だな」
心からそう思った。




