ep.42「野営の心得」
ーーキャンプ地。
空気そのもの街とはが違う。
静けさ。
風が木々を揺らし、葉の擦れる音が耳に心地良い。
「さて、と」
蓮也が軽く手を叩く。
「まずはテント設営ね」
視線を向ける。
嶺二が袋から取り出しているのは布と骨組み。
(……簡易的だな)
「組み立てるから手伝え」
「ああ」
頷いて部品を見る。
支柱と布。
それから接続部分。
(……単純だな)
「ここ持ってろ」
嶺二が指示を出す。
「必要ない」
「あ?」
無視して動く。
支柱を通す。
角度を固定。
布を張る。
ペグを打ち込んで地面に固定。
手際よく組み上げていく。
「ちょ、ちょっと待って!?」
「……こんなものか」
数分後。
テントが完成した。
「……」
「……」
沈黙。
「……はっや」
「野営は経験がある」
「キャンプじゃなくてガチのやつじゃないそれ!?」
嶺二が小さく笑う。
「手慣れてんな」
「まあな」
当然だ。
◇
「じゃあ次、火起こしね」
蓮也が道具を取り出す。
「これで火つけるの」
細い木。
着火材。
火打ち道具。
「……遅いな」
「は?」
「貸せ」
「いやいやいや!」
制止の声に耳を傾ける事なく、軽く手をかざす。
空気を感じる。
流れ。
密度。
この場所はーー
(……濃いな)
街とは違う。
自然に満ちたエネルギー。
扱いやすい。
指先に意識を集中する。
ほんの僅か。
ほんの小さな干渉。
ーーボッ
火が灯る。
「……」
「……」
沈黙。
「……今の何?」
蓮也がゆっくりと聞く。
「火だ」
「見れば分かるわよ!」
嶺二が目を細める。
「……便利だな」
「だろう」
蓮也が頭を抱える。
「なにそれ!?どうやったの!?」
「簡単だ」
火を見つめる。
「この場所はエネルギーが多い」
「エネルギー?」
「簡単に言うなら……そうだな」
少し考える。
「魔力に近い」
「……は?」
「自然に満ちている」
手をかざす。
空気がわずかに揺れる。
「少し触れただけだ」
「いや意味わかんないんだけど!?」
当然の反応だろうが、説明は難しい。
「理屈ではない」
「一番困るやつ来た!」
嶺二が小さく笑う。
「まあ火ついたならそれでいいだろ」
「兄貴!?よくないわよ!?」
◇
焚き火が安定すると炎がゆらゆらと揺れる。
その灯りが三人を照らす。
「……いいな」
「こういうのも悪くないでしょ」
「ああ」
頷く。
火や風に伴う音。
全てが自然だ。
(……落ち着くな)
◇
簡易的な椅子に腰を下ろす。
夜空を見上げる。
「……星が多いな」
「街より空気綺麗だからね」
「なるほど」
焚き火に視線を落とす。
揺れる炎。
会話と笑い声。
穏やかで静かな時間。
(……)
この環境。
この空気。
この時間。
どれもーー
「……悪くない」
小さく呟く。
「そればっかりねあんた」
「事実だ」
嶺二が肩をすくめる。
「気に入ったならいいだろ」
「ああ」
頷く。
これはただの外出ではない。
日常の延長。
だが、少しだけ違う。
そして、その違いがーー
(……面白い)
そう感じながら。
静かに、火を見つめていた。




