表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界から勇者をスカウトしに来た宮廷魔導師、現代が快適すぎて任務を忘れかけています。  作者: ココアバナナ
第2章【この世界での過ごし方】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
36/62

ep.36「理解不能な記号」


 本を開く。


 視線を落とし、文字を追う。


 あれからずっと繰り返すこの作業。


「……」


 読んでは理解する。


 問題ない。


 ーーはずだった。


「……何故だ」


 ページの一点で視線が止まる。


 そこに書かれている文字。


「……同じだな」


 指でなぞる。


 そして、次の行。


「……違う?」


 目を細める。


 さらに別の行。


「……いや、同じだろう」


 もう一度確認する。


「……違うな」


 沈黙。


「……何故だ」



「さっきから何?」


 蓮也がソファに寄りかかりながら言う。


「本と睨めっこして」


「文字だ」


 本を持ち上げる。


「この文字。同じ形に見えるが、意味が違う」


「あー……」


 察した顔。


「どれ?」


 手元の本を覗き込まれる。


「あ、これ?“生”ね」


「……“生”」


「そう」


「意味は」


「えっとね」


 少し考える。


「“いきる”、“なま”、“せい”、“しょう”……あと“うまれる”とか」


「……」


 沈黙。


「……何だそれは」


「漢字よ」


「一つの文字に複数の意味を持たせる必要があるのか?」


「そういうものなのよ」


「合理性に欠けるな」


「またそれ」


 ため息。


「じゃあこれは?」


 別の文字を指す。


「“上”」


「意味は」


「“うえ”、“じょう”、“あがる”、“のぼる”……」


「……」


 沈黙。


「……何だそれは」


「だから漢字よ」


「……おかしいだろう」


 真顔で言う。



「待て」


 手元の本を閉じる。


「整理する」


「はいはい」


 蓮也が適当に相槌を打つ。


「同じ文字に複数の読みが存在する」


「合ってる」


「さらに意味も変化する」


「そうね」


「文脈によって判断する必要がある」


「そうそう」


「……面倒だな。いや」


 首を振る。


「面倒というより……不親切だ」


「そこ!?」


 思わず声が上がる。


「もっと他に何かあるでしょ!?」


「ない。これは設計段階で問題がある」


「言語に設計とか言うんじゃないわよ!」


「……まだあるぞ」


 再び本を開く。


「これは何だ」


「どれ?」


「“今日”」


「あー」


「“きょう”だろう」


「そうね」


「ならばこちら」


 次のページを指す。


「“昨日”」


「“きのう”」


「……何故だ」


「え?」


「何故“今の日”と書いて“きょう”で、“昨の日”と書いて“きのう”になる」


「……」


 蓮也が黙る。


「説明しろ」


「……雰囲気?」


「却下だ。納得できない」


「無茶言わないでよ!」



「結論」


 本を閉じる。


「漢字は理解不能だ。だが」


 指で紙面を軽く叩く。


「面白い」


「……は?」


「規則性が不完全だ」


「褒めてる?」


「例外が多い」


「褒めてるの?」


「だからこそーー」


 少しだけ口角が上がる。


「解析しがいがある」


「うわ出た」


 呆れた声。


 だが、止まらない。


「よし」


 ページをめくる。


「次だ」


「まだやるの?」


「当然だ」


「飽きないの?」


「未知だぞ?」


 当然だろう、と言わんばかりの顔。


「……ほんと、あんたって」


 蓮也が小さく笑う。


 その隣で再び文字を追い始めた。


 理解不能。


 非効率。


 非合理。


 だがーー


(……やはり)


 ページをめくる。


 思考を巡らせる。


(面白いな)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ