ep.35「難解な言語」
ーーとある日の昼下がり。
特にする事もなく、視線を巡らせる。
その時。
「……」
棚に並べられた本が目に入った。
(……本か)
立ち上がり、棚の前へ行くと適当に一冊、手に取る。
表紙を開く。
「……」
並ぶ文字を目で追う。
(……妙だな)
別の本を開く。
今度は、別の文字。
形が違う。
さらに別の本。
また違う。
「……ある程度の文字は習得したが……この世界の言葉は難解だな……どれ程の種類があるんだ」
思わず呟く。
「何ぶつぶつ言ってんの?」
蓮也の声に振り返る。
「本を読んでいた」
「見れば分かるわよ」
呆れたように言われた。
「で?」
腕を組む。
「何が難解なの?」
「文字だ」
本を軽く掲げる。
「形が統一されていない」
「あー……」
蓮也が納得したように頷く。
「そうねぇ……この国だけでも文字は大きく分けても平仮名、片仮名、漢字の三種類あるし」
「……三種類」
「世界共通言語はあるけど、だからと言って世界中の全員が習得してる訳じゃないし……その国によっても言葉や文字も違かったりするわよ?母国語ってやつ」
「なにっ!?」
思わず声が上がる。
「国によって言語が異なるのか!?」
「一概にそうとは言えないけど……まぁ、ね?」
「見せてくれ!興味を惹かれる!」
身を乗り出す。
「はいはい……」
少し引きながら、スマホを取り出した蓮也が操作している。
「例えばこれ」
画面を見せられる。
並ぶ文字は街中でよく見かける物だ。
「……これはよく見かけるな」
「英語」
「えいご」
「他にもあるわよ」
指を滑らせる。
次々と表示される文字。
「アラビア文字、キリル文字……デーヴァナーガリー文字とか」
「……」
沈黙。
だが、俺の目は明らかに輝いているだろう。
(……面白い)
単一ではない。
複数。
地域によって異なる形態。
「……効率は悪いな」
「そう?」
「統一されていれば伝達速度は上がるはずだ」
「まあね」
肩をすくめる。
「でもそれが文化ってやつよ」
「文化……」
小さく繰り返す。
もう一度、本に視線を落とす。
それぞれの文字が持つそれぞれの意味。
形と音。
それぞれが繋がっている。
(……深いな)
単なる情報伝達手段ではない。
歴史。
地域。
思想。
全てが絡んでいる。
「……面白い」
素直にそう思う。
「そうでしょ?」
蓮也が笑う。
「ハマりそう?」
「既にハマっている」
「でた」
呆れた声。
だが気にしない。
ページを捲る。
読み進める。
「……続けるぞ」
「何を?」
「習得だ」
「真面目か」
軽く笑われる。
だがーー
問題はない。
未知は、解明するものだ。
そして。
この世界は。
(……やはり、退屈しないな)




