ep.34「極楽施設」
この日も俺はいつも通りソファに腰掛け、スマホ画面に指を滑らせる。
同じ図柄を繋げる。
消える。
また繋げる。
(面白い)
無駄がない。
思考と反射の訓練にもなる。
「またやってんの?」
背後から声が聞こえて振り返ると、蓮也が呆れた顔で立っていた。
「問題あるか」
「あるわよ」
腕を組む。
「インドア極めすぎでしょ」
「元いた世界でも屋内に居る事が多かったからな」
「はいはい」
ため息。
そして。
「外行くわよ」
「……どこへだ」
「いいから」
嫌な予感しかしない。
だがーー
(観察対象としては悪くないか)
「構わん」
◇
連れて来られたのは、大きな建物だった。
人の出入りが多い。
だが、どこか落ち着いている。
「ここよ」
蓮也が振り返る。
「健康ランド」
「……健康」
単語は理解できる。
「何をする場所だ」
「全部」
「曖昧だな」
「入れば分かるわよ」
「結局屋内なのか」
「煩いわねぇ!細かい事言ってんじゃないわよ!」
「……細かくはないと思うんだが」
中へ入る。
靴を脱ぐ。
受付で鍵を渡され、説明された。
(……システムは理解した)
「まずはお風呂ね」
「風呂か」
問題ない。
すでに蓮也のマンションで経験済みだ。
だがーー
中へ入った瞬間。
「……広いな」
思わず呟く。
浴槽が複数。
「取り敢えず掛け湯するわよ」
「掛け湯?」
「入る前に体の汚れを流すの。みんなで入るお風呂だからね」
「なるほど、マナーか」
「そういう事」
蓮也を真似て掛け湯をしてから見て回る。
「……何だこれは」
視線を向ける。
泡が勢いよく噴き出している。
「ジェットバス」
「……水属性の攻撃ではないのか」
「違うわよ!」
呆れた声。
「まぁ入ってみなさいって」
言われるままに入る。
ーードゴォッ
「……っ!?」
強い水圧にボコボコと背中を叩かれる。
押される。
「……何だこれは」
「んー……水圧でのマッサージみたいなもんよ」
「……なるほど」
しばらく沈黙。
(……悪くない)
むしろーー
(気に入った)
筋肉への刺激。
血流の促進。
「……楽しいな」
「でしょ?」
満足げな声。
◇
風呂から上がる。
体が軽い。
妙に整っている。
「どう?」
「……悪くない」
「気に入った?」
「ああ。毎日来たい」
「贅沢言わないで」
そのまま移動する。
休憩スペース。
横になれる椅子。
静かな空間。
「……」
座って背を預ける。
「……これは」
「リクライニングチェア」
「……動くのか」
操作する。
背もたれが倒れる。
「……」
(……良いな)
そのまま目を閉じる。
意識が緩む。
「……」
ほんの一瞬。
違和感。
あの感覚。
共鳴。
(……またか)
完全には消えていない。
むしろーー
(強くなっているな)
だが。
危険ではない。
「ちょっと!寝ないでよ?」
蓮也の声。
「寝ていない」
「寝かけてたでしょ」
否定は出来ない。
◇
「で、次はこれ」
食事処。
「……メニュー豊富だな」
「好きなの選びなさい」
しばらく考える。
そして。
「これだ」
「エビフライ定食ね」
「非常に気になる」
「はいはい」
注文して暫く、目の前で輝くエビフライ定食。
一口食べる。
「……美味いな。サクサクブリッだ」
「ブリッ……きったない音だわね」
軽く笑われる。
その時。
「……ん?」
手が止まる。
「どうしたの?」
「……来るな」
「またなの!?」
だが。
今回はーー
「……ここか」
背後から声。
振り返ると、嶺二がいた。
「なんで健康ランドにいんのよ!」
「たまたまだ」
「絶対違うでしょ!」
(……精度が上がっている)
距離。
方向。
完全に把握できている。
「エビフライ俺にもくれ」
「自分で注文しろ、これは俺のだ」
「で?どうよ健康ランドは」
「……この施設、悪くない」
蓮也が笑う。
嶺二も小さく息を吐いた。
「明日も来るか」
「ハマってるじゃない!明日は来ないわよ精々二週間に一度とかにして!」
穏やかな空間。
温かい湯。
整った体。
美味い食事。
全て含めて。
この世界は。
「……快適だな」




