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異世界から勇者をスカウトしに来た宮廷魔導師、現代が快適すぎて任務を忘れかけています。  作者: ココアバナナ
第2章【この世界での過ごし方】

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ep.31「残る気配」


 この部屋は今日も変わらず落ち着いている。


 特に何も起きていない。


 問題もない。


 平穏そのものーー


 のはずだが。


「……」


 少しばかりの変化。


 昨日の共鳴。


 あの“繋がり”。


(……まだ残っているな)


 意識すると、微かに感じる。



 テーブルの上に、蓮也から貰った白い紙を置く。


 この世界の紙は随分と上質なようだ…… 俺が居た世界で使っていた羊皮紙とは、まるで別物だ。


 その隣に、細い棒のようなもの。


(……これで書くんだったな)


 ボールペン。


 というらしい。


 持ち上げると、とてつもなく軽い。


 指に妙に馴染む、柔らかな感触。


 ペン先を紙に当てる。


「……」


 線を引く。


 ーー何も書けない。


「……?」


 もう一度。


 やはり書けない。


「……何故書けない」


 思わず呟く。


「前に教えたでしょう!?」


 蓮也が即座に俺の手からペンを取り上げる。


「これよ、これ」


 ペンの後ろを押す。


 ーーカチッ


 先端から、小さな芯が現れる。


「……」


 沈黙。


「……出たな」


「出たな、じゃないのよ!」


「……仕組みは理解した」


「ほんとに?」


 再びペンを受け取る。


 今度こそ紙に当てる。


 線が引かれる。


「……書けた」


「そりゃそうよ!」


 小さく息を吐く。


 携帯性は悪くない。


 合理的と言えなくもない。


「何してんの?」


 蓮也が覗き込む。


「手紙だ」


「へぇ、アイリーンに?」


「ああ」


 頷く。


 文字を書き始める。


 するとーー


「……それ、何語?」


 蓮也が首を傾げる。


「見た事ない文字なんだけど」


「そうだろうな」


 ペンを動かしながら答える。


「俺の世界の言語だからな」


「え、ちょっと待って」


 紙を覗き込む。


「これ、私読めないじゃない」


「読める必要はない」


「まあそうだけど……なんか悔しい」


 意味不明な感想だ。


 だが、気にしない。


 そのまま書き続ける。


 しかし、今度はインクがかすれる。


 力を強めると滲む。


「……難しいな」


「力入れすぎなのよ」


 再び手を取られる。


「こう、軽く」


 滑らかに線が引かれる。


「……なるほど」


 もう一度、自分でやる。


 今度は安定する。


「……書けたな」


「さっきも聞いた」


 小さく息を吐く。


 そして、文字を並べる。


 異世界。


 共鳴。


 対象。


 現状。


 必要な情報だけを簡潔に。


 そしてーー


 最後に、手が止まる。


「……」


「どうしたの?」


「いや」


 少しだけ考える。


 そして。


 一行、付け加える。


 ーーアイリーン、お前の事だから心配はないだろうが……元気にやっているのか?ーー


(……まあ、いいだろう)


 ペンを置く。


「終わりだ」


「早くない?」


「必要なことは書いた」


「ところでその手紙ってどうやって届いたり送ったりしてんの?」


「月に一度、魔導師団でコチラへの道を開いている。その時に……そうだな、分かりやすく言えばワープさせているような感じだ」


「何それすっご……」



 ーー夕方。


 外。


 人の流れは穏やかだ。


「で?」


 蓮也が隣で歩きながら言う。


「今日は何すんの?」


「特にない」


「珍しいわね」


「そうか?」


 その時。


「……」


 足が止まる。


「……来るぞ」


 そしてーー


「……居たか」


 背後から声。


「兄貴!?なんで後ろにいんのよ!」


「普通に来ただけだ」


「気配消しすぎでしょ!」


(……やはりな)


 確信に変わる。


「感じたか」


「ああ」


 短いやり取り。


 それだけで通じる。


「何その会話」


 蓮也が呆れる。


 嶺二が軽く肩を回す。


「……距離、分かるな」


「精度が上がっている」


「だろうな」


 この感覚は。


 制御されつつある。


 そしてーー


 確実に強くなっている。


「……やはり今日は何もしなくていいな」


「ほんとに?」


「本当だ」


 そう言いながら視線を逸らす。


(……ゲームのイベントがあるからな)


「絶対なんかある顔してる!」


 鋭い。


 だが、問題はない。


 空は穏やかだ。


 街も、いつも通りだ。


 だがーー


 その中に、確かに。


 “繋がり”は残っている。


 静かに。


 確実に。


 変化は続いていた。


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