ep.29「引き寄せられる力」
ーーカフェ。
静かな空間。
(……来るな)
視線を入口へ向けたまま、俺は動かないでいた。
「さっきから何?」
蓮也が不審そうに覗き込む。
「入口ばっかり見て」
「……いや」
短く返しながらも視線は逸らさない。
「誰か来るの?」
「来る」
「誰よ」
「すぐに分かる」
「何よそれ」
当然の反応だった。
(近いな)
距離も邦楽も分かる。
そして。
その感覚は、間違いなく嶺二のものだ。
扉が開いた。
カラン、と小さな音。
同時に。
「……いたな」
低い声。
嶺二だった。
「……は?」
蓮也が固まる。
「なんで兄貴がここに?」
「……なんとなくだ」
それだけだった。
「いや意味分かんないんだけど」
「俺もだ」
そして視線は俺へと向いた。
「……感じたか」
「ああ」
短い会話。
それだけで通じる。
「何その通じ合ってる感じ」
蓮也が眉をひそめる。
「怖いんだけど」
「お前もだ」
「は?」
「さっきの」
視線が向けられる。
「出てたぞ」
一瞬、間が空く。
「……あれ?」
蓮也が小さく呟く。
「やっぱ気のせいじゃなかったの?」
「違うな。明確に“出ていた”」
「なによそれぇ」
「問題ない」
「ほんとに?」
「制御されていないだけだ」
「それ問題あるやつでしょ」
嶺二が蓮也の隣に腰を下ろす。
「……で?」
短く問う。
「どうなってる」
「単純だ」
カップを傾け、一口飲む。
「距離に関係なく“繋がる”」
「……は?」
「共鳴だ。お前たちの力は、独立していない。相互に影響する」
沈黙。
「……つまり?」
蓮也がゆっくりと口を開く。
「さっきのアレで、兄貴に繋がったってこと?」
「そうなるな」
「いや、なんだか便利ね」
嶺二は小さく笑った。
「違いねぇ」
「連絡の必要ないし」
「位置も分かる」
「合理的だろう?制御すれば問題ない」
「その制御が出来てないんだけど!?」
「慣れろ」
「またそれ!!」
そのやり取りに、嶺二が小さく息を吐く。
「……で」
視線が向く。
「どうすんだ」
少しだけ考える。
そして。
「そのままでいい」
「いやよくないでしょ!」
「この前も言ったが、段階的に慣れればいい」
「ほんと適当よねあんた」
「本質だ」
「それ便利な言葉すぎるでしょ!」
「喧しいな……アイリーンみたいな事を言うな」
騒がしい声に元の世界に居る妹を思い出す。
月に一度の手紙で報告すべきだろうか……とても面倒だ。
だが、やはり報告しなければならない。
嶺二と蓮也の力は、より明確に、より深く、繋がった。
ただ、この二人の力は独立していない。
その全てを報せておかなければ、向こうに戻った時にガミガミと煩く言われるのは目に見えている。
(……まぁ、たまには面倒も悪くないか)
そう思う。
理由は単純だ。
この現象は。
この繋がりは。
「……面白いからな」
小さく呟いた。




