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異世界から勇者をスカウトしに来た宮廷魔導師、現代が快適すぎて任務を忘れかけています。  作者: ココアバナナ
第2章【この世界での過ごし方】

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ep.28「零れた力」


「いやー、面白かったわね」


 蓮也が伸びをする。


「そうか」


「そうかじゃないでしょ」


 軽く笑われる。


 擦れ違う人の流れ。


 騒音。


 日常の中に戻ってきた感覚。


「ちょっと休んでく?」


 蓮也がふと立ち止まる。


「近くにカフェがあるのよ」


「そうか」



 店内は静かだった。


 外とは違う。


 曲は流れているが音が抑えられている。


 空気も落ち着いている。


(……こういう場所もあるのか)


 案内された席に着く。


「セレス、何にする?」


「映画館では甘い物にしたからな……今度は甘くない物がいい。何かあるか?」


「そうねぇ……じゃあ任せて」


 ーー注文から少しして目の前に置かれた飲み物。


「これは?」


「ホットコーヒーよ」


 一口飲む。


「……苦いな。だが、悪くない」


「そうでしょう?ここのは格別良い豆使ってるのよきっと!」


 香りが残る。


 それが不思議と嫌ではない。


 寧ろ心地良い。


「すっかり慣れたわね」


「順応は早い方だ」


「それは見てて分かる」


 軽く笑う。


 静かな時間が流れる。


 会話も少ない。


(落ち着くな)


 そう感じた。


 その時だった。


 カップが、わずかに揺れた。


「……?」


 視線を落とす。


 波紋。


 ほんの一瞬。


 だが確かに揺れた。


(風ではないな)


 店の扉は閉じている。


 原因がない。


 その直後。


 空気が微かに変わる。


「……っ」


 隣を見ると蓮也の様子がおかしい。


「どうした」


「……え?」


 本人は気付いていない。


(……零れ出ているな)


 力が。


 無意識に。


「……何これ」


 蓮也が眉を寄せる。


「なんか、変じゃない?」


「感じるか」


「ちょっとだけ」


 その瞬間。


 空気がさらに揺れた。


 密度が増す。


「……」


 俺は静かに目を細めた。


(強いな)


 今までとは違う。


 偶発ではない。


 “出ている”。


 それもーー


(制御されていない)


 映画の余韻で高揚しているからか……


「蓮也」


「なに?」


「落ち着け」


「は?」


「いいから」


 短く言う。


 一瞬の間。


 そしてーー


 すっと、空気が戻る。


「……あれ?」


 蓮也が周囲を見る。


「今の何?」


「……気のせいじゃないな」


 小さく呟く。


「何よそれ怖いんだけど」


「問題ない」


 そう言うがーー


(実質、問題はあるな)


 確実に、段階が進んでいる。


 これはーー



 ーー同時刻。


 別の場所。


「……おい」


 低い声。


 嶺二だった。


 目の前の男が動きを止める。


「どうしたんですか」


「……いや」


 一瞬だけ、間が空く。


(……蓮也、か)


 分かる。


 覚えのあるあの感覚。


 あの重なり。


「……少し外す」


「え?」


「すぐ戻る」


 それだけ言って、歩き出す。


 足は迷わない。


 理由も、説明もない。


 それでも確信している。



 ーーカフェ。


 再び静かな時間。


 だがーー


 先程とは異なる。


(……来るな)


「どうしたの?」


 蓮也が覗き込む。


「いや」


 短く答える。


 そしてーー


 入口の方へ視線を向ける。


 まだ、誰もいない。


 だが。


(……間違いない)


 近づいている。


 その感覚だけが、はっきりとあった。


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