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異世界から勇者をスカウトしに来た宮廷魔導師、現代が快適すぎて任務を忘れかけています。  作者: ココアバナナ
第2章【この世界での過ごし方】

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ep.27「立体の幻」


 ーー穏やかな昼下がり、それまで寝ぼけ眼で歯磨きをしていた蓮也が突然叫んだ。


「映画行くわよっ!」


「……えいが?」


「映像を見るやつ」


「映像は分かる」


「じゃあ問題ないわね」


 問題はある気がしたが、既に腕を引かれている。


(……強引だな)


「観たいやつ今日公開なの忘れてたわ!」



「アイスティーのMと…」


「アイスホイップココアを頼む」


「あ、それもMサイズでお願い」


 売店で飲み物のみを購入した。なんでも蓮也は映画館で何かを食べられるのは気が散って嫌いらしい。


 飲み物を持って蓮也に着いて行くと辿り着いたのはこの世界にしては広い部屋だった。


 椅子が並んでいる。


 人も多い。


「ここで見るのよ、席はGの10と11ね」


 蓮也が言う。


「……ふむ」


 指定された咳に座る。


「映画中は静かにしてなさいよ?スマホゲームもダメよ」


「なにっ!?ゲームもダメなのか!?」


「当たり前でしょ!?どんだけハマってんのよ!?電源落としなさい」


 その時。


 光が落ちた。


 室内が暗くなる。


「……っ」


 わずかに身構える。


「静かに。はい、このメガネして」


「何だこの左右で色の違うメガネは……」


「いいから」


 蓮也に促されるがままにメガネをかける。


 直後ーー


 映像が映し出された。


「……」


 すぐそばで動いている。


 人が。


 風景が。


(……なるほど)


 これは“映像”だ。


 その瞬間。


 ーードンッ!!


「……っ!」


 反射的に体が動く。


 迫る影。


 距離は、近い。


 だが触れる事はない。


「……幻影魔術かっ……!?」


 思わず声が出た。


「しっ!違うわよ」


 蓮也が即座に否定する。


「3D」


「……すりーでぃ?」


「飛び出して見えるだけ」


「……見える、だけ?」


「そう、錯覚」


 視線を戻す。


 確かに、当たっていない。


(距離感が狂うな)


 明らかに近い。


 だが存在しない。


 手を伸ばす。


 何も触れない。


「……妙な技術だ」


「でしょ?」


「実体がないのに、距離を誤認させる」


 視線を細める。


「……幻影ではない、か」


「だからそう言ってるでしょ」


 だが、見続ける。


 音。


 振動。


 映像。


 全てが連動している。


 徐々に慣れてきた。


 構造が分かる。


 視覚の錯覚。


 立体の再現。


「……なるほど」


 小さく呟く。


「理解した」


「早くない?」


「原理は単純だ」


「ほんとに?」


 そのまま見続ける。


 映像の中で、何かが崩れる。


 飛び散る。


 こちらへ迫る。


(問題ない)


 もう反応しない。


 ただ、観察する。


「……慣れたぞ」


 蓮也が小さく笑う。



 映像が終わって外に出る。


「どうだった?」


「悪くない。没入してしまった」


 正直な感想だった。


「でしょうね」


 歩きながら、少しだけ考える。


 さっきの映像。


 実体はなかった。


 だが、確かに“そこにある”と認識した。


(……似ているな)


 共鳴に。


 力に。


 見えないが、確かに存在するもの。


「……どうしたの?」


 蓮也が覗き込む。


「いや」


 思考を切る。


「少し、面白いと思っただけだ」


 それだけだった。


(……立体の幻、か)


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