ep.26「ゆるい訓練」
ーー真昼間の外。
人の少ない場所。
「で?」
蓮也が腕を組む。
「今日は何すんのよ」
「訓練だ」
短く答える。
「……ほんとにやるのね」
「この前言っただろう」
「そのうちやる、みたいな感じだったから信用してなかったのよ」
失礼な話だ。
否定はしないが。
「軽くだ」
続ける。
「無理にやる必要はない」
「訓練って普通そういうもんじゃないでしょ」
「この場合は違う」
視線を向ける。
「前にも言ったが、今の目的は“慣れ”だ」
「慣れ?」
「そうだ」
頷く。
「お前たちは既に力に触れている」
嶺二が小さく息を吐いた。
「で、どうすりゃいい」
「簡単だ」
少し考える。
「動け」
「前もそれだったじゃない!」
「本質だ」
蓮也がため息を吐く。
「もうちょい説明できないの?」
「出来なくないが……不要だ。と言うかぶっちゃけると面倒くさい」
「ほんと雑!」
だが、嶺二は動いた。
一歩。
踏み出す。
その瞬間。
空気が、わずかに揺れる。
(……やはりな)
視線を向ける。
僅かだが、確かに変化している。
「今のだ」
「……何もしてねぇぞ」
「気付いていないだけだ」
次に蓮也を見る。
「お前もだ」
「えー……」
露骨に嫌そうな顔。
「面倒」
「いいから動け」
「はぁ……」
仕方なさそうに一歩。
その瞬間。
再び、空気が揺れる。
今度はーー
重なる。
(……来たな)
嶺二の動きと、わずかに干渉する。
完全ではない。
だがーー
「……今の」
蓮也が眉を寄せる。
「なんか、変じゃなかった?」
「感じたか」
「ちょっとだけね」
嶺二も同じだった。
「……空気が重なったみてぇな」
「それだ」
頷く。
「それが“共鳴”だ」
沈黙。
「……分かんないんだけど」
「問題ない。そのままでいい」
「いいの?」
「意識しすぎるな」
視線を向ける。
「自然に任せろ」
風が吹く。
静かな空間。
特別なことは何も起きていない。
だがーー
確かに、何かは起きている。
「……こんなもん?」
蓮也が聞く。
「ああ」
「ゆるくない?」
「これでいい」
「ほんとに?」
「最初のうちはな」
嶺二が小さく笑った。
「……まあ、分からなくもねぇな」
「だろ?」
と、言いかけて。
ふと視線を逸らす。
少し離れた場所。
木の枝。
揺れている。
(……今の流れなら)
思考する。
試す価値はある。
「一つ、やってみるか」
「何?」
「見るだけでいい」
指を向ける。
「あの枝」
二人の視線が向く。
「……で?」
「そのまま、動きを意識しろ」
「は?」
「いいから」
数秒。
沈黙。
風が吹く。
枝が揺れる。
その瞬間ーー
わずかに。
揺れ方が変わった。
「……え?」
蓮也が声を漏らす。
「今……」
「触れたな」
小さく呟く。
「……気のせいじゃないわよね」
「ああ」
嶺二も見ている。
「……面白ぇな」
小さく息を吐く。
「これで十分だ」
「え、もう終わり?」
「ああ」
「早くない?」
「長くやる意味はない」
そう判断する。
「じゃあ何すんのよこの後」
「……そうだな」
少し考える。
そして。
「帰るか」
「訓練とは」
「終わっただろう」
「ゆるすぎるでしょ!!」
強いツッコミが入る。
(……腹が減ったからとは言えないな)
確実に、前に進んでいる。
それが分かれば、それでいい。
「……次はもう少しやる」
「ほんとに?」
「多分な」
「信用ならないわね」
そのやり取りも含めて。
この空気もまたーー
悪くなかった。




