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異世界から勇者をスカウトしに来た宮廷魔導師、現代が快適すぎて任務を忘れかけています。  作者: ココアバナナ
第2章【この世界での過ごし方】

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ep.25「この世界の快適さが悪い」


 窓から差し込む光。


 リビングのソファ。


 そしてーー


 手元のスマホ。


 俺はいつも通り、画面に指を滑らせる。


 繋げる。


 消える。


 また繋げる。


 消える。


(……効率が悪いな)


 配置に偏りがある。


 運の要素が強い。


 だがーー


(……それがいい)


 完全な制御ができないからこそ、思考が必要になる。


 面白い。


「……またやってんの?」


 背後から声。


 振り返る。


 蓮也だった。


「問題あるか」


「あるわよ」


 腕を組む。


「最近そればっかじゃない」


「研究だ」


「なんのよ」


 ため息を吐かれたが無視する。


 画面に視線を戻して再び指を滑らせる。


 繋げる。


 消える。


「……ねぇ」


 少し間を置いて、蓮也が口を開く。


「何だ」


「あんたさ」


 じっと見られる。


「満喫してるけど」


「何の話だ」


「この世界」


 そのまま続ける。


「勇者どーのこーのは大丈夫なの?」


「……」


 手が止まり、思考も止まる。


 一秒。


 二秒。


 三秒。


「……あっ」


 間の抜けた声が出た。


「は?」


 蓮也が眉をひそめる。


「今の“あっ”何?」


「……そういえば、あったな」


「忘れてたの!?」


「正確には」


 わずかに間を置く。


「優先順位を下げていた」


「言い方変えただけでしょそれ!」


 正論だった。


 だがーー


(……事実だ)


 この世界は快適すぎる。


 生活に不便がない。


 食事も美味い。


 娯楽も多い。


 俺を取り巻く人間関係も悪くない。


 その結果。


 任務の重要度が相対的に下がる。


「問題はない」


「あるでしょ」


「魔王はまだ確認されていない」


「それはそうだろうけど!」


 その時。


「……うるせぇな」


 奥から声。


 嶺二だった。


 仕事で徹夜してそのまま来たんだとか。


「何騒いでんだ」


「セレスがやばいのよ!」


「何がだ」


「任務忘れてたのよ!?」


「……ああ」


 短い反応。


「まあ、そんな顔してたな」


「気付いてたの!?」


「なんとなくな」


 嶺二が隣に座る。


「で?」


 視線が向く。


「どうすんだ」


「どうする、とは」


「その任務だ」


 少し考える。


 画面を見る。


 盤面はまだ続いている。


(……あと少しで記録更新できるな)


「……後でいい」


「ほら!!」


 蓮也が指を差す。


「絶対そう言うと思った!」


「問題ない」


「問題しかないわよ!」


 嶺二が小さく笑う。


「まだ時間はあるんだろ」


「……ある」


 セレスは頷く。


「ならいいじゃねぇか」


「よくないってば!」


 一人だけ騒がしい。


 だがこんな空気もあながち悪くない。


(……この世界は)


 改めて考える。


 便利で、効率的で、快適だ。


 だからこそ。


「……あと一回」


 小さく呟く。


「それ何回目!?」


 操作する。


 繋げる。


 消える。


 思考が回る。


 集中する。


 そしてーー


(……よし)


 わずかに記録が伸びた。


「……満足だ」


「絶対満足してないでしょ!」


 騒がしい声。


 だが、それも含めて。


(……まあいい)


 任務は逃げない。


 やるべきことも分かっている。


 それでも今はーー


 この時間を優先したい。


「……この世界の快適さが悪いな」


 そう小さく呟いた。


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