ep.24「儚いもの」
「花見行くわよ!夜桜!」
ソファでスマホを操作していた蓮也が唐突に立ち上がった。
「……は?」
意味が分からない。
「いいから来なさいって!」
腕を引かれる。
「待て、説明がーー」
「あとで!」
そのまま外へ連れ出される。
(……強引だな)
だが、抵抗しても無駄だろう。
ここは素直に従っておこう。
◇
辿り着いた場所は、人が多かった。
夜にも関わらず、だ。
だが昼間とは違う。
騒がしいが、どこか落ち着いている。
「こっちよ」
蓮也が先導する。
人の間を抜けた先に居たのはーー
「……いた」
蓮也が小さく呟いた。
視線の先。
地面に、ビニール製の薄い布が敷かれている。
その上に座る男。
嶺二だった。
「遅ぇ」
「兄貴が早過ぎるのよ!」
「場所取っといたぞ」
「ありがと」
自然な会話。
(……手際がいいな)
既に準備が整っている。
蓮也が靴を脱ぎ、布の上に上がる。
「ほら、あんたも」
「ああ」
言われるままに座ってふと、視線を上げた。
「……」
言葉が詰まる。
頭上に広がる光景。
木。
その枝に無数に咲き誇る、淡い色の花。
ライトアップされ、静かに浮かび上がっている。
「……これが」
「桜」
蓮也が答える。
「さくら……」
風が吹くと、花びらが揺れて、そして舞う。
「……綺麗だな」
自然と口から出た。
「でしょ?」
蓮也が満足げに笑う。
「この時期だけなのよ」
「期間限定か」
「そう」
嶺二が続ける。
「すぐ散る」
「……そうか」
再び見上げる。
短い命。
だからこそ、目を引く。
長く残るものの方が物理的価値はあるはずだ。
だがーー
(……これはこれで)
悪くない。
「ほら」
蓮也が袋を差し出す。
「食べなさい」
「これは?」
「兄貴がコンビニで買ってきたやつ」
中を見る。
見慣れた包装。
一つ取り出して口にする。
「……美味い」
「でしょ?」
「効率も悪くない」
「またそれ」
軽く笑われる。
そのまま三人で並ぶ。
会話は多くないが心地よい、静かで穏やかな時間。
花が舞い落ちる。
「……すぐ無くなるのか」
「そうよ」
蓮也が答える。
「だから今のうちに見るの」
「合理的だな」
「風情って言いなさいよ」
「同義だ」
嶺二が小さく笑う。
再び視線を上げる。
花びらが、夜の中で揺れている。
(……儚いな)
そう思う。
長くは続かない。
残らない。
だからこそ。
今、この瞬間が価値になる。
「……覚えておこう」
この景色を。
この空気を。
この時間を。
理由は分からない。
だがーー
忘れるべきではないと、そう思った。
夜風が吹く。
花びらが舞う。
三人の間を、静かに通り抜けていった。
「嗚呼……アイリーンにも見せてやりたい……」




