ep.23「最悪な朝」
ーー翌朝。
最悪だった。
「……頭が痛い」
目を開けた瞬間、それが分かる。
グワングワンと鈍い痛みが内側から響いている。
思考が重い。
視界も、わずかに揺れている。
(……何だこれは)
体を起こそうとしてーーやめた。
動くと悪化する。
本能的に分かる。
「……毒でも盛られたのか?」
小さく呟く。
昨夜の記憶を辿る。
酒。
会話。
笑い。
(……飲み過ぎたか)
結論は出た。
だが納得はいかない。
「……耐性はあるはずなんだがな」
ぼそりと呟く。
その時だった。
「……うるせぇ」
低い声。
視線を横に向ける。
床。
嶺二が転がっていた。
「……何をしている」
「……知らねぇ」
短い返答。
目は閉じたままだ。
「……起きろ」
「無理だ」
「……俺もだ」
再び天井を見る。
部屋に押し込められてベッドで寝たはいいが、あの後起き出して深夜にまた嶺二と飲み始めた……
(リビングで寝てたのはそのせいか)
光が眩しい。
「カーテン閉めてくれ……」
「あら、起きたのね」
別方向から声。
視線を向ける。
蓮也だった。
キッチンの方にいる。
呆れた声。
「二人とも完全に二日酔いじゃない」
「ふつか……?」
「飲み過ぎた翌日の最悪状態」
「……なるほど」
理解した。
「つまりこれは」
ゆっくりと言葉を選ぶ。
「酒による継続的な状態異常か」
「ファンタジー脳やめなさい。ほら、水よ」
コップが差し出される。
受け取って一口。
「……楽になるな」
「当たり前でしょ」
「対処法は確立されているのか」
「されてるわよ」
ため息を吐かれる。
隣を見る。
嶺二も同じように水を飲んでいた。
「……生き返る」
「大げさだ」
「お前も同じだろ」
「……否定はしない」
頭痛はまだある。
だが、少しだけ軽くなった。
その時。
腹が鳴る。
「……」
「……」
「……」
三人同時だった。
沈黙。
「何か食べる?」
蓮也が聞く。
「無理だ」
嶺二が即答する。
「同じく」
頷く。
「油分は拒絶反応が出る」
「そんな分析いらないのよ」
だが、しばらくして。
テーブルに皿が置かれる。
「はい」
「……これは」
「しじみの味噌汁」
茶色いスープ。
「飲みなさい。二日酔いにはやっぱりコレよコレ」
仕方なく手を伸ばす。
一口。
「……いけるな」
「でしょ?」
嶺二も同じだった。
「沁み渡る……」
静かに食べ始める。
回復していく感覚。
少しずつだが、確実に。
(……なるほど)
理解する。
「この状態は」
ゆっくりと呟く。
「完全に防ぐことはできないのか」
「無理ね。飲む量を調節するしかない」
「……非効率だな」
「だから飲み過ぎるなって話なのよ!」
正論だった。
だがーー
(……難しいな)
あの時間は、悪くなかった。
だからこそ止めなかった。
結果がこれだ。
「……学習した」
小さく呟く。
「次は抑える」
「ほんとに?」
「多分な」
「信用ならないわね」
その通りだと思う。
隣を見る。
嶺二も同じように頷いていた。
「……次は抑える」
「絶対無理でしょ」
即座に否定される。
だがーー
そのやり取りも含めて。
(……悪くない)
そう思う。
最悪の朝。
だが。
それでもーー
悪くはなかった。




