ep.22「酒が回った兄と兄」
ーーとある日の夜。
珍しく、BAR《月影》は休み。
その為、今夜は嶺二も交えて蓮也のマンションでだらだらと過ごしている。
テーブルの上には料理と酒。
この世界の“宅飲み”というやつらしい。
(……悪くない)
グラスを傾ける。
酒が喉を通る感覚。
思考が緩む。
隣を見ると嶺二も同じようにグラスを持っていた。
普段より、少しだけ力が抜けている。
「……なぁ」
嶺二がぽつりと口を開いた。
「何だ」
「お前、妹いるんだよな」
「ああ」
短く答える。
「一人だ」
「そうか」
少しだけ間が空く。
そしてーー
「ちっちぇ頃の蓮也はな」
嶺二がグラスを揺らす。
「兄ちゃん兄ちゃんって、可愛げがあったのに……」
小さく息を吐く。
「今じゃこんなんになっちまって」
「こんなんってなによ!?」
即座に蓮也が反応する。
テーブル越しに睨んでいる。
「事実だろうが」
「今でも可愛い弟のつもりなんだけど!?」
言い合いになる。
だが本気の喧嘩じゃない事は見ていれば分かる。
(……似ているな)
そう思う。
「嶺二、分かるぞ……その気持ち。俺の妹もだ」
自然と口が開いた。
二人の視線が向く。
「アイリーンも幼い頃はな」
記憶を辿る。
「お兄様お兄様と、俺の後をちょこまかついて回っていた」
小さく息を吐く。
「それはもう、可愛かったのになぁ……」
グラスを傾ける。
「今じゃ気の強い、口煩い女に……はぁ~」
「兄は辛いもんがあるよな」
「まったくだ……」
蓮也が呆れた声を出す。
「もう!二人して飲み過ぎなのよ!」
「んな事ァねぇよ、まだほんの……三杯かそこらだろ」
「スコッチ二瓶空けてるわよ!?」
嶺二が小さく笑う。
「三杯も二瓶も大して変わらねぇだろ」
「大違いよ!まったく……兄貴ももう帰ったら?」
蓮也が嶺二を見る。
「車呼んであげるから」
「いらねぇ」
短く返す。
「泊まっていく」
「は?」
「面倒だ」
その時。
視線がテーブルへ向く。
皿に盛られた料理。
「……それより」
手を伸ばす。
「この……なんだ」
一口食べる。
食感。
香ばしさ。
塩味。
「……もやしと春菊の、えーと……なんだ?ナムルだったか?」
「そうよ」
「おかわりはないのか」
「は?」
蓮也が固まる。
「もうもやし三袋と春菊七束食べたでしょう!?どんだけ気に入ったのよ!?」
「香ばしさと絶妙な塩味や苦味、そしてシャキシャキ食感が俺を虜にしたんだ責任を取れ」
「何の責任なの!?」
勢いよく突っ込まれる。
だが、気にしない。
「もうないのか」
「ないわよ!」
「……そうか」
物悲しい気持ちで空になった皿を見つめる。
「……だいぶ酔ってるわね」
蓮也がため息を吐く。
「もう寝なさい」
「酔ってない」
「酔っぱらいはみんなそう言うのよ!!」
(……眠いな)
思考が少し鈍る。
視界も、僅かに揺れる。
隣の嶺二は既にソファの足元にもたれかかっていた。
「……おい」
「……なんだ」
「寝るな」
「寝てねぇ」
目は閉じている。
説得力はない。
「ほらもう!」
蓮也が立ち上がる。
「二人とも限界でしょ!」
腕を引かれて立たされる。
少しふらつく。
「……問題ない」
「大ありよ!」
そのまま部屋へ押し込まれる。
ベッド。
絶妙な高反発。
(……悪くない)
横になるとすぐに視界が暗くなる。
意識が沈む。
最後に浮かんだのはーー
昔の記憶。
小さな手。
後ろをついてくる足音。
「……は」
小さく笑う。
(……変わらんな)
どの世界でも。
兄という立場は。
そしてーー
守るものも。
意識が落ちる。
静かな夜だった。




