ep.21 「遊びのかたち」
昼食の後に連れて来られたのは、騒がしい場所だった。
音があちらこちらから鳴り響き、光が点滅している。
人も子供から大人まで幅広く多い。
「……うるさいな」
思わず呟く。
「すぐ慣れるわよ」
蓮也が笑う。
視線を巡らせる。
ずらりと並ぶ機械。
それぞれが別の遊びを提供しているらしい。
(……遊技場か)
一箇所で複数の娯楽。
効率は悪くない。
「こっち来なさい」
蓮也に呼ばれて向かった先にあったのは、透明な箱のような装置だった。
中には小さなぬいぐるみが並んでいる。
「これは?」
「クレーンゲーム」
「クラーケン……」
「クレーンだってのよ!この中のやつを取るの」
「どうやってだ」
「見てなさい」
蓮也が上を指さす。
細い二本の金属の爪のようなものがぶら下がっている。
「その爪みたいやつをこれで動かして品物を掴むのよ」
「……なるほど。構造は理解した。やる」
金を入れる。
操作する。
爪が動く。
狙う。
掴む。
持ち上がる。
そしてーー
落ちた。
「……」
再度。
落ちる。
もう一度操作する。
落ちる。
「……」
気付けば、無我夢中になって繰り返していた。
「ちょっと」
蓮也が呆れた声を出す。
「あんた、ぬいぐるみ一つ取るのにいくら使ってんのよ……もうそれで五千円よ?」
「……あと五百円分だけやらせろ」
「引き際って知ってる?」
「構造は理解した」
「それさっきも聞いた」
無視する。
操作する。
だがーー
やはり落ちる。
「貸しなさい」
蓮也が前に出る。
「こうやるのよ。見てて」
操作。
掴む。
持ち上がる。
そのまま揺らさずーー
穴に落とす。
「……」
「はい」
ぬいぐるみを差し出される。
「……なっ!?」
思わず声が出る。
「貸せ!俺も取る!」
「やめなさいって!」
再び金を入れる。
操作する。
狙う。
(……今度こそ)
掴む。
持ち上がる。
落ちる。
「……」
「はい終了」
「まだだ」
「終わりよ」
腕を掴まれた。
「次行くわよ」
◇
別の場所へ移動する。
並んでいるのは座席付きの装置。
画面には道が映っている。
「これは?」
「車を動かす遊び」
「あの鉄の塊か」
「そう。それが車」
座ると蓮也が説明を始めた。
「この輪っか……ハンドルを動かすと方向が変わる」
「……舵か」
「そんなとこ」
「で、足元のこれ」
靴先で示される。
「右が進むためのアクセル、左が止めるブレーキ。足で踏んで調整するの」
「……なるほど」
「あと、このギアで速さ変えるの」
「操作が多いな」
「慣れよ慣れ」
言われるままに操作する。
画面の道が動く。
加速する。
景色が流れる。
「……速いな」
ハンドルを切る。
曲がる。
少しずれる。
「ブレーキ踏みなさい!」
蓮也の声。
左を踏む。
減速。
曲がる。
「……分かった」
再度加速。
(……やってみると案外単純だな)
軌道。
速度。
減速のタイミング。
計算できる。
徐々に安定する。
「ちょっと」
蓮也が覗き込む。
「初めてよね?」
「ああ」
「なんでそんな普通に走れてんのよ」
「構造が分かれば問題ない」
「またそれ。ぬいぐるみ取れなかったくせに……」
「それとこれとは別だ」
だが、走りは安定していく。
無駄が減る。
(……面白い)
◇
時間が流れ、外に出る。
音が遠のく。
蓮也が時計を見る。
「そろそろ月影の開店準備始めなきゃいけない時間だわ」
軽く伸びをする。
「この後は……あ、来た来た!」
視線の先。
嶺二が歩いてくる。
「兄貴!夜のお相手任せたわよ!」
「誤解を招く言い回しは寄せ馬鹿が」
「はいはい」
蓮也が笑う。
「じゃ、よろしくね」
そのまま手を振って去って行く。
残されたのは、二人。
「……行くぞ」
嶺二が言う。
「どこへだ」
「静かな遊びができる場所だ」
◇
空気が落ち着いている。
辿り着いた場所は、広い室内だった。
中央に大きな台がいくつも並んでいる。
その上には、色の違う小さな球。
「……これは?」
「球を当てて穴に落とす遊びだ」
細長い棒を渡される。
「このキューで球を突く」
「……へぇ」
台を覗く。
角度。
距離。
反射。
(……読めるな)
構える。
突く。
球が転がりーー
当たる。
弾く。
台の穴に吸い込まれるように落ちる。
「……」
「本当に初めてか?」
「ああ」
「……そうか」
嶺二が小さく笑う。
手に持った棒を軽く回す。
「……面白いな」




