表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界から勇者をスカウトしに来た宮廷魔導師、現代が快適すぎて任務を忘れかけています。  作者: ココアバナナ
第1章【交わるはずのなかった者たち】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/62

ep.2「異質な街と、異質な男たち」


 目を開けた先に広がっていたのは、見上げるほどの建物と、耳をつんざくような音を立てて走る鉄の塊。


「……魔力が、ない?」


 思わず呟いた。


 空気を読み、流れを探る。


 だが、どこにも“それ”は感じられない。


 魔力という概念そのものが、薄い。


 いやーー


「存在していない、に近いな」


 そう結論付ける。


 にも関わらず、この世界は成立している。


 人は生き、街は動き、文明は回っている。


「……妙だな」


 だが、嫌いじゃない。


 むしろーー


「面白い」


 小さく笑みがこぼれた。



 歩きながら周囲に視線を巡らせる。


 歩く人間、交差する声、意味不明な看板、光る板を操作する者たち。


 そしてーー


「服装も、統一性がないな」


 思わず足を止めた。


 ある者は簡素な布の衣服。


 ある者は体の線に沿う奇妙な素材。


 中には、肌の露出がやけに多い者もいる。


「……防御の概念はないのか?」


 鎧はもちろん、軽装の革装備すら見当たらない。


 動きやすさを重視しているのかとも思ったが、それにしては無防備すぎる。


 さらに奇妙なのはーー


「色と形の規則性が見えない」


 身分差も、所属も、戦力も。


 外見からほとんど判別できない。


 これはーー


「……厄介だな」


 誰が何者か分からないというのは、それだけで危険だ。


 だが同時に。


「面白い」


 再び、同じ結論に至る。


 その時だった。


 視界の端に、同じ服装をした集団が入る。


「……ほう」


 思わず目を細めた。


 同一の色、同一の形状。


 規律ある隊列ではないが、明らかに“揃っている”。


(組織か)


 数は十数人。


 年齢は若い。


 だが、統一された装いはそれだけで意味を持つ。


(訓練中の部隊……いや、候補生か?)


 そう考えるのが自然だ。


 けれどーー

 

「……武装していない?」


 違和感が生まれる。


 腰に剣はない。


 背に弓もない。


 魔導具の気配もない。


 完全に“無手”。


「あれで戦うつもりか?」


 あり得ない。


 統一装備を持ちながら、戦闘手段を持たないなど。


(あるいはーー)


 思考が巡る。


(武器を必要としない戦力か)


 そうであれば辻褄は合う。


 だが、それにしてはーー


「緊張感がなさすぎるな」


 笑いながら歩き、騒ぎ、肩を叩き合っている。


(……違うな)


 結論は出ない。


 だが一つだけ、確かなことがある。


「この世界、やはり妙だ」


 そしてーー


「面白い」


 ひとつ頷き、視線を前へ戻す。


「まずは情報収集か」


 適当に歩き出す。


 方向は特に決めない。


 人の流れに乗るだけで、ある程度の中心へは辿り着ける。


 それだけで十分だ。



 しばらく歩くと、視界に入ってきたのは一つの建物。


 落ち着いた外観に、柔らかな灯り。


 入口には見慣れない文字が並んでいるがーー意味はなんとなく理解できる。


「……酒場、か」


 この世界にも似たようなものはあるらしいな。


 ならば情報も集まりやすい。


 迷う理由はなかった。


 扉を押し開ける。


 小さな音と共に、空気が変わる。


 外の喧騒とは打って変わって、静かで落ち着いた空間。


 視線が一つ、こちらに向けられた。


「あら、いらっしゃい」


 カウンターの向こうに立っていたのは、一人の男。


 整った顔立ちに、どこか中性的な雰囲気。


 だが、その奥にある“何か”はーー


(……ただ者じゃないな)


 一瞬で理解した。


「珍しいわね、その格好。コスプレかしら?」


 柔らかく笑いながらも、観察されている。


 ……面白い。


「似たようなものだ」


 適当に答える。


「へぇ? 随分と余裕じゃない」


 男の目が、わずかに細められた。


「初めて来る街で、そんな顔してられる人、普通いないわよ?」


「普通ではないのでな。ところで、何故俺がこの街に初めて来たと分かる?」


「見ない顔だからよ?ふふっ」


 椅子に腰を下ろす。


「何か飲む?」


「……おすすめでいい」


「あら、雑ね」


 くすりと笑いながら、男は手を動かす。


 無駄のない所作。


 それだけで、経験の深さが分かる。


「あなた、名前は?」


「セレス」


「ふぅん……セレス、ね。私は蓮也、ここのオーナーよ」


 その瞬間。


 ーー違和感が走った。


 ほんの僅か。


 だが確かに、“何か”が触れた。


(今のは……)


 視線を上げる。


 男の表情は変わらない。


 だがーー


(感じたな)


 確信に近い感覚。


「どうかした?」


「いや」


 グラスが差し出される。


「はい、サービス」


「……いいのか?」


「初見さんには優しくする主義なの」


 軽く笑う。


 だがその裏側は、やはり見えない。


(面倒な相手だな)


 グラスを手に取る。


 その時だった。


 ーー扉が開き、カランと音が鳴る。


「蓮也」


 低い声が、店内に落ちた。


 振り返る。


 そこに立っていたのは、一人の男。


 襟足の長い黒髪、鋭い目、首元に覗く薔薇の紋。


 纏う空気が、外にいた人間たちとは明らかに“質”が違う。


(……こいつもか)


 いやーー


(さっきの男より、分かりやすいな)


 力の質が違う。


 隠していない分、むしろ見やすい。


「あら、兄貴。早かったのね」


「客か」


「新規さんなのよ。セレスさん、これ私の兄の嶺二」


「これって言うな」


 視線が、こちらに向けられる。


 一瞬。


 空気が止まった。


「……お前、何者だ」


 低く、鋭い声。


「ただの通りすがりだ」


 嘘ではない。


 この出会いが、ただで終わるはずもなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ