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異世界から勇者をスカウトしに来た宮廷魔導師、現代が快適すぎて任務を忘れかけています。  作者: ココアバナナ
第1章【交わるはずのなかった者たち】

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ep.1「面倒な任務」


 ーークリスタリア王国


 謁見室。


 何故か俺、セレス・サイラスは陛下から呼び出しをくらっていた。


「……帰っても宜しいでしょうか」


 玉座の前で開口一番それを口にすると、左右に並ぶ近衛騎士たちの空気がぴしりと固まった。


 ……ああ、怖い怖い。


 別に斬りかかってくる気配はないが、視線が痛い。面倒だ。


「セレス・サイラス。其方、相変わらずだな」


 低く、重みのある声が降る。


 玉座に座すのは、クリスタリア王国現国王陛下。


 温厚さの奥に鋼の意志を隠した男だ。


「面倒なものは面倒です。わざわざ呼びつけてまでするお話なのでしょうか?」


「そうだ」


 ため息が一つ、自然と漏れる。


「……で?」


 促すと、陛下はわずかに視線を横へと向けた。


 そこに控えているのは、宮廷魔導師団の面々ーーその中心に立つのは、見慣れた顔。


「兄さん」


「お前か」


 エメラルド色の瞳が、わずかに細められる。


 アイリーン・サイラス。


 俺の妹であり、この国でも指折りの魔導師だ。


「陛下直々の命よ、分かってるわよね?」


「面倒な事なんだろうなとは察した」


「そう」


 肩をすくめるその仕草は、昔から変わらない。


 だがーー


 わざわざこいつが前に出てきている時点で、碌でもない話なのは確定だ。


「本題に入るぞ、セレス」


 陛下の声が空気を引き締める。


「魔導師棟に設置された魔鏡に“予兆”が映し出された」


「予兆?……初耳だな」


 わずかに眉を上げる。


「断片的だがーー“世界に仇なす存在” が現れる未来だ」


「随分と曖昧な…… 」


「魔鏡は未来をそのまま映すものではない。あくまで可能性の観測よ」


 アイリーンの言葉に小さく息を吐いた。


「で、その“仇なす存在”ってのが?」


「ーー魔王」


 一瞬、空気が張り詰めた。


「“魔王転生”の兆しよ」


「……ほう。どこかで“新しい魔王”が生まれる可能性がある、と」


「ええ。ただし場所も時期も不明。」


「つまり?」


「勇者が必要だ」


 一瞬、沈黙が落ちた。


「……は?」


 思わず素の声が出る。


「勇者とは、あれですか? 昔話に出てくる都合のいい存在」


「都合がいいかどうかはさておき、現状それに縋るしかあるまい」


 陛下の視線は真っ直ぐだった。


 冗談ではない。


「……で? その勇者様はどこに?」


「この世界にはいない」


 はい面倒。


「別の世界にいると?」


「そうだ」


「……」


 ああ、なるほど。


 これは完全にーー


「俺に行けって話ですね?」


「話が早いな」


 陛下は口元を緩めた。


「とてもお断りしたい」


「理由を申してみよ」


「面倒だからですよ」


 ざわり、と空気が揺れる。


 だが気にしない。


「兄さん」


 アイリーンが一歩前に出た。


「転移先は“異世界”ーー魔力の流れがほぼ存在しない世界」


「へぇ」


 少しだけ興味が湧く。


「そんな場所に行って、勇者を探し出して連れ帰れと?」


「そうだ」


「条件はあるわ」


 アイリーンの瞳が微かに鋭くなる。


「勇者の資質を持つ者は、必ず“共鳴”する」


「共鳴?」


「兄さんなら分かるでしょ」


 ……ああ、なるほど。


「魔力の位相が一致する、ってやつか」


「ええ」


「それだけで見つかるなら苦労しないな」


「だからあなたが行くのよ」


 ぴたり、と言葉が止まる。


「解析と観測、それが兄さんの得意分野でしょう?」


「……面倒だな。とてつもなく」


「報酬は用意する」


 陛下が口を開く。


「求める物を申してみよ」


「いりませんよ」


「……」


「どうせ帰ってきた頃には忘れてるでしょうし」


「……其方は本当に」


 陛下が頭を抱えた。珍しい光景だ。


「兄さん」


 アイリーンが少しだけ声を落とす。


「……死ぬんじゃないわよ?」


「死なないさ」


 軽く答える。


「お前がいるこの世界に戻って来るのは、まぁ悪くないしな」


「……そう。月に一度、魔脈を開いて兄さんが転移する世界とこちらを繋ぐわ。その時に手紙を転送するから」


 一瞬アイリーンの表情が緩んだかと思うと、すぐに表情を引き締めて説明をされた。


「転移はすぐに行う」


 魔導師たちが魔法陣の準備を始める。


 複雑に重なり合う紋様。


 これはーーかなり大規模だ。


「最後に一つだけ言っておく」


 陛下が告げる。


「その世界は、其方の常識が通用しない場所だ」


「異世界にこちら側の常識なんて元から当てにしておりませんよ」


 肩をすくめる。


「……では、行って来い」


 光が弾けた。


 視界が白に染まる。


(……面倒な任務だ)


 そう思いながらーー


 次の瞬間。


 目を開けた先に広がっていたのは、見上げるほどの建物と、耳をつんざくような音を立てて走る鉄の塊。


 そしてーー


「……魔力が、ない?」


 完全に“異質”な世界だった。


「……は」


 思わず、笑いが漏れる。


「なんだここ。面白そうじゃないか」


 こうしてーー


 勇者を探すはずの俺の、“寄り道だらけの任務” が始まった。


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