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異世界から勇者をスカウトしに来た宮廷魔導師、現代が快適すぎて任務を忘れかけています。  作者: ココアバナナ
第1章【交わるはずのなかった者たち】

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ep.12「二人で一つ」


 沈黙が落ちた。


 夜の路地裏。


 光は届かず、音も遠い。


 空気だけが張り詰めている。


 共鳴は、まだ消えていない。


 胸の奥で微かに震え続けている。


(安定していないな)


 視線を二人へ向ける。


 どちらも同じだ。


 違和感を抱えながら、それを理解しきれていない。


「……で?」


 先に口を開いたのは蓮也だった。


「何なのよ、これ」


 苛立ちではない。


 だが、落ち着きもない。


「説明しろって言ってるの」


「簡単だ」


 短く答える。


「お前たちは“異質”だ」


「それはさっき聞いたわよ」


「続きがある」


 視線を外さない。


「単体では不完全だ」


 一瞬。


 空気が止まる。


「……不完全?」


 蓮也が眉をひそめる。


 嶺二は何も言わない。


 だが、視線が僅かに鋭くなった。


「互いに対して共鳴している」


 淡々と続ける。


「それはつまり、“補い合っている”ということだ」


「……補う?」


「片方だけでは成立しない」


 言い切る。


「二人で一つだ」


 沈黙。


 今度は長い。


「……ふざけてんの?」


 蓮也の声が低くなる。


 拒絶ではない。


 だが、受け入れてもいない。


「事実だ」


 短く返す。


「感覚で分かるはずだ」


「……」


 蓮也が黙る。


 その表情は、否定しきれていない。


 嶺二は静かに口を開いた。


「……確かに」


 低い声。


「一人の時とは違う」


 ゆっくりとした言葉。


「今は……妙に“噛み合ってる”感じがする」


「そういうことだ」


 頷く。


「お前たちは元々、その形で成立する存在だ」


「ちょっと待って」


 蓮也が口を挟む。


「じゃあ何? 私たち二人で“勇者”ってこと?」


「恐らくな」


 蓮也が顔を歪める。


「いやいやいや」


 笑う。


 だが、その笑いは軽くない。


「何それ。意味分かんないんだけど」


「理解する必要はない」


「は?」


「使えればいい」


 視線を向ける。


「今の感覚を、だ」


 沈黙。


 空気が再び張る。


 その時だった。


「……試すか」


 嶺二が呟いた。


「何を」


「今の“状態”を」


 短い言葉。


 だが、意図は明確だった。


「いいわよ」


 蓮也も即答する。


「どうせこのままでも気持ち悪いし」


 少しだけ笑う。


 だが、その目は真剣だ。


「どうするの?」


「簡単だ」


 一歩下がる。


「同時に動け」


「……は?」


「いいからやれ」


 言葉は少なくとも伝わったようだった。


 二人が視線を交わす。


 一瞬。


 それだけ。


「……行くぞ」


「ええ」


 同時に動いた。


 空気が変わる。


 明らかに。


(来るな)


 踏み込み。


 速度が上がる。


(速いだけじゃない)


 嶺二の動きに、無駄がない。


 蓮也の動きに、流れがある。


 そしてーー


(繋がっている)


 互いの動きを、互いが補完している。


 一つの動きとして成立している。


「……なるほど」


 小さく呟く。


 理解した。


 完全に。


「どう?」


 蓮也が振り返る。


 息は乱れていない。


「悪くない」


「それだけ?」


「十分だ」


 嶺二がわずかに目を細める。


「……そうか」


「ただし」


 言葉を続ける。


「制御が甘い」


「は?」


「感覚任せだ」


 指摘する。


「意識して合わせろ」


 沈黙。


 だが、二人とも否定しない。


 理解しているようだ。


「……面倒ね」


 蓮也が肩をすくめる。


「だが必要だ」


 視線を向ける。


「お前たちは“そういう存在”だ」


 夜の空気が静まる。


 共鳴も、ゆっくりと収まっていく。


 消えてはいない。


 確かに、残っている。


「……」


 二人を見る。


 もう迷いはない。


(確定だな)


 この二人が。


 クリスタリア王国におけるーー


「勇者だ」


 小さく、呟いた。


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