ep.13「試される力」
路地裏の空気は、相変わらず濃い。
だが、以前とは違う。
違和感の正体を知った今、その濃さは“情報”として処理できる。
視線を巡らせる。
複数の気配がある。
敵意は薄い。
(……静かすぎるな)
嶺二の後ろを歩きながら、思考する。
蓮也もいる。
「この辺りだ」
嶺二が短く告げる。
「何がだ」
「揉めてる連中がいる」
進む。
奥へ。
さらに奥へ。
声が聞こえる。
怒声。
低い罵声。
金属音。
やはり、何かが起きている。
「……あーあ」
蓮也が小さく息を吐く。
「完全にやってるわね」
視界が開ける。
数人の男。
囲まれている一人。
明らかに状況は不利だ。
「どうする」
「助けるに決まってんでしょ」
蓮也が即答する。
嶺二は何も言わない。
一歩、前に出た。
それが答えだった。
空気が変わる。
「……あ?」
男たちが気付く。
「誰だテメェら」
威圧。
(軽いな)
嶺二は止まらない。
そのまま距離を詰める。
「……邪魔だ」
一言。
それだけで、間合いが崩れる。
男の一人が掴みかかる。
遅い。
嶺二の腕が動く。
無駄がない。
一瞬。
それだけで、男は崩れ落ちた。
「なっ……!」
残りが動く。
取り囲む。
同時に来る。
(単純だな)
「右、二人」
「……っ」
俺の声に蓮也が動く。
嶺二の死角。
そこに入る。
流れるような動き。
一人の腕を払い、体勢を崩す。
そのまま押し流す。
「はぁい、危ないわよ?」
軽い声。
だが、動きは鋭い。
(繋がっている)
嶺二が正面を制圧する。
蓮也が嶺二の背後を捌く。
「……いいぞ、そのまま合わせろ」
動きが変わる。
嶺二の踏み込み。
蓮也の流し。
タイミングが揃う。
次の瞬間。
一気に崩れた。
「ぐっ……!」
残っていた男が膝をつく。
静寂。
戦闘は、数秒で終わっていた。
「……は?」
囲まれていた男が呆然と呟く。
「終わりよ」
蓮也が軽く笑う。
「さっさと帰りなさい」
男は何も言わず、逃げるように去った。
残ったのはーー
静けさ。
「……」
蓮也が手を見る。
「今の……」
違和感を確かめるように。
「一人じゃない」
「……ええ」
小さく頷く。
嶺二も同じだった。
「……噛み合ってるな」
低く呟く。
「当然だ」
「それが本来の形だからな」
視線を二人へ向ける。
「今のは“試し”だ」
「試し?」
「まだ甘い」
はっきりと言い切る。
「だが、方向は合っている」
「……面倒ね」
蓮也が肩をすくめる。
「でも」
口元がわずかに上がる。
「悪くないわ」
嶺二も、小さく息を吐いた。
「……ああ」
短い肯定。
(十分だ)
俺は静かに目を細める。
確信する。
この二人はーー
“戦える”。
そして。
(まだ伸びるな)
それもまた、確信だった。




