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君の涙を持ち帰るのは、もう僕じゃない  作者: かざみはら まなか


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34/36

34.辺境伯家令嬢に召し抱えられた僕の初仕事。辺境伯家令嬢メザリヤが辺境伯家を掌握することに失敗したのは。

メザリヤ様を引きずり下ろすのに活躍したのはエレインだけど、辺境伯家が終わるのは、エレインがいたからだけじゃないということに、メザリヤ様はまだお気づきでない。


マルク様は、端っこの村の村長の僕とマルク様が知っている知っている話をメザリヤ様とソロアに伝えていない。初代辺境伯家が初代ザンバーグ国王の国策の開拓村と開拓民に非協力的だった理由と、マルク様が村を捨てた開拓民の子孫から話を聞ける理由は同じだ。


「マルク様は、王領に代官として残るご予定ですか?」

僕の知る話は、後でマルク様と話をつけるために使うのがよいのか、辺境伯家の令嬢であらんとするメザリヤ様が王太子妃になられて出ていかれる前に、僕からお伝えするか。


王太子様じゃなく、辺境伯家の実子メザリヤ様に召し上げられると決めた僕は考えた。マルク様が話されていないのは王太子様のご意向か、マルク様の考えに即したものか。


王太子様はいないから後回しにするとして、メザリヤ様とマルク様からの仕事についての信用はどう買う?僕は村長の仕事以外に仕事の経験がない。村長の仕事以外の仕事についての知識は、誰かからの又聞きだ。文官になるご予定だったかをマルク様に尋ねたのは、兵を率いて指示を出すマルク様がただの文官とは思わなかったから。


王太子妃として迎えられるメザリヤ様の元に王太子の一の臣下として兵を率いて駆けつけ、護衛にあたっているところを辺境伯領内で見せつける意味を考えてみれば分かる。


王領となった辺境伯領に残るには、任命された文官じゃ立場が弱い。辺境伯家が自家の内紛をおさめられずに自滅したのは、弱い者同士の共倒れじゃなく、強い者同士の食い合いが熾烈を極めた結果だ。途中で手打ちにしようと言い出さなかったのが、強さで成り立つ辺境伯家らしい。


策略も謀略を張り巡らす辺境伯家の中に生まれ、戦って生きてきたのは、メザリヤ様だけではない。子どものメザリヤ様を領主代行として早くから行政に関わらせることでメザリヤ様の立ち位置が脅かしにくいものになるよう差配したメザリヤ様の倒れられたお父上、辺境伯家ご当主様も慣れていらっしゃる。


メザリヤ様のお父上が早くにご当主になられたのは、メザリヤ様の祖父母にあたられる先代ご当主が早くに亡くなられたためだ。先代ご当主が速くに亡くなられたことも、メザリヤ様のお父上がメザリヤ様が幼いときにお手入れになったことも、体が弱かったからじゃない。メザリヤ様が今日ご存知になられたように、辺境伯家の先代ご当主が、辺境伯家内の掌握を中途半端にしたままで当主の座につかれたから。


辺境伯家の先代が掌握しきらなかったことが発端となり、辺境伯家の権力闘争は孫の代まで続いた。辺境伯家は、メザリヤ様の代で決着がついていると見込んでいたけれど、乙女ゲームのヒロインを自称するエレインがかき乱したことで、メザリヤ様の書いた筋書き通りに辺境伯家の中でメザリヤ様が完全勝者になる道は絶たれた。


辺境伯家での権力闘争に敗れたメザリヤ様は、ご自身が掌握できなかった辺境伯家を畳む決心をされた。敗者となっても幕引きだけは完璧にして、王太子妃として戦いの場を王都に移されるメザリヤ様による王領になった元辺境伯領の統治への口出しは、なくなったはずの辺境伯家の力を誇示することになる。今日で領地をお離れになるのに領地に詳しくない王太子妃にならるメザリヤ様は、王太子妃としての戦いが忙しくなることを予想されているのか、王都から遠い元辺境伯領だった王領をご自身で統治するお考えはない。


メザリヤ様は、元辺境伯領の統治にあたり、マルク様とソロアと僕の三人体制をお望みでいらっしゃる。最初のうちは、マルク様の下に僕とソロアがつく三人体制になるとしても、いずれマルク様が抜けられる三人体制だ。誰が何をするか、どれだけの権限を持つかの割り当てが重要になってくる。


王領になる以上、マルク様、ソロア、僕の三人体制の一番上はマルク様。マルク様が三人体制から抜けられるときに、いつ、誰にどのぐらいの権限をおろしてくるかを考えると、マルク様が、僕とソロアの二人体制への移行を容認する未来図は想像できない。僕とソロアは二人とも辺境伯領民だ。ソロアにいたっては、元辺境伯家ご当主の実子様の忠臣。辺境伯家のご一族に王領の統治を任せるわけではないけれど、僕とソロアが王領の統治を任せられる二人かという問いに、王家がどんな答えを用意してくるかは、現状、考えるまでもない。


メザリヤ様に召し上げられて、元辺境伯となる王領を託されたけれど、決定権のある権限は与えられず、飼い殺しになる未来は予想できる。望んで飼い殺しになるのならともかく、僕の望みは飼い殺しじゃない。国策で開拓民を置いた村を何代にもわたって放置してきた王家の飼い殺しを受け入れたら、端っこの村々の状況は今よりも悪くなる。村ごと村を捨てる決断をして食いつないできた村人の現実を知らないまま、端っこの村々には通用しない机上の空論を並べて、王家からの命令を伝達してくるような文官とやりあっても、代々、辺境伯領の領民だっただけの僕やソロアでは勝てない。


王領になるとはいえ、辺境伯領は国境だ。マルク様が兵士を統率されていることを鑑みるに、武力をちらつかせるくらいの役職となると、地方長官とか国王役人としてマルク様は王領の統治に携わる予定がある。


僕がソロアや家族、村人の暮らしを守りたいと思うのなら、辺境伯領が王領になる時点で、マルク様に劣っていてはだめだ。


どうにかして、実績をつくり、辺境伯家の実子メザリヤ様が王太子様に物申し、マルク様の完全な下にではなく、補佐あたりになるくらいの位置に僕とソロアを引っ張り上げることを了承させた状態から始めないと、僕とソロアが王領で生きていくことは困難を極めることになる。


「王太子殿下の計画にデニスは入っていないよ。」

僕の焦りを見透かしたかのようなマルク様からの痛恨の一撃。


「メザリヤ様。辺境伯家の幕を下ろす実子メザリヤ様が名指ししたからという理由で成り上がる私が、辺境伯領でなく王領となった土地でソロアとうまくやるためには、ソロアを挟んでマルク様から指導されるがままに引き継ぐという立場では、ソロアも私も、王家に振り回されるだけで人生が終わります。このままでは、何一つ、領民の暮らしを守ることができませんので、領民を守るようになるような案をお出します。」


成り上がり者には、これがうまくいったから成り上がったと一目瞭然の実績がいる。僕は、王太子様の友で部下というマルク様の肩書を超える実績がほしい。王太子様と家がなくなる辺境伯家の令嬢では、権力でも権威でも負けているということをメザリヤ様にご納得いただいた上で、僕の成り上がりの後押しをしていただくんだ。僕は、僕がこれまで背負ってきた、村と村人と家族を投げ出したりしない。これからソロアと一緒に、土地と領民を追加して背負うなら、背負っても倒れないような状態を王家に認めさせてから始めないと。


「デニス。ソロアとマルクに任せるものをマルクからソロアとデニスに任せられるように移行していき、移行が終わればマルクをアーレンドルフ様の元へ戻すことを考えてます。」

「メザリヤ様。マルク様を戻すまでの期間は、どの程度をお考えですか?」

僕の問いに、マルク様は口を挟んでこられなかった。メザリヤ様のお考えを口に出して聞いておきたいのは、僕だけじゃない。


「わたくしが今日までに自分の目で見てきたのは領地の一部でしたから、はっきりと決められるだけの根拠はまだありませんけれど、数年は見込んでいます。」

一年後と区切っていただけたなら、だらだらと王家につき合わされる心配はしなかった。期限を切らない予定の期限は来ないとご存知ないのは、メザリヤ様が即断即決する側でいらっしゃったからだ。主人のメザリヤ様がお詳しくないと分かったんだ。召し抱えられた僕が誘導する。メザリヤ様と僕の主従関係はまだ始まったばかりだ。


「メザリヤ様がご覧になられた土地は、領都から端っこの村までの最短距離でございますか?」

「ええ。」

メザリヤ様は、何とも思っておられないご様子で肯定された。

「王太子殿下は兵を連れてこられるとき、端っこの村々だけを通られていましたか?」

「ええ。端っこの村々の通行の打診に、わたくしが許可を出しました。」


王家は、王太子が兵を率いて端っこの村々を通ることを隠す気もなかったんだ。それなら、僕が黙っていることもない。辺境伯家が畳まれると決まったから、王家も大胆になった?


辺境伯領の端っこの村々と開拓民について、辺境伯家の実子メザリヤ様がご存知なかったのは、メザリヤ様と王太子様の婚約を臣とになったご当主であられたメザリヤ様のお父上がわざとメザリヤ様にお伝えなさらないままお亡くなりになられたのか、はたまた、先代ご当主のときから失伝されていたのか。


僕は決めた。王家の国策を初代辺境伯家が警戒していた現実は、初代辺境伯家ご当主のご懸念通りではないにしても辺境伯家の終わりを決定づけることになったある事実は、今話す。僕の成り上がりの後押しを辺境伯家の実子メザリヤ様に後押ししていただくために。


「今日、王太子殿下が辺境伯家を制圧してしまわれるのでしたら、メザリヤ様もこの期に乗じて城へ乗り込まれませんか?」

もったいつけずにご提案したところ、一瞬、ためらわれ、寂しそうにされた後に口を開かれた。

「デニスには、不甲斐ない話をしなくてはなりません。わたくしだけに従う騎士も兵士も辺境伯家にはいません。」

辺境伯家を畳むと決められたときから、事実を事実として受け止められてきたからか、メザリヤ様が取り乱されることはなかった。


「メザリヤ様が不甲斐ない結果だとお考えになった現状は、今日、好機に変わります。」

申し上げると、メザリヤ様は不可解というお顔をされた。

「デニス。説明しなさい。」

「メザリヤ様。辺境伯家の騎士は今後、王領にて重用されるとは限りません。」


「王領になってからは、兵士が守りの主力になるとは聞いています。」

メザリヤ様のお答えから、王領に変わった後の具体的な話はご存知ないと推測する。

「メザリヤ様。辺境伯家の騎士にどうなってほしいかのお考えはまとまっていらっしゃいますか?」


「主人としてのわたくしにつかせることには失敗しましたが、辺境伯領と辺境伯家を守ってきたのは、辺境伯領の騎士です。」

自家の騎士について、メザリヤ様は誇らしげに語っていらっしゃる。マルク様は何も言わない。静かなソロアは、僕の出方を見て待っている。

「メザリヤ様。辺境伯領の騎士が辺境伯家と辺境伯領の土台で守りでもあったというお話は、王太子妃となられるメザリヤ様につかなかったという事実があっても、淘汰させたくないというご意向で間違いございませんか?」


「デニス。誇り高き騎士が今後、王家に淘汰されるという話は本気でしていますか?」

メザリヤ様が僕の話を信じがたいとお考えなのは、王太子様との現在の関係が良好であるためだ。メザリヤ様は、王太子様がメザリヤ様のために動かれ、助けられたことを実感されている。


王太子様がメザリヤ様を助けようとされてきたことは、メザリヤ様自身を助け出して王太子妃として迎えるためだ。辺境伯家を助けることが、メザリヤ様を助けることじゃなかったら、王太子様は辺境伯家を助けない。メザリヤ様を助けるか辺境伯家を助けるか、この二択でも王太子様は辺境伯家を助けない。


辺境伯家令嬢として生きてこられたメザリヤ様がお気づきでないのは、王太子様の助けようとするお振る舞いの中に、メザリヤ様だったから助けていただいたのか、辺境伯家を助けたいという真意があったから助けていただいたのかを分けて考えることをされていないからだ。


「王領となった後に、辺境伯家の騎士が今までと同じように取り立てられる道を示されることがあるならば、王家への忠誠を試されてからになります。」

メザリヤ様の考えていらっしゃらなかったことを僕が思いつくのは、結果として、王家は辺境伯家の最後のお一人の同意を得て辺境伯家をつぶし、辺境伯領を王領に変えることに成功しそうになっているという現実があるから。


「辺境伯領が王領になるだけです。辺境伯家から王家へと統治者は変わりますが、マルクが責任者となることは決まっています。領民も含めて、今後の心配はしていません。」

メザリヤ様は、信頼関係ができた人への身内意識が強すぎる。マルク様は、王太子様の部下でメザリヤ様の部下じゃないということを理解されてはいらっしゃっても、完全な味方じゃないとはお考えになっていない。王太子様への信頼と王太子妃になられることが決まっていることが影響している?

「メザリヤ様。辺境伯家の騎士の仕事内容が変わらないから、とお考えでしたら今すぐにお改めください。」


「デニス、辺境伯家の騎士を見たことがありませんか?辺境伯家の騎士に腑抜けはいません。どの騎士も辺境伯家と辺境伯領を支えてきました。」

メザリヤ様が辺境伯家の騎士を誇らしいと思うお気持ちは辺境伯家の令嬢として間違ったものじゃないけれど、辺境伯家の令嬢じゃなくなった後の見通しが甘すぎる。

「メザリヤ様。辺境伯家がなくなれば、主人を失った騎士は、新たな主人に仕えるか騎士を辞めるかになります。辺境伯家が土地持ちの貴族であられたから、代々辺境伯家の騎士という家系がありましても、王領となれば、今まで通りに騎士とはいきません。」


「デニス。王領になりますから、王家が主人に変わるだけです。騎士は騎士です。」

メザリヤ様の認識は、騎士は騎士だという思い込みもあるけれど、辺境伯領から王領になると何が変わるかについて、メザリヤ様がお尋ねにならなかったことは教えないことを徹底された尊いお方の思惑が透けて見える。


辺境伯家の実子様でいらっしゃるメザリヤ様はその自負と責任感があるためらエレインを敢えて無知にするときとは違って、メザリヤ様を安心させることで伝える情報を取捨選択してきた尊いお方のご意向に真っ向からぶつかることをしている自覚はある。


マルク様が黙っておられるのは、いずれメザリヤ様の耳に入る話なら、今、配下となった僕が話す形でお耳に入れておく方を選ばれ黙認されているから。仕えられる人生を送られてきたメザリヤ様は、マルク様が黙られている意味を考えるまではなされない。


進言するのがソロアでは近すぎる。メザリヤ様を主人とした僕がお伝えするのが一番良いと僕が思うことさえマルク様が見越されているなら、メザリヤ様はマルク様のてのひらで転がされすぎだ。


マルク様が僕にメザリヤ様の配下たれ、と話された理由が分かった。メザリヤ様は権力闘争に明け暮れられたせいか、信用する相手の

「メザリヤ様。騎士は、仕える主人を選びます。主人も任命する騎士を選びます。」

メザリヤ様は、辺境伯家の騎士は辺境伯家がなくなったときに職を失うことに思い至られ、慌てて宣言された。

「わたくしが、辺境伯家の騎士の温存を働きかけます。」


「メザリヤ様。辺境伯家の騎士が誰もメザリヤ様につかなかったという事実のままで、辺境伯家の騎士の温存を王家に働きかけても相手にされません。王太子妃になられるメザリヤ様の手足となり、王家の統治を助ける見込みがない騎士に、辺境伯家のときと同じ待遇と権力を残せば、王家が王領を統治することに対して従順とはいえない抵抗勢力を内側に抱えたままになります。マルク様が兵士を率いてこられたのは、騎士が不在になることと無関係ではございません。」


メザリヤ様は、さらに慌てられた。

「マルクとデニスとソロアが揃えば、新体制になっても騎士と協力出来ませんか?」

マルク様が方向性を明示される前に、僕は急いで言葉をつけ足す。

「マルク様は、出自が辺境伯領ではない平民で、率いているのは兵士です。僕は辺境伯領の領民ですが、端っこの村の村長で平民です。メザリヤ様の侍女だったソロアも身分は平民です。辺境伯家の騎士は、辺境伯領の貴族や、辺境伯家が取り立てて騎士とした元平民で、平民ではありません。辺境伯家がご領主であられる辺境伯領で、貴族や騎士が平民の下についたことは、辺境伯家の歴史が始まってから通例になるほどございましたか?」


メザリヤ様は、言葉に詰まられていた。僕の問いかけは皮肉や批判に聞こえないこともない。ご自覚がないご様子だけれど、メザリヤ様は平民を貴族のように使うことで平民を使うことに慣れていらっしゃる代わりに、貴族と平民を併せて使うことについての感覚がおぼつかなくいらっしゃる。


貴族家としての歴史が王家と変わらないくらい長い辺境伯家。辺境伯家と辺境伯領内で通用してきた序列を理解しきれなかったメザリヤ様の敗因は、辺境伯領内の貴族からの支持を取り付けられなかったから?


辺境伯家の体制に不満を持たれていないからこそ、メザリヤ様は、辺境伯家の騎士をこのまま残すという発想になられた。


僕がまずすることは、辺境伯家を掌握に失敗された原因をご理解されないままのメザリヤ様に、辺境伯家だけを畳んで辺境伯家の体制を維持することは不可能だとご理解いただくことからだ。


「メザリヤ様。メザリヤ様の侍女を増やそうとしたときの話をお聞きください。」

返事に困っている主人にソロアからの助け舟。

「聞きます。」


「メザリヤ様にお仕えしたいと考えていた貴族令嬢はおりましたが、メザリヤ様にお仕えする侍女の筆頭の私の下につきたい貴族の娘が居なかったのです。」

ソロアのしのびなさそうな告白を聞いたメザリヤ様は小さく頷かれた。

「ソロアの下につきたくないと直談判されたことは、わたくしにもあります。ソロアに話したことはありませんでしたけれど。」


「メザリヤ様。私の下につきたくないという貴族令嬢が私に話した意味の理解が遅くなり、申し訳ありません。メザリヤ様を主人として思うのなら、メザリヤ様の信頼を得ている私がメザリヤ様に進言し、メザリヤが主人らしい采配を示せば、貴族令嬢とその家が出している騎士は、メザリヤ様が引き込めました。」


ソロアの後悔を聞いたメザリヤ様は、一瞬だけ、まぶたを閉じられた。

「わたくしはソロアが大好きで、ソロアと離れるなんて一瞬たりとも考えられませんでした。わたくしとソロアは、互いのことを思いやって黙っていましたが、その互いに向ける思いやりと近すぎる距離感をわたくしが作ってしまったせいで、共有しなくてはならない情報を共有していませんでしたね、わたくし達。」


メザリヤ様の叶えたかった夢は破れてから時間が経ち、新しい道も決まっていて、既に引き返すことができないところまできている。貴族と平民の距離感の意味を悟った時期のせいか、メザリヤ様もソロアも感情を大きく揺らすことはなかった。


「メザリヤ様をお支えしきれず、申し訳ありませんでした。」

ソロアが頭を下げる。

「ソロア、頭を上げなさい。いつも通りに姿勢も戻して。ソロア、わたくしの成功を遠ざけたのは、わたくし自身の在り方だとわたくしは断言できます。」

「メザリヤ様。」


「わたくしは、平民のソロアを良しとしてソロアの主人になりました。平民を侍女にしたわたくしは、自分の家について、侍女の侍女が弁える以上のことを知っていなければなりませんでした。平民の侍女に知る術はなかったのですから、当然のことです。」

メザリヤ様がソロアに優しい目を向けて語られるのは、辺境伯家を畳むという未来自体が変わらない以上、後悔の中から次に進むための何がしかを示してやるのが主人の務めだから。


「メザリヤ様。王太子妃の侍女は貴族令嬢か貴族の夫人です。」

マルク様が、そっと言い添える。

「マルク、ソロア。わたくし、これまで、王太子妃としての侍女を決める基準をソロアにしていましたが、王太子妃となる以上は、変えますわ。」


「王太子妃の侍女に平民をつけない理由は、辺境伯家の事情以上にありますが、内政においても外交においても、国の中枢にいる以上、失態の原因が知っているはずのことを知らなかったからというのは、最初につぶしておかなくてはならないんですよ。」

マルク様は、優しく説くように話している。

「辺境伯家令嬢として生まれたわたくしが知るべきことは何かを理解していなかった結果が、辺境伯家の掌握失敗でしたわ。マルク、わたくし、もう同じ轍は踏みません。」

メザリヤ様は、ニコリと微笑まれた。


「侍女を決定するまで、まだ時間の余裕があります。メザリヤ様のご希望ですから、王太子殿下が自ら再調整をかけますよ。」

マルク様は軽く請け負う。

「わたくしの侍女の筆頭にいつまでソロアを置くのかと聞きにきた者に、わたくしは、ソロアほどの信頼できる侍女がわたくしにはいないので、ソロアを筆頭から外すことはしないと答えましたわ。その後から、貴族が侍女候補に名乗り出てこなくなりました。思い返せば、いなくなったなは侍女候補だけじゃありませんでした。騎士もです。辺境伯家の令嬢としてはわたくしにつきますけれど、わたくしの専属の話には消極的になりましたわ。」

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