5,歓迎会
食事の用意が整い、四人はダイニングルームの大きなテーブルの端に向かい合って座っている。
「すげー」
料理を眺めて感嘆の声を上げる東吾に、練がまたも言う。
「里樹さんは料理人なんですよ」
「ほお……。てか、これってどういう状況っすか?
今日は寮母の女性はいないんすか?」
東吾が問いかけるように里樹を見た。とりあえず部屋に荷物を置いて来てもらっただけで、彼にはまだ事情を説明していないのだ。
そこで、里樹は再びこれまでの経緯をざっと話した。
「……というわけで、今日は二人の歓迎会です。料理は僕が作ったけど、買い出しやなんかは練くんも協力してくれたんだよ」
「センパイ、ありがとうっす」
東吾が練に向かって頭を下げた様子がおかしくて、みんなが笑い、場が和んだ。
「それじゃ、食べようか」
「いただきます」
「いただきます」
「腹減った~」
唐揚げを頬張りながら、東吾が言った。
「それにしても、俺のほかに高校生が二人だけとは。大学生がいっぱいいるんだと思ってたけどな」
「なんかすいません」
目を伏せた練を見て、東吾があわてたように言った。
「いや、別にそういう意味じゃ……」
里樹はすかさずとりなす。
「あっ、じゃあ、食べながら自己紹介しようか。みんな初対面だし」
「そうっすね」
里樹が年齢順にと提案したのは、東吾からという意味だったのだけれど、なぜか里樹から自己紹介することになった。
「えっ、僕も?」
「もちろん」
東吾の言葉に、練と湊もうなずいた。それで、里樹はいったん箸を置いて、小学生のときに両親を亡くしてから、ずっとここで暮らしていたことと、普段はレストランで働いていることを話す。
「料理の道に進んだのは、ここで伯母さんを手伝っていたことがきっかけだよ。性に合っていると思ったし、僕には会社勤めは無理そうだと思ったから」
湊が言う。
「なんで会社勤めは無理だと思ったんですか?」
「うーん……。人見知りが激しくて、人付き合いが苦手だから、かな」
「全然そんな感じしなかったけど」
そう言ったのは練だ。
「僕も人付き合いは苦手なほうだけど、里樹さん、すごく話しやすくて、鞠子さん、あっ、寮母さんのことだけど」
二人にそう説明してから続ける。
「鞠子さんの甥御さんが、里樹さんみたいな人でよかったって思いましたよ」
「それはどうも」
ちょっと照れくさくい。すると、湊が言った。
「僕も、ここに来るまではすごく緊張していたけど、里樹さんも練くんも優しくて安心しました」
「はあ」
練と目が合う。彼も照れくさそうな顔をしている。
東吾がニヤニヤしながら言った。
「早くもいい雰囲気っすね。ちなみに、里樹さんって今何歳なんすか?」
「二十六歳」
「へえ、若く見えますね。俺とそんなに変わらないかと思った」
練と湊もうなずいている。
「そうかな」
今まで、自分の見た目年齢について、あまり意識したことはなかったけれど。
「そうですよ」
「ホントホント」
そんなものかと思いながら、里樹は、東吾に向かって言った。
「じゃあ次、君どうぞ」
「俺? 俺はたいして話すこともないけど、今までテキトーに生きて来たから、環境を変えて人生やり直そうと思って、革新的で、いろんな可能性が見つかりそうなシブフォート学園を選んだんだ」
そこまで言って、東吾はふと視線を落として黙り込む。意外な反応に、里樹が戸惑っていると、湊が無邪気な声を上げた。
「東吾さん、ギターを持っていたけど、音楽やるんですか?」
「えっ……いきなり『東吾さん』? てか俺、下の名前言ったっけ?」
「えっ、そこですか? 名前なら、来る前から里樹さんに聞いて知っていましたよ。
東吾さんって呼んじゃダメですか?
練くんが里樹さんのこと『里樹さん』って呼んでいたし、里樹さんも練くんのこと『練くん』って呼んでいたから、僕もそう呼ばせてもらうことにして、だから東吾さんのことも……」
「うわ、なんかややこし。ま、別にいいけど」
湊はさらに続ける。
「それで、東吾さんは音楽をやっているんですか? って、ギターを持っているんだから、やっているに決まってますよね。
ファッションもミュージシャンっぽいし、なんかカッコいいなあと思って」
東吾が、気まずそうに言った。
「今はもう、音楽はやめてるんだよ。ホントはギターも置いて来ようと思ってたんだけど……」
「そう、なんですか」
しばし気まずい沈黙が流れた後、練が顔の横に右手を上げて言った。
「あっ、じゃあ、次は僕が自己紹介します」
そして彼は、里樹がすでに聞いている、ここで暮らすようになった経緯を話した。
「……そういうわけで、ここはもう一年になるので、わからないことがあればなんでも聞いてください。
あっ、もちろん、里樹さんに聞いてもらってもいいんだけど。以上です」
そう言って練がしめくくったので、里樹は湊を見る。
「じゃあ、最後は君だね」
「あ……はい」
さっきまで元気に話していた湊は、硬い表情で話し始めた。
「僕がここに来たのは、父親から離れるためです。それができれば、正直学校も寮も、どこでもよかった。
父親がDVで、僕を守るために、お母さんがいろいろ探してくれて、たまたまシブフォート学園とこの寮にたどり着いたんです」




