4,新入生たち
それから、里樹は改めて礼を言った。
「伯母さんのために、救急車を呼んで一緒に乗って行ってくれたんだってね。本当にありがとう」
「いえ、鞠子さんは救急車なんて大げさだって言ったんですけど、立ち上がれそうになかったし、ほかに誰もいなかったから、そうするしかなくて」
ほかの寮生たちは、みな大学を卒業して退寮した後だったのだ。
「悪かったね。一人で心細かったでしょう?」
練はほほえむ。
「救急車を呼ぶなんて、初めてだったからドキドキしたけど、鞠子さんも意識はしっかりしていたから」
「入院の支度やなんかも、いろいろやってくれたんだってね」
「僕はただ、鞠子さんに言われた通りにしただけですけど」
「でも、君がいてくれて本当によかったよ」
里樹は心からそう思った。
練も料理をするというので、夕食は一緒に作って食べる約束をして、里樹はいったん、自分の部屋に向かった。
数日後のこと。その日やって来ることになっているうちの一人は、この寮では二人目となる高校生だった。
それで、彼を迎えるにあたり、練にも同席してもらうことにした。
練は一年ほどここで暮らしていて、寮の実際のあれこれについては、むしろ里樹よりくわしいかもしれない。
この数日を一緒に過ごして、穏やかな人となりもわかり、彼がいたほうが、新入生の緊張が和らぐのではないかと思ったのだ。
入寮時の段取りは伯母から聞いているものの、正直なところ、里樹自身も緊張している。
「いらっしゃい」
笑顔を作って言いながら、里樹は、さりげなく彼の背後に目をやる。
保護者に伴われてやって来るとばかり思っていたのだが、彼一人だけだ。
四月から高校一年になるという彼は、小柄で、とても幼く見える。
硬い表情で彼は言った。
「ええと、真那崎 湊です。今日からお世話になる……」
里樹は、ドアを大きく開けながら言った。
「どうぞ入って」
彼を伴ってリビングルームに行くと、さっそく練が紅茶とクッキーを出してくれる。
「こんにちは」
「こんにちは」
練の言葉に答えてから、湊は言った。
「ええと、契約するときにいた寮母さんは……」
そこで、里樹は説明する。
「僕は寮母の畝本鞠子の甥の、里樹です。実は……」
テーブルに着きながら、里樹が鞠子の留守を預かることになった経緯を手短に話すと、湊は納得したようにうなずいた。
それから里樹は、練に向かって言った。
「真那崎 湊くんだよ」
「よろしくお願いします」
練はぺこりとお辞儀をする。
「喜古嶋 練です。どうぞよろしく」
里樹は説明する。
「彼は今、ここの唯一の寮生で、フォレストハウス初の高校生でもあるんだ」
「そうなんですか」
湊は、どこかほっとしたような顔をする。
「今日はもう一人、大学生が来ることになっているんだけど」
里樹は時計を見る。次のバスで来るだろうか……。
湊の部屋の案内等は練にお願いして、里樹は今夜の料理に取りかかった。
新しく入って来た寮生のささやかな歓迎会をするのだ。
ここでは、基本的に朝晩は、みんなそろって食事をすることになっている。
それが伯母が定めた規則の一つだ。
伯母は、そうすることで寮生たちの栄養面をサポートできるし、寮生同士の親睦も深まるし、いつも彼らと接していれば、何か異変があったときにもいち早く気づくことができると言う。
夕方なり、練と湊が連れ立ってキッチンに入って来た。
「わあ、いい匂い」
すっかり練と打ち解けた様子の湊が、無邪気な声を上げた。練が言う。
「里樹さんは料理人なんだって」
「へえ、そうなんですか?」
湊のキラキラした目をまぶしく思いながら、里樹は答える。
「まあね」
練が、里樹を見て言った。
「そう言えば、もう一人の人は、まだ来ないんですか?」
「そうなんだよ。日曜日の最終のバスは何時だったっけ」
今日は日曜日なので、平日よりバスの本数が少ないのだ。
「たしか、駅を出るのが六時くらいだったと思いますけど」
「じゃあ、そろそろ着くかな」
「そうですね」
口には出さずに、里樹は思う。そのバスに乗っていればいいけれど。
もしも乗り遅れたら、とても歩いて来られる距離ではないし、初めてでは道もわからないだろう。
その場合はタクシーで来るしかないけれど、大丈夫だろうか……。
あまりに遅いようなら、書類を見て、携帯電話の番号にかけてみようか。
彼の名前は、たしか鳴滝東吾。
手を動かしながら、そう思っていると、玄関のチャイムが鳴った。
思わず三人で顔を見合わせ、そろって玄関へと向かう。
ちょっと驚いたように三人を見回してから、彼は口を開いた。
「遅くなってすいません。今日からお世話になる鳴滝です。
忘れ物を取りに戻ったもんだから、こんな時間になっちゃって」
ブラックデニムにゴツい革のブーツを履いた長身の彼は、ギターケースを肩にかけている。




