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38/43

38,稜平からの手紙

 近づいてケースを開け、数ヶ月ぶりに取り出しで抱えてみる。ああ、懐かしいこの感じ。

 

 稜平のキーボードとセッションしたくて、初めて買ったギターだ。Fを押さえるのはむずかしかった。

 

 最初は指が痛かった。ずっと弾いていないから、指の胼胝もほとんど消えてしまった。

 

 正面からよく見ようと、ギターを傾けたそのとき、かすかな音がして、ギターの中を何がが動く気配がした。

 

 え? 様々な向きにギターを傾けながら中央のサウンドホールからのぞくと、折りたたまれた紙が入っているのが見えた。

 

 手を突っ込んで取り出し、開いて見ると。

 

「……嘘だろ?」

 

 それは、東吾に宛てた稜平からの手紙だった。

 

 

 

   東吾へ

   

 君がこれを読むとき、僕はもういない。

 

 こんな芝居じみたことをしてごめん。

 

 こういうの、きっと君は好きじゃないよね。

 

 本来ならば、実際に会って、顔を見合わせながら話すべきなのはわかっている。

 

 でも、どうしてもそうする勇気がなかったんだ。

 

 もしも会って話したら、きっと君は僕を止めるだろうし、僕の決心も揺らいでしまう。

 

 本当は、ずっと君と一緒に笑っていたかった。

 

 バンドのみんなと、いつかライブハウスで演奏したかった。

 

 それがみんなの夢だったのに、僕だけ勝手に離脱してごめん。

 

 だけど、もう決めたことなんだ。

 

 これから、今まで誰にも話したことのないことをここに書く。

 

 君にだけは、本当のことを知っていてほしいから。

 

 なぜなら、君は僕にとって、たった一人の親友だから。

 

 多分、君は気づいていないと思うけど、僕はゲイなんだ。

 

 初恋のときから、好きになる相手は、ずっと同性だった。

 

 だけど、大っぴらに口にしていいことじゃないのはわかっていたから、誰かを好きになっても、ずっと心の奥に秘めてきた。

 

 女の子に告白されたこともあったけど、いつも断ってきた。

 

 性癖を隠すために、本心を偽って女の子と付き合うことも考えたけど、それはさすがに相手に失礼だから。

 

 ゲイであることを疑われたり、変な目で見られることもあった。

 

 嫌な思いをしたこともあったよ。

 

 そんな中で、初めて本当の親友だと思えた相手が君だった。

 

 君は純粋に友達として僕を見てくれて、一見、ちょっと怖そうなのに、話すととても面白くて、好きな音楽も一緒だった。

 

 君と過ごした数年間は、本当に楽しかったよ。

 

 でも、その一方で、僕は運命の人と出会っていたんだ。

 

 初めての恋人ができたんだよ。

 

 その人とはネットで知り合った。

 

 ずっと年上で、遠くに住んでいて、月に一度、彼が仕事で東京に来るときだけ会えた。

 

 それでも、彼がこの世界に存在しているというだけで、僕はとても幸せだった。

 

 だけど、いつものように一ヶ月ぶりに会ったとき、突然、彼に別れを告げられた。

 

 理由を聞くと、重い病に侵されているというんだ。

 

 病状が進んでいて、手術をしても助かる見込みはないって。

 

 これからどんどん症状が重くなって、具合が悪くなって、会いに来られなくなるだろうからって。

 

 仕事も辞めると言っていた。

 

 それなら、僕が会いに行くと言ったけど、それはダメだと断られた。

 

 自分がやつれて醜くなっていく姿を見られたくないからって。

 

 今の姿を覚えていてほしいからって。

 

 悲しかったけど、そう言われたら、受け入れるしかなかった。

 

 彼がいやがることはしたくなかったから。

 

 そうして、僕たちは別れたんだ。

 

 辛くて、毎晩部屋で泣いた。

 

 君やバンドの仲間と過ごす時間だけが救いだった。

 

 その彼が、死んだ。

 

 彼は会社の同僚に、僕のことを取引先の関係者だと偽って、自分が死んだら、僕に連絡が来るようにしていたんだ。

 

 それが、彼の僕への愛だったんだと思う。

 

 僕が彼の死を知らないまま、いつまでも思い続けないように。

 

 学校を休んででも葬儀に行きたいと思ったけど、やっぱり行けなかった。

 

 彼の家族や同僚に不審に思われるだろうし、彼に迷惑をかけたくなかったから。

 

 だけど、たとえ彼がこの世からいなくなってしまっても、僕の彼を好きな気持ちは変わらないし、彼を忘れることなんてできない。

 

 彼のことが好きで好きでたまらない。

 

 彼に会いたくてしかたがない。

 

 君のことは大好きだし、ずっと一緒にいたかったけど、もう限界なんだ。

 

 もうこれ以上、辛い気持ちを隠して、明るい僕を演じることはできない。

 

 今までどうもありがとう。

 

 君のおかげで、人並に楽しい青春を過ごすことができた。

 

 いくら感謝してもしきれないよ。

 

 これから彼に会いに行く。

 

 今僕は、とても幸せだよ。

 

           稜平

           

           

           

「ふざけんなよ」


 意志とは関係なく、東吾の目から、涙がぼたぼたとあふれては落ちる。

 

「なんで俺に言わなかったんだ。なんで本当のことを言って、俺の前で泣かなかったんだ。


 俺なら、それくらい全部余裕で受け止めてやるって、どうしてわからなかったんだ。

 

 てめえ、なめてんじゃねーぞ!」

 

 座り込んで手紙を読んでいた東吾は、拳で床を叩いた。

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