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19,最善策を考える

 物置から、祖父母が庭いじりをするときに使っていたスコップを持ち出し、懐中電灯の灯りで照らしながら、母と湊は庭に穴を掘り、そこに父の遺体を埋めた。


 ほっそりとした母と小柄な湊には重労働で、すべてを終えた頃には空が白み始めていた。

 

 作業の間中、まるで責めるかのように、強い風が庭の木々と二人をなぶっていた。


 疲労とショックで、湊は倒れ、数日の間学校を休んだ。母がシブフォート学園とフォレストハウスを見つけ出したのは、それから少し後のことだった。


 母は湊に、今までのことはすべて忘れて、学校生活を楽しむようにと言った。

 

 湊には、その権利があると。




 湊の告白に、三人は言葉を失った。話し終えた湊は、気分が悪いのか、背中を丸め、片手でテーブルの縁につかまるようにしてうつむいている。


 里樹は、なんとか言葉をしぼり出した。


「それで、今お母さんは?」


 湊は、か細い声で答える。


「家に、一人で。あいつの死体が埋まった家に、お母さんが一人で暮らしているのかと思うと……」


 それから彼は、隣の練に向かって言った。


「お姉ちゃんのこと、嘘をついてごめんなさい」


 事情を知らない里樹と東吾に、練が説明してくれた。湊は練に、年の離れた姉は海外で働いていていると言ったそうだ。


「海外にいるっていうのも、いつか三人で暮らしたいと話しているっていうのも、全部嘘。


 本当は、お姉ちゃんが今どこでどうしているのかも知らない。あれは、そうだったらいいのになっていう、僕の願望。


 あいつが特に僕に暴力を振るうって言ったのも、そういうことにしないと、僕だけを逃がして、今もお母さんがあいつと暮らしているっていうのは不自然だと思ったから……」


 言いながら、湊は目元を拭う。練は、湊の肩にそっと手を置く。


「謝らなくていいよ」


 そこで、東吾が口を開いた。


「こういう言い方は間違っているかもしれないけど、そんな話、俺たちにしちゃってよかったのか? 


 つまり、お母さんは、お前を守るために……」


 湊の顔が歪み、涙があふれる。


「だって、こんなこと、耐えられない。僕は、僕は……人殺しなのに、素知らぬふりをして、みんなに優しくしてもらう資格なんかない!」


 すると、練が言った。


「それなら、僕だって同じだよ。僕だって人殺しだ」


「違うだろ、弟は交通事故で死んだんだろ」


 ただちに否定した東吾に練は言う。


「それだけじゃない。僕は、お母さんのことも……」


 練は、母が亡くなった日の出来事を話した。


 

「死因は、心不全でした」


「だったら、練のせいじゃないだろ?」


 東吾の言葉に、練は首を横に振る。

 

「僕が学校から帰ってから、何時間も経っていた。もしも帰ってすぐに部屋に行っていたら……」


「それは、練の優しさだろ? お母さんを起こしちゃいけないと思って」


「優しさなんかじゃない。僕は、怖かった。


 お母さんの本音に触れるのが。お母さんに、航を死なせたことをなじられるのが。

 

 だから、いつも知らん顔をして。あの日も、お母さんが苦しんで助けを求めていたかもしれないのに、そんなことは考えもせず、気づきもしないで……」


 言葉が途切れ、練は辛そうにうつむく。



 なんということだ……。里樹が呆然としていると、湊が両手のひらに視線を落としながら言った。 


「やっぱり、僕と練くんとでは全然違うよ。僕は、実際にこの手で……」


 戸惑いながらも、里樹は言う。 


「二人とも、辛いことを、よく話してくれたね。これからどうすればいいか、一緒に考えよう」


 まずは、湊が告白したことについて考えなくてはいけない。そう思っていると、東吾が言った。


「湊はどうしたいんだ。俺たちに話したのは、それなりの覚悟があってのことだろう?


 俺たちだって、もう話を聞く前には戻れないんだぜ」


「あ……ごめんなさい。こんなことに巻き込んで……」


「別に責めてるわけじゃねえよ。ただ、聞いたからには、里樹さんも俺も、どうするのが最善か一緒に考えるって言ってるんだ。


 練もそうだよな?」


 練はこくりとうなずく。


「責めたりしないよ。今まで湊くんがどんなに辛かったかと思って……」


 湊の目からぽろぽろと涙がこぼれる。


「お母さんは、今までのことはすべて忘れなさいって。それで、これからは自分のことだけ考えて、やりたいことはなんでもやって、うんと人生を楽しみなさいって。


 当分家には帰って来ないほうがいいとも言われた。お母さんのことは気にしなくていいからって。


 僕も、最初はそうしようと思ったんだ。だって、悪いのはあいつだから。


 あいつのせいで、僕は小さい頃からずっと辛い思いをしながら生きて来て、あのときだって、あいつがお母さんにひどいことをするから……。


 だけど、どんな理由があったって、僕が人殺しなことには変わりない。

 

 そのことを胸の中に抱えたまま、平気な顔をして生きて行くなんて、やっぱり僕にはできない」


 湊は涙に濡れた頬を拭う。練の目も涙で潤んでいる。


 里樹は、慎重に言葉を選びながら話す。


「起きてしまったことは変えられないし、湊くんがしたことも、お母さんが決めたことも、気持ちは理解できるよ。


 必至にお互いを守ろうとした結果だって。


 それについては、他人がとやかく言えることじゃないと思う。でも、湊くんがこのままではいられないというなら、まずはお母さんと話をするべきなんじゃないかな」

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