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11,一つのベッドで

 ドンドンドン、ドンドンドンドン。激しいノックの音に、だんだん意識が戻るものの、まだ眠くて目が開けられない。

 

 目を閉じたままでいると、ドアが開く音がした。そして。

 

「おっ……お前ら、何やってんだよ!」


 大きな声に驚いて、ようやく目を開けると、仁王立ちの東吾が見下ろしている。

 

「……え?」


 口をパクパクさせながら、東吾が指差す。練の横には、練の肩に身を寄せるようにして、まだ眠っている湊がいる。

 

「ああ、ゆうべ、遅くまで話し込んじゃって」


 一向に風が弱まる気配はなく、湊が怖がるので、そのまま一緒に寝たのだ。

 

 憮然とした表情で東吾が言った。

 

「もうとっくに朝飯の時間を過ぎてるぞ」


「えっ、今何時ですか?」


 そういえば、うっかり目覚ましをかけるのを忘れていた。

 

「もう七時十五分になるところだよ。お前らがいつまで経っても下りて来ないから呼びに来たんだよ」


 それですっかり目が覚めた。練は湊の肩を揺する。

 

「湊くん」


「ん……」


 湊は眠そうに目をこすっている。

 

「湊くん、起きて。遅刻だよ!」




「里樹さん、来てください!」


 何事かと廊下に飛び出る。東吾の声がしたのは、隣の練の部屋だ。


「湊くんがいないんだ」


 そう言いながら部屋に入ると、東吾が黙って部屋のベッドを指差した。


「あ……」


 ベッドには、あわてた表情の練と眠そうに目をこする湊が、まだ体に布団を掛けたまま上体を起こして座っている。


 ポカンとする里樹の前で、東吾が二人に向かって言った。


「お前らってそういう関係なわけ?」


「……え?」


 今度は練がポカンとする。湊は相変わらず眠そうにぼんやりしている。


「つまり、ベッドを共にする関係なのかって聞いてるんだよ」


 里樹が言葉の意味を理解する前に、東吾は言い放った。


「だから、お前らは恋人同士になったのかって聞いてるんだよ!」


「こ……こ……はあっ!?」


 練の顔が見る見る真っ赤になる。


「そんなわけないじゃないですかっ!」


 ようやく意味がわかった里樹は焦る。


「そ、それはちょっと……」


 こういう事態は想像もしていなかった。だが、里樹の頭になかっただけで、決してあり得ないことではない。


 それはそうなのだが、伯母になんと言えば……。里樹が困惑していると、湊がかすかに首をかしげながら、他人事のようにつぶやいた。


「コイビト?」




「いただきます」


「いただきます」


 通常より四十分ほど遅れて朝食が始まった。しばらくの間、みんな黙々と食べていたのだが、気まずい沈黙を破ったのは東吾だ。


「俺は別に、男同士でそういう関係になることが悪いとは思っていない。ただ、会ってまだ数日で、しかも寮の部屋のベッドでっていうのは、さすがにまずいんじゃないか?」


 練が、ことんとマグカップをテーブルに置いて、苛立ちをにじませて言う。


「だから、そんなんじゃないですって」


「だったらなんなんだよ」


「さっきも言ったように、遅くまで話していて。最初は湊くんが、風の音が怖いって言って部屋に来たんです。


 いつまでも風が止まないから、じゃあ今夜は一緒にここで寝ようかって」


 湊はうなずき、さらりと言った。


「ホントです。僕、練くんがお兄さんだったらいいとは思ったけど、一応恋愛対象は女の子なんで」


「ほ、ほう」


 湊に目をやる東吾に、彼は無邪気に尋ねた。


「東吾さんは男の人が好きなんですか?」


「ちっ、違うよ。……って全力で否定するのもおかしいけど、俺はそうじゃない。


 ただ、そういうことに理解はあるつもりだし、同性が好きだからって一人で悩んだりせず、なんでも話せる環境が大事だとは思っている」


 練が言った。


「東吾さんの気持ちはわかりましたけど、僕も湊くんのことは弟みたいに感じているだけです。一人で悩んでもいませんし」


 湊がまた、さらりと言った。


「一緒にベッドで寝ていただけなのに、想像が飛躍し過ぎですよ」


 練もうなずく。


「そうですよ」


「そうか……」


 がっくりとうなだれる東吾がかわいそうになって、里樹は助け舟を出した。


「でも、東吾くんは二人のことを心配して言ったんだよね」


「はあ……。たしかに、過剰反応でした。実は」


 うなだれたまま、東吾は話す。


「高校のとき、親友が自殺したんです。それで、後からそいつがゲイだったらしいって知って。


 やつが俺に何も話してくれなかったこともショックだったけど、まったく何も感じ取れなかった自分が情けなかった。


 俺が気づいて、こちらからアクションを起こしていたら、やつも打ち明けてくれたかもしれないし、そうすれば、もしかしたら自殺も防げたかもしれないと思って……」


「そうだったんですね。生意気なことを言ってすいませんでした」


 練が切なげな顔で頭を下げ、湊も言った。


「僕も、すいませんでした」


 みんな若くしていろいろ抱えているものがあるのだなあと里樹は思う。それは自分も例外ではないけれど。


「こんなふうに、なんでも話せるのはいいことなんじゃないかな。これからも、悩み事とかわからないこととか、気軽にみんなで話せるといいね。


 さあ、食べちゃおう」

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