8話「白石 穂乃美という女の子」
「──────はぁ〜…息が詰まった〜」
生徒会顧問である長万部先生の滞在していた僅か五分足らずの時間、飛び火を恐れ黙りこくって事態を不安そうに見詰めていた彼女、平八重美里が置き物のように静かに息を殺していた教室の隅から勢いよく踊り出てくる。
持参した甘いばかりの清涼飲料水を小さな身体に勢いよく流し込み、ぷはっ!と音を立てて飲み干すと満足気な表情を浮かべる。
喉が干上がったのはどう考えても僕の方だろうに…と羨ましそうにした表情で見詰めると、怪訝な表情の後、納得のいった表情で空になったペットボトルを捨てろと言わんばかりに投げつけられる。
「さっき思ったんだが、生徒会室って普段鍵かかってるよな?」
入口扉前のゴミ箱に彼女の飲み干したペットボトルを捨てながら鍵穴の着いた扉を見やる。
小さな指先ほどの鍵穴、普段は職員室で鍵を朝一番に借りて、放課後の定例会議の後に返却する。
そんなルーティン。
「え?うん、そうね」
二人歩み寄って、連なって鍵穴の着いた扉をまじまじと見詰める。
一体なんの話なのか?と思案顔でいる彼女に、付け加えてこう伝える。
「となれば盗み出すなんて到底不可能な訳で、それこそ鍵を自由に使える教師か、若しくは生徒会の一員くらいのもんで」
「うん…そうね」
「平八重、お前…まさか…」
「はぁ!?もしかして疑ってる!?」
「うん。だってお前、──────ムッツリじゃん」
「なっ///!?」
「長万部先生は危険物だとか言ってたけどあれってあれだろ?スキンだろ?0.00mmなんて見た事も聞いた事も無いが……」
「だっ誰が!なんで私がその…スキン?…を盗まなきゃならないのっ!?」
「だって見てたじゃん」
「へ……?」
「いやあの日、田村くんが落し物届けてくれた日、お前なんかちょっと遅れるって残ったじゃん?」
「不自然だなぁとは思ったけどまあ特に気にもとめず帰ろうと思ったんだが、そういや議事録書いてないやって戻ったんだよ」
「──────ッ!?」
「そこにはまぁ〜真剣な眼差しで桐の箱に書かれた0.00mmの文字を凝視する女生徒……がっ!?」
「何見てんだっ!変態っ!このっ変態!」
勢いよく射出された小さな拳が、丁度肋骨の下部、鳩尾にメリメリとめり込み、思わず嗚咽が漏れる。
ここのところ、ボディコンタクトが頻発している為、幾らか慣れては来たのだが、やはり痛いものは痛い。
顔を真っ赤に染め上げて今にも二発目を繰り出そうと睨みつける彼女を両手で制止しつつ、最終確認だと告げ、念の為の確認。
「じゃあ平八重はスキンに興味は無いんだな?」
「え、興味?興味は…無いわけじゃないけど、って!何言わせんだっ!」
この様子なら、彼女は犯人では無いだろうと断定し、迷いなく振り抜かれた二発目の拳を片手で包み込むように受け止め、驚いた顔で繰り出した三発目ももう片方の手で難なく受け止める。
不意打ちでなければこんなものさ、と言わんばかりのドヤ顔でもって彼女を見れば、先程よりも更に赤く耳先までも染め上げ力なく顔を伏せている。
傍から見れば、両手を取り合う仲睦まじいカップルにでも見えそうなその状態に、なんだか気恥ずかしくなりパッと手を話すと、四発目五発目を警戒していた僕の横をスっと抜けると、音もなく自らの席の荷物を持って生徒会室を出て行った。
「相変わらず、よくわからん奴だな」
なんて口に出しこそしないが心の中で思ったのち、犯人候補が一人脳内リストから消えた段階で下校を促すチャイムが鳴り響く。
外は既に薄茜色に染まり、家に着く頃には真っ暗になるだろうと考える。
けれどもやはり、考えれば考える程に腑に落ちない。
確かあの日、昼を生徒会室でと思い向かったあの時…登校して直ぐに鍵を借りに行ったが既に誰かが借りていた為、何もせず職員室を後にした。
静かに食事をと思い昼休みに向かった生徒会室。
生徒会メンバーとの食事は嫌いではない為、既に誰か来ているなら問題なく開いているだろうと迷いなく足を運んだのだが、結局辿りつけずに昼休みは終わった。
何か、見落としている気がする。
確かあの日、ダンゴムシに擬態していたあの時なにか……。
「ところで、さっきから黙って一言も喋らないで、モジモジと何してるんだ、白石?早く帰らないと下校時間……」
「な!?なにもっ!──────なにもしてましぇんっ!」
「…………は?」




