6話「隣のクラスの田村くん」
隣のクラスの田村くん。
艶やかなサラサラ真っ黒な直毛。
猫の様に切れ長で大きく丸々とした瞳。
小柄な体躯は色白で、中性的な印象の強い彼を一言で形容するならば──────おとこの娘。
勉強はそこそこ、運動は苦手で、おっとりした性格から交友関係は広い。
なんでも三年になってからは我々生徒会の顧問でもある長万部先生と懇意にしているらしく放課後居残ってはマンツーマン、勉強に精を出しているらしい。
と、まあ彼の交友関係なんかは兎も角として、そんな彼が先日持ち込んだ落し物、小さな手のひらサイズの桐箱に手書き(毛筆)で0.00mmとだけ書かれた物が、確かに自らの席の物入れにしまったはずのそれが探せど探せど、やはりどうにも見つからないのだ。
「長万部先生、最近田村くんに付きっきりで生徒会に顔出さなくなったわよね〜」
「勉強以外にも精を出してたりしてな」
「は?なにそれ…きも」
辺り一帯を探し終え、額に汗を滲ませ諦めモードの彼女、平八重美里は既にその手をとめ、開け放たれた窓の縁に浅く腰掛けると、両手を団扇代わりに忙しそうに自らを仰いでいる。
室内の暑さに比例して段々と手の動きも激しくなり、逆に疲れてしまった彼女は気だるそうに天井を見上げながら、今し方話題に上がった田村くん、ではなく長万部先生についてほんのりと不満を織り交ぜた言及をする。
「最後に生徒会室で会ったのはもう何週間も前、確か三年の一学期が始まってすぐくらいだったか?」
平八重の言及に僕も少し思うところがあり、彼女と同様に捜索の手を止めると顧問である長万部先生の最近の動向について考える。
長万部 雪苺
確か歳は二十四歳で有名な将棋棋士と同じ歳だったはず。
生徒指導担当でもあり、先刻争ったというより一方的に滅多打ちにされた風紀委員長、蕪木 甜歌のクラス担任でもある。
生徒指導担当と言う事もあり規律を重んじ、校内における決まり事に関して非常に厳格であるが、我々生徒とも他の教員に比べ歳も然程離れていないという事もあり、一線を引いた上で程度の良い距離を築き、多方面から慕われている。
そんな彼女は我々生徒会とって、他の生徒達にとっても規範であり、とにかく頼り甲斐のある良い先生なのだ。
「そんな長万部先生が、ここ最近全く生徒会に姿を見せないのは一体どういう訳か……」
「クラス担任に生徒指導、それから生徒会顧問…もともと働きすぎなんじゃないの?」
「それはそうだ…けど、それでも週に一回は必ず顔を出していたじゃないか」
行事の準備は勿論、その進捗の確認。
放課後の定例会議に全校集会の資料作り等、どんなに忙しくても、その合間を縫って必ず彼女は顔を見せていた。
「あ〜ぁ長万部先生が居たらこんな色ボケ生徒会長一喝してくれるのに…」
「…あ!?まさかあんたが長万部先生になにかっ…」
「──────断じてしてないっ!」
「僕の野望である文化祭での『ノーパンしゃぶしゃぶ』実現に王手をかけるには、生徒会顧問である長万部先生の助力は必須だからな!」
「あの長万部先生があんたのそのふざけた野望を聞いて肯定するとは到底思えないんだけど、良くて…退学?」
「……まったくもってその通りだ!」
「なんで偉そうなの…」
ノーパンしゃぶしゃぶ実現に際して稟議書なる物を提出しなければならない。
かかる費用や、目的。
その内容や諸々の許可…それらを事細かに記入した稟議書を彼女を通して校長へと届け出なければならない。
彼女がそこで万が一にでも却下と一言言ったなら、如何に策を弄せどそれは徒労に終わり、スタート地点にすらも立てないのだ。
故に、長万部先生を、生徒会顧問を抱き込む事が実現に向けた最優先事項に他ならないのだが、事ここに至ってなお、彼女を懐柔する術をどうにも見つけだせずにいる。
「長万部先生に何か、弱みでもあればいいんだが…」
──────『私に弱みだなどと、どんな悪巧みをしているんだ生徒会長?』
「「長万部先生!?」」
一言一句違わぬ異口同音、反応までも二人シンクロした驚嘆の叫び。
悪臭対策に開け放たれた状態の引き違い戸から、音もなく颯爽と現れたのはまさに件の生徒会顧問、長万部雪苺その人だった。




