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第24話「ギムナジウム」

「おはようございます先生っ!私達生徒一同、先生を心待ちにしてましたにゃっ♡!」


「実に様になってるな、ともすると天職なんじゃないか?」


「──────くっ!?」


「さっさと帰れ...この、変態///!!」




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




『愛玩生徒♡ギムナジウム』

掲げられたネオン輝く看板には白背景に金文字、モスグリーン色の縁どりでそう書かれている。


良くあるコンセプトカフェの一種なのだろうが、愛玩の二文字が、どうにも劣情くすぐるものがあり、ともすればここは僕たち未成年が訪れていい場所ではないのではなかろうか?...などと思い悩み中々にその扉に近づけずにいる。


時刻は午後十二時。

昼時と言う事もあり、喧騒、往来激しい平八重 美里の最寄り駅からやや離れ、記載の住所に向かって一つ路地に入った先、赤レンガにダークブラウンのタイル、少しエイジング加工が施された、重厚な雰囲気のある建物が直ぐに視界に飛び込んでくる。


チャコールグレーの木製ドアには猫の飾り物がドンと構えられており、街中に突然現れた「古き良き異国」といった印象を強く受ける。


平八重との約束の時刻は適当に午後にでも、と特に指定は無かった為、白石と連なって出来るだけ早めに来たのだが、かれこれ十分はこうして猫の飾り物を見ながら店前でたじろいでしまっている。


「あっ!もしかして新しい先生かにゃ!?」


「「!?」」

などと不意に掛けられた声に思わず二人揃ってキュッと身を固める。


まるで異世界にでも迷い込んだかと思う語尾の持ち主、猫耳に胸当てとフリル付きの肩ひもがついた、エプロン姿の女の子がほうき片手に扉を開け放ち現れると「先生二人ご案内にゃ〜」となし崩し的、背中を押され、あれよあれよと言うままに中へと、半ば強引に誘われてしまう。


「白石、本当にここが平八重のバイト先なのか?...どう考えてもあいつがここで働いてる姿を想像出来ないんだが」


「う〜ん。住所も名前も建物も、間違いないハズなんだけど」


グループメッセージに送られて来たリンクには、確かにここの住所、名前が記載されており、写真を見ても先ず間違いない、はずなのだが...。


「そんなことよりっ!さっきの猫耳の女の子可愛かったね!」


「あぁ、今日日猫耳なんて手垢に塗れていてどうにもそそられないと思ってたが、有りだな!」

これは文化祭の出し物、ノーパンしゃぶしゃぶにおいても検討の余地有りと、急ぎ携帯のメモ帳へとしたためる。


「きっと、夜には沢山にゃんにゃん夜泣きするんだろうねぇ...」

とよく分からない発言を真昼間からフルスロットルでかます白石。

彼女の方、横を見やれば、口元にはきらりと光るものがたらっと垂れているのが見える。


ヨダレって奴はどうにも正直だ。


喉が乾いては干上がり、ご馳走を前にしては口内を潤沢に満たす。


酸っぱいものや辛いものを見ても溢れ出てくるが、それは何も食べ物に限った話ではない。


隣でだらしなく、一筋のこぼれたヨダレを慌てて拭う邪な表情をした彼女を見れば、それは先ず間違いのない確信的事象の一つだろうと、僕は思う。



「それにしても、内装はやっぱり異世界味があるなぁ」


「海外の学校がコンセプトなのかなぁ?」


胡乱な思考は程々に切り替え、案内されるがまま白石と向かい合う形で着席し、その目新しい内装に思わず辺りをキョロキョロと見回してみる。


高い天井、白い漆喰壁、重厚なダークウッドの腰壁に大きな縦長の格子窓から差し込む暖かな自然光。


経年変化で深みの増した風な加工の施されたオークやウォルナットの木製フローリング。


取り分け目を引いたのは僕たちの座る木製の長机と一体型のベンチ。

アイアンの脚がついたアンティーク調の学習机だった。


「学習机って事は先ず間違いなく学校がコンセプトで、僕たちを先生と呼ぶって事はウェイトレスである彼女達が愛玩生徒、とやらなんだろうな」


これもまた、是非とも取り入れたい要素だ!と再びメモに記入する。


「弓月くん、なっなんだかわくわくしてくるねっ!」


目を執拗に瞬かせ、きらきらととめどない光をこぼしている白石は放っておいて、木製の重厚なメニュー表を開くとこれまた趣向の凝られた目新しい物ばかり。


「図書室のクラシック・ブレンド」

深煎りの自家製ドリップコーヒー。アンティークなカップ&ソーサーで提供するにゃ。


「ガウンを纏ったロイヤルミルクティー」

アッサム茶葉を贅沢に使い、シナモンやスパイスをほんのり効かせた濃厚なミルクティー、当店おすすめにゃ。


などと実に興味深いものばかり。


「白石、どうする?僕はコーヒーにするけど...」


「私はおすすめのミルクティーにしようかな」


ゆっくりと端から端までメニュー表をみていたい気持ちはあるが昼時という事もあり混み合った店内、なるべく迷惑にならない様に取り敢えず飲み物だけでもと、即断し注文する。


「すいませーん!注文いいですか?」


『はーいっ!──────ただいま伺いますにゃっ』


明朗快活な、鈴の音を転がしたような応答が直ぐに帰ってくる。


次いでぱたぱたと、フローリングに足を打ち付けた小気味の良い音が響いたかと思えば、現れたのは衿付きの白ブラウスに、バーガンディの袖付きロングワンピースを纏った猫耳少女。


その衣装によく映える赤髪をフワフワと揺らし、後れ毛を直す仕草までもが様になっている小柄な少女は、紛れもなく...。


「お待たせ致しましたにゃ先生方。ご注文の際には三三十番、この出席番号で私...じゃないや、生徒をお呼び頂ければ直ぐにでも伺いますにゃっ!」


「え〜っと、本日のおすすめは植物学者のハーブティで、これはカモミールやラベンダーなどをガラスポッドに浮かべた...」


「って──────うげっ!?」


「白石せんぱいと...吹寄変態弓月...!!」


「そんな珍妙な名前で呼ぶなよ」


「なっ...なんで!」


「なんでって、平八重が来いって言ったんじゃないか」


「それに、その言葉使いはいただけないな」


「ッ!?」


「だってここでは、僕は平八重美里の──────先生なんだろ?」


「──────なっ///!?」


「猫耳、良く似合ってるじゃないか」



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