11話「隣りのクラスの田村くん②」
「ここにも居ないな……」
「もう、帰っちゃったのかな…?」
長万部先生の向かった先、凡そ見当がつく場所をしらみ潰しに、といっても然程の労力は要さないだろう。
なぜなら、職員室か教室、若しくは田村くんの待つどこぞの教室の三つに絞られるからだ。
問題は、その田村くんがどこで先生とマンツーマンの授業を行っているかだが、手始めに職員室に生徒会室の鍵を返却ついでに覗き、次いで彼女の担当するクラス、それから開け放たれた教室をいくつかサッと校内のおよそ八割程を見て回った時、労力を要さないという発言を前言撤回すると共に、ある事に気づく。
「下校時間過ぎてるから、やっぱりもう…」
「いや、先生は…田村くんは居る、それも確実に」
今朝方、生徒会室の鍵を借りた時、帳簿に自らの名前を書き示す時、三階隅に位置する今は物置きと化した空き教室の鍵が、長万部先生の名前と共に貸出となっていた。
そして今しがた生徒会室の鍵を返却した際には、未だ長万部先生のサインのある鍵は返却されていなかった。
今になって思うのは、風紀委員長の蕪木甜歌と邂逅したあの日、朝一番登校して直ぐに鍵を借りに行った時に、鍵の有無だけではなく、帳簿に記された名前を見ていれば、犯人は一目瞭然だったのでは…などと、過ぎた事を今更反省してみるが、今は栓のない懊悩であり、事ここに至っては瑣末な事
最早向かうは一箇所、アタリをつけて一階までわざわざと下った階段を再度三階まで登る。
「日頃の運動不足だな、これは…って白石?」
「あ…あのっその…ね?」
階段も二階にさしあたった時、やや前を登っていた白石が何か思い出したかのようにスカートの裾を抑え、その身を震わすと、おずおずと一段二段、それから僕の後ろへと更に数段歩を退げた。
「弓月くん前っ!前…登ってくれるかな?」
「…?あぁわかった」
理由こそ分からないが、彼女からは切羽詰まったモノを感じ、特に断る理由もない為素直に従う。
やっとの思いで三階へと登りきる頃には息も絶え絶えで、十代の人生において肉体的なピークとも言えるこの歳でこの体力は中々に危機感を覚えねばと、となりで息一つとして乱れていない、白石を見て強く思った。
廊下から見える教室にはズラっと同じ突き出し式の看板が並び、目的地はその最奥、普段は施錠された物置で何か大きな体育祭や文化祭なんかの行事の前後でなければ誰も立ち寄らない。
「なんでまたこんな場所で勉強なんか…」
「私…なんとなく分かる気がする」
「どういう意味だ?」
足早に廊下を駆け抜け、物置となった両開きの木製扉、空き教室の前へと到着した時、白石が妙に悟った様な意味深な表情と言葉を残す
「密室で鍵を掛けれて、人も寄り付かなくて、誰の目に触れる事も無い……長万部先生と田中君はきっと」
彼女がその言葉を最後まで言い切る直前、なんだ?この声…──────猫?
『田村〜?今日は〜雪苺も一緒に帰ってもいいかにゃ?♫』
「「──────お……長万部先生…?」」




