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「聖女失格」と断罪されたので、喜んで引退します ~好条件なら「副業」でやってあげますよ?~  作者: 彼岸茸


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27 元聖女と終戦

 私は地面に座り込んでいた護衛の騎士に声をかけた。


「申し訳ございませんけれど、ダリオス様に伝令をお願いできませんか?」


 彼はすぐに立ち上がり、姿勢を正した。


「もちろんです。なんなりとお申し付けください」

「『何があっても決して死なせません。ですので、敵を殲滅してください』と」


 私の言葉に理解が追いつかなかったのか、騎士は首を傾げた。


「あの、それはどういう……?」

「安心してください。ダリオス様であれば、正しく理解してくださると思いますわ」

「しょ、承知しました」


 まぁ、言葉通りで、深い意味などない。

 私の力を知っていれば、理解できることだ。さっきの騎士はまだ新人だったのかもしれない。


 さて、この間に私は魔力回復薬を一本空にした。

 体に魔力が満ちる。


 戦場を見渡し、その範囲を正しく把握する。

 救護テント――さっきの爆発で跡形もないけれど――が高い位置にあって良かった。全体を見通しやすい。


「サリア様、しばらく私は無防備になりますので、護衛をお願いできますか?」


 これから行うことは非常に集中を要するものだ。

 私と言えど、そう簡単にできることではない。


「そりゃ構わねぇが、何をするつもりだ?」

「口で説明するよりも見た方が分かりやすいと思いますわ」


 イレーネが遠慮がちに私に尋ねる。


「わたくしは何をすれば……?」

「イレーネ様は万が一に備え、待機していてください。私が真の祈りというものをお見せしますわ」

「フィアナ様が祈り……」


 これまでイレーネには散々「祈りを捨てろ」と言ってきたけれど、決して無用のものではないのだ。

 集中したいときなんかは非常に役に立つ。要は使いようだ。


 伝令がダリオスに私の言葉を伝えてくれたようだ。

 彼は私に視線を送ると、一つ頷いた。そして、騎士たちに聞こえるよう声を張り上げた。


 その対象は本陣にいる騎士だけではない。

 爆発に巻き込まれ、瀕死に陥っている騎士たちも含めて全員だ。


「これから何があろうとお前達が死ぬことはない! フィアナ様が我らを守護してくださるからだ! 帝国騎士団の名に恥じぬよう、死ぬ気で戦え!」


 よし、準備は万端だ。


「本当に何をする気だよ……」


 サリアの呟きを無視して、私は胸の前で指を組み、祈りの言葉を始める。


「『我は願う』」


 その瞬間、戦場全体が淡く緑色に輝く。

 魔王軍はおろか、事情を知らない騎士にも動揺が走る。


「『正義を以って、我が領域を踏みにじる悪意に抗わんことを』」


 瀕死の怪我を負っていた騎士の体を緑の光が包み込む。

 折れていた骨は修復され、火傷や凍傷を負った皮膚は再生し、出血は治まっていく。


「『慈愛を以って、我が領域を守る善意に力を与えんことを』」


 倒れ伏していた騎士たちは立ち上がり、それぞれの武器を手に咆哮を上げる。


「「「おおおおおお!」」」


 その異様な光景に、魔王軍がたじろぐのが分かった。

 遠くで鳴り響いていた爆発音すら、騎士たちの雄叫びにかき消されて聞こえない。


「『天の理が我を試すというならば、挑もうではないか』」


 立ち上がった騎士たちが、傷つくことを恐れず、近くにいる魔族に攻撃をしかける。

 魔族たちは戸惑いながらも抵抗する。


 戦場全体で、金属のぶつかり合う音が響き渡る。


「『地の理が我を罰するというならば、覆してみせよう』」


 魔族の剣が騎士を斬りつける。

 しかし、傷はすぐに塞がり、騎士の剣が魔族を襲う。


 魔族の魔法が騎士を燃やし、凍らせ、吹き飛ばす。

 しかし、騎士は何事もなかったかのように起き上がり、魔法を返す。


「『我に仇なすいかなる者も打ち滅ぼさん』」


 そう、この領域にいる限り、私が味方だと判断している者が死ぬことはない。

 いかなる傷も、いかなる状態異常も、すべて即座に癒やしていく。


「『我が心意を穢す者に制裁を』」


 魔族がどれほど強力な魔法を使おうと、騎士は怯まず突っ込んでいく。

 魔族が何をしても倒れない騎士は、魔族からするとさぞかし恐ろしく、おぞましく見えるだろう。


「『我が資産を掠める者に怒りの鉄槌を』」


 徐々に騎士団が魔王軍を圧倒していく。

 戦局は完全に騎士団に傾いていた。


「『我が衣装を破りし者に断罪を』」


 不意に大爆発が起こった。

 これまでの爆発よりも規模が大きく、味方をも巻き込む爆発だ。

 魔王軍の必死の抵抗だろう。


 だが、舐めるな。

 腕が千切れようが、身体に大穴が空こうが、私の渾身の魔法は全てを癒やす。


 私は組んでいた指を解き、両腕を広げる。


「『私の大切なものを奪ったお前らを絶対に許さない。ぶっ潰す! ざまぁみやがれ!』」


 ふぅ……長い祈りがようやく終わった。

 これで気を抜けるわけではないけれど。


「最後の方、祈りじゃなくねぇか?」


 サリアがぼそりと呟いた。

 祈りとは単なる言葉ではない。感情を乗せつつ、精神を集中させるためのものだ。

 言ってしまえば、言葉自体には意味はない……と私は思っている。


「あはは、あははははは! バトルドレスはもう返ってこない! 私のお金を返せ!」


 まぁ、私が言いたいことは、つまり今の言葉に尽きる。


 その後、何度か大爆発が起こったけれど、全て私がなかったことにした。


 やがて、魔王軍は散り散りに撤退し、一部の魔族は騎士に投降した。

 私の足元には何本もの魔力回復薬(マナポーション)の空き瓶が転がっていた。


 終戦である。

 後のことは騎士団に任せることになる。戦後処理はさすがに契約外だ。


 結果的に、あれほどの激戦だったにも関わらず、騎士にはこれといった被害はない。強いて言うなら、本陣のテントや救護テントなどの資材の被害くらいか。

 死人が出なかったのは何よりだった。


 私は魔王軍が逃げ去った方角をしばらく睨んでいたけれど、それも溜め息をついてやめた。


「あーあ……最悪ですわ、本当に」

「あの、フィアナ様。お疲れ様でした」

「……ええ。イレーネ様もよく頑張りましたね。捕虜になった魔族の方の治療をお願いしてもよいですか?」


 そう、捕虜とした以上、下手な待遇をするわけにはいかない。

 新たな火種をわざわざ作ることはないのだ。彼らは丁重に扱われ、ヴァーミリオン魔国との交渉材料にされることだろう。


「は、はい。フィアナ様はゆっくり休んでください」

「そうさせてもらいますわ……」


 イレーネが騎士団の方に行くのを見届けてから、ぼろぼろになったバトルドレスをもう一度見下ろす。

 何度見ても悲しくなるし、気分が沈んでしまう。


「なんかめちゃくちゃな祈りだったな」


 私の気を紛らわそうとしているのか、サリアが明るい口調で話しかけてきた。

 ちなみにしっかり外套のフードを被っている。気が緩みそうなところでも、徹底しているのは仕事人っぽくて、ちょっと格好いい。


「祈りの言葉に意味はないですから」

「だとしたら、最後の方のがあんたの本性ってことだな。『ぶっ潰す』とか『ざまぁみやがれ』とか言ってたけどよ。本音が漏れてたぜ? 普段は猫を被ってるってわけだ」

「そんなことありませんわ、ふふふ」


 笑って誤魔化す。

 いや、誤魔化せてないか。


「『ぶっ潰します』『ざまぁみてください』って言ってませんでした?」

「だとしても、口が悪ぃことに変わりはねぇよ」


 まぁ、サリアになら本性くらい知られても別に構わないけれど。


「……本当に悔しかったのですよ」

「だろうな。相当気に入ってたもんな、そのバトルドレス」


 本当はそれだけではない。

 言うか、言うまいか少しだけ悩んで、心の内を明かすことにした。


「……サリア様――お友達にあのように心配させてしまった、自分の未熟さを思い知らされて、悔しかったのです。不甲斐なくて、情けなくて……これでも、自分の魔法には自信を持っていたのですわ」


 ああ、また視界が滲む。

 サリアには本当に情けない姿を見せてばかりだ。


「あん? 別にいいじゃねぇか。心配すんのもされんのも、友達だからだろ? 生きて帰れることを、まずは喜ぼうぜ。それは全部フィアナ、あんたのおかげなんだぜ」


 なに、この人……私が男だったらきっと惚れていた。


「サリア様……ありがとうございます……」


 涙が溢れてきた私に、サリアは黙って胸を貸してくれた。

次回からエピローグ的な話となります。

明日は最終日につき、18時頃から残り3話を一挙更新して完結となります!

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