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無限にも感じられる長い時間をかけて、ケイたちは現実世界に帰還した。
異次元空間の崩壊と共に闇の館が消え去り、元の場所に戻っていた。
二人は伯爵家の庭園の真ん中に倒れていた。
空は澄み渡り、青く広がっている。
冷たい風が肌を撫で、現実の感覚を取り戻させた。
「帰ってきた……!」
ケイは地面に手をつき、息を切らせながら立ち上がった。
「ああ、俺たちは生きている……!」
テオドールも額の汗を拭い、安堵の表情を浮かべた。
二人は無事に帰還できたことに安堵し、互いに笑みを交わし、強く抱き合った。
「兄さん、俺たち……勝ったんだな」
ケイは力強く頷いた。
「ああ、共に戦ったからこそ、勝てたんだ」
テオドールの瞳は優しく光っていた。
ケイは感謝の気持ちを込めて言った。
「……ありがとう、兄さん」
テオドールは微笑んだ。
「礼を言うのは、私の方だよ。ケイ。君がいたから、私は闇に屈しなかった」
ケイは黒い目を潤ませた。
「兄さん……」
兄弟の絆が深まり、共に戦う覚悟を新たにする。
そのとき、ピアディが二人の前に飛び出してきた。
「相棒! 兄よ! 互いに力を合わせて戦う姿は見事であったぞ!」
ピアディは嬉しそうに跳ね回った。
ケイは微笑んでピアディの頭を優しく撫でた。
「お前のお陰さ、ピアディ」
テオドールも優しく微笑んだ。
「ああ。君の力もすごかった。だから私たちは帰ってこれた」
ピアディは照れ臭そうに笑った。
「えへへ……われ、お役に立ててよかったのだ!」
「あれ、ピアディ。お前、身体が……」
目の前でピアディのベビーピンクのボディが虹色にキラキラと煌めきだした。
闇の中で見せていた、あの光だ。
「はわわわ……われ、なんだか身体が軽いのだ」
ピアディは不思議そうに自分の身体を見つめた。
と思ったらそのまま宙に浮くではないか!
「ピアディ。お前、空を飛べたのか?」
「そうみたいなのだ……」
本人もビックリしている。
だが光が落ち着くと、改めて自分の正体を兄弟に明かした。
「われは千年後の未来を守護する神人、進化した種族の歌聖ピアディなり」
「種族はラッキーサラマンダー。歌で世界を祝福し、守る使命を持っておった」
ピアディはケイと兄を見つめた。
「お前たちはわれの友、千年後の勇者にそっくりだ。その黒い髪、黒い瞳、整った顔立ち……強い心も同じぞ」
ケイとテオドールは顔を見合わせた。
「もしかして、俺たちは」
「うむ。われの友のご先祖様だと思うのだ。だって、友の家名も〝アルトレイ〟だったのだ。間違いないのだ」
「そうか。俺たちとピアディにはそういう縁があったのか……」
ケイは納得した。
「相棒よ、そなたが海の底を通じて次元の狭間で眠っていたわれの元へ来れたのは、その身に流れる友と同じ血ゆえであろう。ともあれ」
ぷるんとピアディは胸を張った。
「少しだけだけど、お前たちの勇者の光でわれ、力を取り戻すことができたのだ。感謝するのだ」
「俺たちこそ。ありがとうな、ピアディ」
ケイは感謝の気持ちを込めて言った。
「君のおかげで、私たちは戦い続けられたんだ」
テオドールも優しく微笑んだ。
ピアディは照れ臭そうに笑った。
「えへへ……われ、もっともっとそなたたちを助けるのだ! だって、われはかわゆーいウパルパ様だもん!」
ケイとテオドールは顔を見合わせて笑った。
この自己肯定感の高いウパルパ様が、とても心強く頼もしかったからだ――
そのとき、消え失せていたはずの闇の気配が辺りを覆った。
「これは……?」
ケイが警戒の表情を浮かべた。
闇の気配が黒い霧となり、空中に集まった。
霧が渦を巻き、ロットヴェインの姿が現れた。
ロットヴェインは憎悪に満ちた目で二人を睨みつけた。
「今は引いてやる。だが、これで終わりだと思うな……覚えていろ、必ずお前たちを絶望の闇に堕としてやる」
ロットヴェインの手の中に禍々しい魔力が集まり、――呪いを発動させた。
「腐敗する血ロットヴェインの血筋に刻まれし呪いよ……勇者を呪え。闇の刻印を与え、絶望へと導け」
その瞬間、ケイとテオドールの身体に黒い刻印が現れた。
「うっ……身体が……熱い……!」
ケイが苦しげにうめいた。
「これは……呪い……!?」
テオドールも胸を押さえて苦悶の表情を浮かべた。
黒い刻印が胸に浮かび上がり、闇のオーラが肉体を蝕み始めた。
「身体が……動かない……!」
ケイが苦しみながら倒れそうになる。
「力が……吸い取られていく……」
テオドールも膝をつき、息を荒くした。
ロットヴェインの狂気の笑い声が空間に響き渡った。
「お前たちは、絶望の闇から逃れることはできぬ。勇者の光など、闇に呑まれるがいい」
ロットヴェインは、兄弟の影に隠れて震えているピアディを目敏く見つけて睨みつけた。
「謎のカエルよ。我の邪魔をした貴様にも必ず報いを受けさせる」
「ムキー! われはカエルではない、ウーパールーパーぞ! 貴様などこの尊いわれの相手ではないのだ!」
憤るピアディのボディからは虹色の煌めきが溢れている。
輝きはケイとテオドールを覆い、ロットヴェインの呪いと拮抗している。
「……チッ。貴様のせいで呪いの濃度が薄れたか。即死を免れたな、運の良いことだ」
憎まれ口を叩いてロットヴェインは消えて行った。
ロットヴェインは去ったが、兄弟に仕掛けられた呪いは消えなかった。
黒い刻印が脈動するように闇のオーラを広げ、二人の体を蝕んでいく。
痛みが体の奥深くまで響き、動くことすらままならなかった。
「くそっ……何なんだ、この呪いは……!?」
ケイは拳を握りしめ、必死に立ち上がろうとした。
「私も……身体が動かない……」
テオドールの顔が苦痛に歪んだ。
「おのれ、ああいうのをイタチの最後っ屁というのだ、往生際が悪すぎるのだ!」
ピアディがボディを真っ赤に茹だらせてプンスコ怒っている。
「ひいぃ。このべっとりしたこびり付き、二度と見たくなかったのだ……浄化、浄化、浄化の祝福なのだぷぅー!」
ピアディがぷぅっと大きな口を開けて、魔力を放つ。
虹色の煌めきをまとった魔力が、闇の中でと同じように兄弟の身体を通り過ぎていった。
途端に、ふっと心身の重苦しさが消えて楽になる。
「ら、楽になった!」
「すごいな、ピアディ殿。これほどの力、教会司祭にも使えぬぞ」
「ノーウ! まだ油断してはならぬのだ! お台所のこびり付きと同じ! キレイキレイにしたつもりで見えないところに汚れべっとり!」
「だ、駄目なのか?」
体感では呪いの影響はもうほとんどない。
だがケイの問いに、ピアディは煌めきを引っ込めてションボリ項垂れている。
「われの全力はこんなものではないのだ。もっともっと、スーパーでスペシャルなはずなのに……」
「ピアディ殿。まさかこれほどの力があっても、まだ本調子でないのか?」
「うむ。相棒。兄よ。お前たち、このまま必ず勇者に完全覚醒せよ。そしてわれを全盛期に戻しておくれ。さすればお前たちに残った呪いも、海の底の神殿も、我の仲間もきっと復活できるのだ」
兄弟は顔を見合わせ、そしてピアディに力強く頷いてみせた。
「「任せてくれ!」」




