33
朝、夢から覚めた後。
日課の剣の鍛錬を行ったケイは母ポーラを探して、屋敷内を歩き回っていた。
(どこに行ったんだろう?)
庭にもキッチンにもいなかった。
今日は父が屋敷にいないから、朝食は別邸で母と取るはずの日なのに。
「お母様?」
物置小屋の前を通りかかった時、ケイは何かが倒れる音を聞いた。
(今の音は?)
不審に思って物置小屋の扉を開けると、ポーラが床に倒れていた。
「お母様!?」
ケイは慌てて駆け寄った。
ポーラは苦しげに顔を歪め、下腹部を押さえて震えていた。
それだけではない。腕や背中の服が破れて血が滲んでいる。これは――鞭のあとだ。
「う……あああ……」
額には冷や汗が浮かび、顔色は青白い。
「お母様!? どうしたの!? 誰がこんなことを……」
ポーラは苦痛に顔を歪めながら、震える声で答えた。
「セオドラ様が……あなたの躾がなっていない罰だと……」
ケイは驚愕した。
「セオドラが……?」
ポーラは息も絶え絶えに続けた。
「朝食の準備をしていたら、呼ばれてここに連れ込まれたの……初めてあの方が別邸までお越しになったから、話ができると、思って……」
「お、お母様、待ってて、すぐ人を呼んでくるから!」
「私が悪かったの……セオドラ様を怒らせてしまった。だから、セオドラ様を恨んではいけません……」
「こんな目に遭ってるのに何を言ってるんだ!」
「あなたが、憎しみに囚われてはいけないの……」
ケイは怒りと悲しみに震えた。
(あの女……セオドラ……!)
ポーラが呻き声を上げ、顔を苦痛に歪めた。
「う……っ、あああああ……!」
ケイは青ざめた。
「お母様、しっかりして!」
ポーラの下半身から大量の血が溢れ出ているのを見て、ケイは恐怖に震えた。
(なんで……どうして……!?)
「待ってて、今すぐ医者を呼んでくる!」
ケイは物置小屋を飛び出し、医者を探しに走った。
「医者! 医者はどこだ!?」
ケイの叫びを聞いた使用人たちが驚いて駆け寄ってきた。
「ケイ様、一体どうされましたか?」
「お母様が! お母様が怪我をして、血を流してるんだ!」
使用人たちは顔を青ざめ、すぐに本邸へ医者を呼びに走った。
医者が物置小屋に駆けつけた。
ポーラはその場に倒れたまま、意識朦朧として苦しんでいた。
「早く部屋に運びましょう! 急いで!」
医者の指示で、ポーラは部屋に移され、治療が施された。
ケイは部屋の外で祈るように待っていた。
(母様……助かってくれ……!)
時間が永遠に感じられるほど長く思えた。
やがて、医者が部屋から出てきた。
顔色は暗く沈んでいた。
「お医者様……お母様は……?」
医者は重々しく首を振った。
「申し訳ありません……奥様は流産されました」
ケイの体が凍りついた。
「流産……?」
医者は辛そうに目を伏せた。
「お腹の中にいた赤ん坊は、助けられませんでした……」
ケイは膝から崩れ落ちた。
「何だそれ……お母様、お腹に……赤ちゃんがいたのか……」
医者は何と言った?
――流産だと!
「そんな……嘘だ……」
頭が真っ白になった。
(お母様の……子供が……?)




