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と部屋の中から、ポーラの嗚咽が聞こえてきた。
ケイは部屋に入った。
ポーラは涙を流しながら、布団の中で丸くなっていた。
「お母様……」
ポーラはケイに気づき、微笑もうとした。
しかし、涙が止まらなかった。
「ケイ……ごめんなさい……あなたの弟か妹がいたのに、産んであげられなかった……」
ケイは言葉を失った。
(俺に……弟か妹が……)
ケイは床に座り込み、涙を流した。
「そんな……なんで……なんでこんなことに……」
ポーラはケイの頭を撫でながら、自分も泣き続けた。
ケイは慟哭した。
魂の底の底から、悲嘆に暮れて、叫び続けた。
気づくと自分の部屋のベッドに寝かされていた。
「起きたのだ? お前、気を失って部屋に運ばれたのだぞ」
「……そうか」
虚ろな目でピアディを見た。
「俺は何をやってたんだろう。『お母様を守る?』どこが? ……何でだ!」
ケイの涙がポタポタとシーツに落ちた。
ピアディは悲しげにケイを見つめた。
「仕方ないことなのだ。そなたはまだ十ぞ? 子供の年だ」
だけど、とピアディは続けた。
「……だけど、このような出来事が起こっては、もう子供ではいられないのだ。哀れなことなのだ……」
ケイはハッと顔を上げた。
「俺は……子供じゃいられないんだ。子供のままじゃいけないんだ!」
ケイは母ポーラが流産したことに激しい怒りを感じていた。
拳を強く握り締め、震えを抑えきれなかった。
「セオドラ……絶対に許さない……!」
怒りが体中を駆け巡り、視界が赤く染まる。
「俺の……兄弟を殺したんだ……! 母様を苦しめて、あんなにも悲しませて……!」
ケイは立ち上がり、黒い瞳に復讐の炎を宿した。
「殺してやる……! あの女を、この手で殺してやる!」
ピアディが慌てて止めようとする。
「待つのだ、ケイ! お母上も申していただろう、そなたが殺せば、憎しみの連鎖が続くだけなのだ!」
ケイは怒りに燃えた目でピアディを睨んだ。
「黙れ、ピアディ! 俺は、もう我慢できない! 母様をこんなにしたあの女を、絶対に許さない!」
ピアディは悲しげな目でケイを見つめた。
「そなたが復讐を果たしても、母上の悲しみは消えぬのだ……憎しみに囚われては、勇者の光は曇ってしまうのだ……」
ケイは拳を震わせ、涙を流した。
「分かってる……分かってるけど……俺は、もう我慢できないんだ!」
ケイは踵を返し、ピアディを残して本邸のセオドラの元へ向かって走り出した。
ケイは本邸の廊下を駆け抜け、セオドラの部屋に向かって走った。
アルトレイ伯爵家の血筋を表す黒い瞳には、憎しみと怒りが渦巻いていた。
「絶対に許さない……俺の兄弟を殺したあの女を、この手で……!」
セオドラの部屋の前に立った。
扉の向こうに憎むべき相手がいる。
ケイは荒い息を整えもせず、扉を開けようとした。
その時、後ろから声がかかった。
「待て、ケイ!」
ケイが振り向くと、テオドールが立っていた。
「兄さん……邪魔をするな!」
テオドールは険しい表情でケイを見つめた。
「お前が何をしようとしているか分かっている。だが、やめろ」
ケイは怒りのままに叫んだ。
「どうしてだ!? あんたの母親は俺の兄弟を殺したんだ! お母様をあんなに苦しめて、悲しませたんだぞ!
――俺は、絶対に許さない!」
「報告は受けている。母がポーラ様に何をしたかも……」
テオドールは苦しげに目を伏せた。
「私だって、母上を許せない。ポーラ様のお腹にいたのは私の兄弟でもあったのだぞ」
ケイは歯を食いしばり、拳を震わせた。
「兄さんは、あの女の味方をするのか!?」
テオドールは首を振った。
「味方なんかじゃない。私は、お前の味方だ。だからこそ、お前に殺人者になってほしくない」
ケイとよく似た面差しの兄が、黒い誠実な瞳で見つめ返してくる。
「お前は、そんなことをする人間じゃないだろう?」
ケイは激しく動揺した。
「でも……でも……!」
テオドールはケイの肩に手を置いた。
「憎しみに囚われてはいけない。私たちは、憎しみを断ち切らなければならないんだ」
なぜならば。
「私たちは、そのために――回帰して時を遡って来たのだから」




