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その後、父ユヴェルナート伯爵の執務室へ向かった。
今日の父は今の時間なら間違いなく執務室にいる。
「あのね……? 本当なのだ。聞いてほしいのだ、ケイ……」
「わかってるさ。〝勇者〟について聞きに行こう」
「どゆこと?」
元々、本邸に来ていたのはそれが目的だった。
転ばされ、水をかけられなければそのまま父に会いに行っていたのだ。
「我がアルトレイ伯爵は勇者にゆかりのある家だ。確かにそうなんだ。だが俺は詳しくないから、当主の父に聞きに行くのさ」
言って、ケイはピアディを上着のポケットに突っ込んだ。
「ちゃんとポッケに隠れてて」
「ケイ? 珍しいな、お前がここに来るとは」
「お父様、お仕事のお邪魔をして申し訳ありません。少し聞きたいことがありまして」
執務室を訪ねると、自分そっくりの黒髪黒目の父が難しい顔をして書類を睨んでいた。
が、現れた愛息子に眉間の皺を即座に緩めた。
こうしてケイを見ると表情が緩むところは、今の兄テオドールとよく似ている。
「構わない。お茶を飲みながら聞こうか」
その後、侍従の用意したお茶とお菓子を楽しみながら、ケイはさっそく本題に入った。
「お父様、アルトレイ伯爵家が勇者の末裔だというのは本当ですか?」
ケイの問いに、父は一瞬目を見開いたが、すぐに穏やかな微笑みを浮かべた。
「そうだ。お前も知っていたのだな」
「お母様が以前、少しだけ教えてくれたんです。でも、詳しくは知らなくて」
(聞いたのは回帰前のことだが)
ユヴェルナートは頷き、紅茶を一口飲んだ後、静かに語り始めた。
「アルトレイ伯爵家は、かつて『救世の勇者』を輩出した名家だ」
「救世の勇者?」
「ああ。今から何百年も前、この大陸に邪悪な闇が蔓延り、人々が絶望に沈んでいた時代があった」
「………………」
「その闇を討ち払い、世界を救ったのが、初代アルトレイ家の当主だ。我らのご先祖様だよ、ケイ」
ケイの目が輝いた。
「すごい。本当にそんなことがあったの?」
ユヴェルナートは微笑みながら頷いた。
「そうだ。初代アルトレイ家当主は、『勇者』として覚醒し、黄金の光をまとって闇を浄化した」
「黄金の光……」
ケイはピアディの言葉を思い出し、胸が高鳴るのを感じた。
ならばこの身体には本当に勇者の血が流れていて、勇者に覚醒する可能性がある。
ユヴェルナートは続けた。
「だが、勇者の力は闇が強まった時にのみ覚醒すると言われている。平和な時代が続く限り、その力は発現しないのだ」
「じゃあ、今はもう勇者はいないんですか?」
「そうだ。最後の勇者が現れてから、既に何百年も経っている。その間、我らアルトレイ伯爵家には、勇者に覚醒した者は一人も現れていない」
ケイは思わず拳を握りしめた。
(じゃあ、俺がその勇者になる可能性があるのか。ピアディの言う通り)
ユヴェルナートは静かに息子を見つめ、優しい声で言った。
「ケイ、お前もアルトレイの血を引く者だ。もし、邪悪な闇が再びこの世に現れたとき、お前が勇者として覚醒することも、あり得るだろう」
ケイの胸は再び高鳴った。
自分が勇者の末裔であり、金色の光をまとう可能性がある。
いや、〝可能性〟なんて曖昧なものではない。
実際、回帰前のケイは海の底でピアディに金色の光を見せ、赤黒かったサラマンダーのピアディを優しいベビーピンク色に浄化している。
(勇者の力は、既に俺の中にある! あとはどう引き出すかだ)
それが、母を守る力になると信じよう。
「お父様。俺、強くなりたい。お母様を、守れるくらいに」
ユヴェルナートは微笑み、ケイの肩に手を置いた。
「その気持ちがあれば、お前は必ず強くなれる。だが、焦ることはない。ゆっくりで良いのだ」
ケイは頷き、強い決意を胸に刻んだ。
自分は勇者の末裔。
偉大な祖先の話を聞いて、失われていた自信が少しずつ回復するのを感じた。
今度の人生では母を守るため、強くなる。必ず、どんなことをしてでも。




