16. 学園評定会
トランディアは世界の主要国家。
自国の発展の為に、特に学業に力を入れている。
授業はさらに専門的になり、軍事学、戦闘実技、官房学、法学、理財学……はたまた魔導工学から冶金学など、専門授業の幅が広く、その内容は常に最新。
他国から留学生が来るのも納得できる教育レベルとなっている。
私は悩みに悩んだ末、四年生の時に官房学と法学、そして理財学の三つを選択した。
『分かっていると思うが、お前は間違っても騎士官向けの授業を取るなよ』
ユルゲンス先生に何度も釘を刺された。
というのも、ドラスニール族は世界協定で『国の軍事に介入しない』と取り決められているからだ。
かと言って、技術系は手先が不器用なので難しく、消去法という何とも情けない決め方となった。
ちなみに、ジルとロレンティア、そしてメーベルも同じ授業を取り、
ソナは魔導具師になるため魔導工学を、
オルヴァッキは鍛冶職人になるため冶金学を、
オーウェンと双子達は騎士官志望なので、私が取れない授業を取っていた。
そして、二年間の専門課程を学び、五年生の最後に待っているのは、学園評定会。
いろんな職業の人が、将来有望な生徒を見にくる、いわゆるスカウトの場だ。
在学中でも一番力が入るイベントで、学園評定会は想像以上に忙しかった。
個人発表の準備の間に、夜は社交会もあるのでマナーの勉強、もちろん先生からのダメ出し。
(こんなことを覚えなくちゃいけないなら、トランディア出る……)
夜寝る前、ベッドの中で何度、思ったか分からない。
でも翌朝になると、その日の授業を楽しみにしているのだから、我ながら簡単な性格をしていると思う。
そんな日々を過ごしながら、評定会の日を迎えた。
♢
外部から部外者が来る。
学園からの招待制とは言え、生徒を守るために常に鉄壁の防犯魔法を施しているため、先生たちは神経を尖らせているように見えた。
どの先生も、不審者がいたら、声をあげるか、逃げるかしなさい、と口を酸っぱくしている。ユルゲンス先生に至っては「お前は……最悪、やり返してもいい、正当防衛として俺が掛け合う」と言うほどだった。ユルゲンス先生の後ろ盾を得たのは心強いけれど、どうしてそこまで心配になるのだろうか。
よくわからない。
私とメーベルは発表のため、学園の中にある広い講堂にいた。
席にはたくさんの大人たちが座り、奥には警備魔導具が砲身を上下左右、忙しなく動かしていた。不審者がいたら、あの砲身を通して雷魔法が飛んでくるらしい。
袖下で資料を両手に抱え、私は緊張していた。
「噛まずに言えるかな……」
準備は完璧にできた……と思う。
だけど、発表後には質疑応答がある。予想外の質問が来ないことを祈るばかりだ。
「ふふ、お互いに噛んだ数をカウントする?」
メーベルがくすくすと悪戯っぽく笑う。
背筋がよく、スタイルの良い彼女は、こういう時も決して背筋を丸めない。
「私の方が多い」
「珍しく弱気じゃない」
「そう思っていた方が、ショックが少なくて済むの」
「……意外に繊細よね?あなた」
「意外にって、失礼な」
私だって戦闘民族とは言え、人間だ。むすっとしていると、メーベルが自身の発表資料を私に持たせた。そのまま彼女の指が私の首元に触れる。どうやら制服のタイが曲がっていたらしい。長く細い指が器用に動く。
『メーベル・ポネ、壇上へ』
拡声魔導具ごしに声が響いた。
前の人の発表が終わったらしい。
「大丈夫?どこか崩れてない?」
赤い髪を揺らし、メーベルが両手を広げる。
制服もシワも埃もない、化粧だって完璧、いつものメーベルだ。
「まったく。大変、お美しいです」
「あら、ありがとう。じゃ、屍は拾ってね」
「メーベルだって繊細じゃん」
「うるさい」
私から発表資料を受け取ると、メーベルは軽い身のこなしで壇上に上がっていった。その後ろ姿を見守る。
メーベルは演台に立つと、スッと視線をまっすぐ前に見つめ、口を開いた。
「本日はこのような機会を頂き、ありがとうございます。メーベル・ポネと申します。
本日の発表は『神話時代の災厄と現代政務の比較』についてです。
焦点は一つ……神々や聖女が担っていた役割を、行政がどのように肩代わりしているのか、についてです」
(メーベルって……聖女、好きだよねぇ)
おくびには出さないが、聖女にまつわる話になると、誰よりも詳しい。聖女信仰があるくらいだ、珍しくはないけれど、現実的で皮肉屋な所があるメーベルが聖女を好きなのは、意外だった。
……なんて考えていたら、メーベルの発表は締めに入っていた。
「結論として申し上げます。
かつて神々や聖女が担った奇跡の数々は、現代では治政制度として再構築され、形を変えて生き続けています。
祈りは法律となり、献身は予算配分となり、そして聖女の声は政官の指揮へと姿を変えたのです。
――少なくとも、聖女という“特別な存在”に縛られずに済む点は、今の方が健全でしょう」
(……あれ?)
最後、何だか棘があった気がする。
(……気のせいかな)
メーベルの表情はいつも通り、変わらない。
ふと感じた違和感に戸惑っていると、いつの間にか質疑応答が終わっていた。
いつもの変わらない様子で、メーベルが壇上から向こうの袖下へ去っていった。
そこでハッとする。
『次、ドラスニール族アルクセイ。壇上へ』
慌てて、腕に持つ資料をぎゅっと抱え、壇上へと進んだ。
五年生になりました。
すみません、昨日の投稿で夜投稿固定とお伝えしていたのですが誤りです……!
朝投稿で統一します。




