09. 勉強会
魔法使い、または魔女としての能力を認定する制度『魔法階位制度』というものがある。
この制度は十五歳から各国の魔法学校で受けることができ、三階位から攻撃魔法の使用が認められる。
この学園では三年生になるまでの間、攻撃魔法とその使用における危険性、また道徳についてしっかりと叩きこまれ、三年生になると三階位を取得できた生徒から、導きの森での低ランクの魔獣討伐の実技授業を受けることができるのだ。
「無理」
「わかんない」
寮のラウンジで珍しくカロンとキランが椅子に座り、教科書を開いたかと思ったら、開始間も無くすぐに根を上げた。
私と同室のメーベルとオルヴァッキの三人で遅めの軽食を食べ始め、あと半分といった所での白旗だった。
二人は自身の召喚獣を、いつの間に召喚したのか、カロンは黒山羊の角を撫で、キランは黒羊の羊毛に顔をうずめた。
「早くない?」
想像以上の集中力の無さに、思わず声を掛けてしまった。
カロンとキランがまるで狙いを定めたかのように、こちらに視線を向けたので、私は自分の行動を後悔した。
向かいに座っていたメーベルが、小さく「あーあ、バカね」と呟いたのが聞こえる。
「「階位試験、無理、難しい、教えて、学年二位」」
さすが双子、見事なシンクロである。
その反動でキランの黒羊は驚いて、逃げるようにするりとキランの膝から抜けて、オルヴァッキの小さな膝に飛び込んだ。甘え上手な羊である。
オルヴァッキは「もふもふ、あったかい、可愛い……」と黒羊を抱きしめた。
私はクッキーを一枚つまんで、半眼で双子を見返した。
「嫌だよ、学年一位様に教えて貰えば?」
学年一位とはもちろん、憎きオーウェン・アンブロジオである。
「最近は?最年少で五階位になって?天才って呼ばれてるんでしょ?同室なんだから、そっちに頼んでよ」
これは完全な嫉妬。
あいつが五階位になった時、わざとらしくその証である五つの指輪を束ねた環束を見せつけてきたのは、記憶に新しい。
対して私は三階位。指輪は三つである。
階位試験は一年に一度しか受けられないので、来年まであの男に追い抜かれたままというわけである。
そんなわけで、ここ最近の私は大変、不貞腐れていた。
「オーウェンは無理。あいつの教え方、つまらなさすぎて俺らすぐ飽きるもん」
「つまらないって、あんたねぇ……」
カロンは両手を頭の後ろに組んで、椅子にもたれた。椅子の前脚が浮く。行儀が悪い。
貴族のお坊ちゃんだというのに、その風格は全くないが、ロレンティア曰く、これでも正式な場となればそれなりに取り繕えるのだそうだ。
馬鹿ではあるが、地頭が良く器用。
首の皮一枚で毎年、選抜組に在籍できているのがその証拠だ。
「やめとけ」
低い声が割ってはいる。
ラウンジに入ってきたオーウェンだ。学園内にある町に出ていたのか、手には紙袋を持っていた。
最近は成長期なのか、にょきにょきと背を伸ばし、体付きも何となく大きくなったようで、多少の威圧感がある。
「俺があの手この手を使ってどれだけ苦労したと思ってんだよ?」
その問いに、カロンとキランは気まずそうに視線を横に逸らした。
どうやら心当たりがあるらしい。
「集中力もやる気も無くて、気付けば神獣と遊んでるお前らに、物で釣る、時間制限、教え方の工夫、考えられる問題に対してはその都度、対策案を講じた。んで、分かったことは一つだけ」
指折り数えたあと、じろりとオーウェンはカロンとキランを見おろした。
「お前らに教えるのは時間の無駄。以上」
余程の鬱憤が溜まっていたのか、オーウェンは言い終えて満足したようで、最後に軽く机を叩いた。
「天才も匙を投げ出すのね」
クスクスとメーベルが笑った。
カロンとキランが救いを求めるような目で私を見る。
「じゃ、私もやめとく」
「は!?」
予想外の返答だったのか、キランが丸い目をし、カロンが思わず立ち上がった。
「いやいやいや、お前、ここはいつもみたくオーウェンと張り合って、『なら私が!』ってなるとこだろ!」
「だって私も忙しいし」
パクリとクッキーをかじると、カロンから「どこがだよ!」とツッコミが飛んできた。それに続いてキランも「頼むよ〜!」と何とも情けない顔をしてきたが、知らんこっちゃない。
(別に、私はあいつに魔法で勝ちたいだけだもん。誰かの勉強を手伝った所で、何の競争にもなってないし)
教職につくつもりもないのに、誰かに教えるだなんて。
同室の友人たちならまだしも、カロンとキランの普段の授業態度を見ていれば、オーウェンの言葉がなくとも無駄であることは想像に容易かった。
「頼む〜……!俺ら、今回ばかしはとっとと階位を取らないと、詰むんだよ〜!」
両手を前で合わせて、必死に懇願するカロンとキラン。
その様子は、確かに切羽詰まっているようだった。
「詰むって、何が?」
思わず聞き返すと、オーウェンが呆れたようにため息を吐いた。
声には出さないが、口の形がはっきりと『お人好し』と結んだのが分かったが、うるさかったので見て見ぬ振りをした。
カロンは椅子の上に膝を折り曲げるように座り直した。
「俺ら卒業後は実家の帰省が許されてねぇんだよ。だから騎士官コース一択」
「魔法騎士団がある三機関には合同宿舎があるだろ?俺らはそこ狙い。だから早めに三階位とって、魔物討伐数を稼げないと、騎士官必須条件の六階位が危うくなるんだよ」
キランは頬杖をしながら、オルヴァッキの膝の上にいる黒羊に視線を送った。
「大変だねぇ……」
そう呟くオルヴァッキの膝の上が心地良かったのか、黒羊はうとうとして、そのまま眠ってしまっていた。
(三機関ねぇ……)
三機関とは王の配下にある組織で、枢機会、王庁、魔法騎士団の三つの組織の名称だ。
枢機会では政治を、
王庁では行政を、
魔法騎士団では軍事を取り仕切る。
それぞれは別組織として常に対立をしており、密接ではあるが互いを監視しながら国家運営をしているそうだ。
カロンとキランが枢機会でも王庁でもなく、魔法騎士団というのは賢明な判断である。どう見ても文官は難しそうだ。
「でも、キランは次男だけど、カロンは長男でしょ?家に帰れないってどういうことよ」
紅茶をすすりながら、メーベルが口を開く。
カロンは椅子の座面の縁を握り、肩をすくめる。
「俺らが夏女神の眷属『羊飼い』の一族なのは知ってるだろ?」
私と同じ、神話の時代から続く神様の系譜を持った一族。
夏女神の神獣を管理する役目を仰せつかった家柄らしい。
その証拠に、カロンは黒山羊を、キランは黒羊を召喚し、使役する。
どちらも夏女神の神獣で、神様からお借りしているのだそうだ。
「他の四季神の眷属の家もそうだけど、俺らの家は代々女当主。確かに俺は長子だけど、跡取りは妹で決まってんの」
「女性主導の家柄だからね。出戻った所で俺らの家での役割なんてないんだよ。だから帰っても追い出されるだけ」
キランが苦笑いを浮かべる。
何だか寂しい話だ。
「へぇ、貴族なんだから実家に帰って好き勝手できるんだと思ってたんだけど、意外に違うんだね」
クッキーで水分を吸われた口の中を、紅茶で潤す。
能天気に生きてるんだろうと思っていた双子だったけれど、苦労も多いようだ。
「いや、好き勝手してるけどな?」
そんな私の憐憫を一気に払うように、カロンは笑った。
隣のキランもケラケラと同意しながら笑う。
「だって、跡取りになんてなってみろ。普段の領地運営や、夏女神の季節になったら火夜祭の取り仕切りもしなきゃいけない」
「けど俺らは、しっかり者の妹が頑張ってくれるので、日がな楽器をつまびいたりしてのんびり暮らしてる」
弦楽器を弾くような動作をするキラン。
その横で、それまで黙っていたオーウェンがすかさず口を開いた。
「で、のんびり暮らした皺寄せが今に至ってる。俺、何度も言ったよな?遊んでばっかだと痛い目を見るって」
図星だったようで、カロンとキランは同じ方向へ視線をそらした。
二度目である。
カロンがぼそぼそと言い訳をする。
「だって、オーウェンなんて部屋で教科書すら開いてねぇじゃん」
「基本的に授業の内容は一回で頭に入るし、必要があれば図書館でやってる。お前らがうるさいからな」
全くもって、天才様は鼻につく言い方をするものである。
「頼む、真面目にやるから見てくれ」と縋る双子を見て、私はため息を吐いた。
「報酬は?」
「オーウェンより尊敬する」
「オーウェンより天才って崇める」
「……ツケね」
そもそもお前ら、オーウェンを尊敬もしてないし崇めてもないじゃん、と思ったが、喉の奥に、クッキーと共にしまい込んだ。背後でオルヴァッキがクスクスと笑いながら「アルクセイは優しいよねぇ」と言っているのが聞こえないふりをした。
♢
「……なぁんか人数増えてるんだけど」
目の前には双子や先ほどまでいたオーウェン、メーベル、オルヴァッキだけではなく、後から来たジルとロレンティア、そしてソナもいた。
ジルがにこやかに笑う。
「アルクセイが先生をするって聞いて」
「しないってば……。カロンとキランの勉強を見るだけ。ていうか、ジルとロレンティアも三階位でしょ?手伝ってよ」
「カロンとキランは私たちもお手上げなのよ」
「だからアルクセイのお手なみ拝見ってこと」
ロレンティアもうんざりした様子だった。
ジルも含めてこの幼馴染組は、やはりカロンとキランの性格をよく知っているからこそ、 勉強については深く関わらないとしているようだ。
「全くもう……で、どこが分からないの?」
「「全部」」
思わず机の上に広げられた教科書や帳面を全て投げ飛ばしそうになったのを堪えた。双子の側で、町で買ってきた干し果実を齧るオーウェンは「ほらな」と言いたげな視線でこちらを見た。
「いいよ、わかった。じゃあ本当に全部分からないのか、しらみつぶしに行く。まず人間に許された魔法属性とその神話的由来、聖属性が別物だとされる由来は?」
「あ、そこは大丈夫」
キランが手をあげて答える。
「火・水・木・風・雷、この五属性が基本の属性で、聖霊が仲介してくれるやつ。たまにある氷とかは稀。この神さまたちは人に友好的な性格だから、人間が力を借りることができる。
でも、聖属性は聖霊王の加護。聖霊王は神じゃない。だから聖霊王の教えを受け継いだ神官に祝福されるしか方法はない」
「……完璧じゃん」
隣のカロンも腕を組んで頷いた。
「腐っても貴族だし、神話の基礎は一通り家庭教師に叩きこまれた」
その様子を横目に、私は参考書のページをめくった。
「じゃあ第三階位が攻撃魔法を使用する際の法令を述べて」
「あーっと……、『一、自己または他者の生命・身体を保護するためにやむを得ない場合、二、瘴気災害、生物災害等に分類される魔獣に対して行う防衛的行使の場合』……あと何だっけ、キラン」
「『三、対人または対魔獣に対する積極的行使については、原則として魔法騎士団に所属する正規の騎士官、またはギルドに登録した第三階位以上の民間人に許可される』でしょ?」
「……いや、ちゃんとできてるじゃん!?」
「えっ、これで!?」
「いや、出来てて当然だろ、この程度」
驚くカロンに対して、それまで黙っていたオーウェンが眉根に皺を寄せ、口を開いた。
(あー……つまり、この国の貴族たちはそれなりに良い教育を受けていて、このくらいは基礎レベルってことかな)
双子の幼馴染であるオーウェン、ジルベルト、ロレンティアに視線を送った。
みんな、ジルベルトの話し相手として子どもの頃から付き合いがあり、王城で家庭教師に一緒に学んだ仲だ。
この三人のレベルが高すぎるのが問題だ。
オーウェンは言わずもがな。
ロレンティアは勤勉だけど、自分が優秀なことに自覚がなく、みんなも同様にできると思ってしまう節がある。
ジルに至ってはふざけているのか、試験前になると情報収集を始め、自分が七位になるように答案を調整するのだ。ちなみに何故、七位かというと、自分が七番目の子どもだからとか何とか。
「はあ……」
口にしたくはないけれど、双子に少し同情した。
私にも心当たりがある。
周りのみんなが簡単にこなしているのを見ると、やる気がどんどん消えていって、その代わり苦手意識と劣等感が残る。
しかも周りが、何故できないのか理解してくれない。
「大丈夫、まずは分からないところを虱潰しで見つけよう」
理由がわかれば、対処すればいいだけ。
♢
いくつもの質疑応答を繰り返して、できていない基礎を見つければ、その都度教え、最後に残った一項目が難題だった。
「つまり、魔力練成が分からない、と」
既に日も暮れており、同時進行で作ったチェックリストも、たった一つを残して、黒く塗り潰されていた。
それを覗き込んで、ソナが拍手をする。
「えー……なんか感動すら覚える結末。カロンとキランはアルクセイに感謝した方が良いよ」
「ありがとうございます!!」
即座に礼を述べたのはカロンだった。キランに至っては答えるのも疲れたのか、間延びした口調で「ありがとー……」と言った。
「……で、魔力の練り方についてだけど」
「「はい!」」
双子が身を乗り出す。
「教えられることは何もありません」
今度は私が視線をそらす番だった。
私の返答に、カロンとキランはずるっと椅子から転げ落ちた。
「嘘だろ!?ここまで来て!!??」
「魔力錬成は一朝一夕にしてならず。校訓です」
「「ああ〜〜〜!!!」」
カロンとキランが、その場で机に突っ伏す。
『魔力練成、一朝一夕にしてならず』
これはこの学校の校訓にもある。
こればっかりは個人の努力によるもので、誰かの教えでどうにかなるものではない。神話を研究し、各属性の神々を理解し、それに合わせて魔力を練る。それは感覚的なもので言語化は難しく、己で試行錯誤しなくてはいけないのだ。
「二人とも、召喚士だからねぇ……」
膝の上で寝ている黒羊を撫でながら、オルヴァッキは苦笑した。
「何をするにも、黒山羊と黒羊が頼みの綱って感じだもんね〜!」
ソナが腹を抱えながら笑った。
滅多にいない召喚士、しかも格の高い神獣を各々使役しており、魔法のほとんどは神獣に依存していたのだ。
こちらからすればある意味、器用なことをしていたのだが、攻撃魔法の基礎の習得が階位取得条件となるので、今回はそれが仇となっている。
「カロンは火属性、キランは風属性だから、オルヴァッキとソナ、アドバイスってしてもらえる?」
ジルが苦笑いを浮かべながら二人に頼んだ。
火属性のオルヴァッキがうーん……と悩んでいる傍ら、風属性のソナがはいはーいと手をあげて答える。
「こう、えーい!って感じ!」
抽象的な表現に、カロンが間抜けな表情をする。
「私は……焚き火がぼわって燃える感じかな……?」
同じく抽象的ではあるけれど、ソナより具体性が増した回答をしたオルヴァッキ。カロンと同じように間抜けな顔をするキランがそこにいた。
間抜けな顔がふたつ並んでしまった。
「ごめん!分からん!おい、クィーンクェア組!」
助けを求めるように、カロンとキランは私とオーウェンに視線を向けた。
「火属性を使う時は下から押し出す感じ、風属性の時は薙ぎ倒す感じ」
「押し出す!?薙ぎ倒す!?」
「私は火属性の時は焚き火のイメージでメラメラって感じで、風属性の時はビューンって感じ」
「うそ、学年一位と二位の語彙力やばくない?」
聞いていたキランが唖然とした顔をする。
「おい待て、猿と一緒にすんな」
「似たようなもんでしょ、張り合ってこないでくださーい」
私とオーウェンが口論になる横で、カロンとキランはもう分からんと言った様子で頭を抱えて項垂れていた。
「……あのね?そもそも魔力練成については各々で神話理解の基、感覚を掴みましょうって、ユルゲンス先生だけじゃなくて、王城の先生方も話をしてたと思うんだけど……」
ロレンティアが困ったように言うと、双子は「そうだっけ」と言葉を濁しながら、今度は視線を明後日の方向へと向けた。
「でも!アルクセイ!お前は魔力練成が上手いだろ!それこそオーウェンより!魔力香とか殆どしねぇじゃん!何か裏技とかねぇのかよ!」
カロンが私に指をさす。
「オーウェンは魔力量で押し切れるし、ジルは始祖王の血が濃いから詠唱が雑でも聖霊が喜んでどうにかしてくれるチートだろ!?そんな中、アルクセイは努力でものを言わせてる!つまり俺らの星!頼むよ、裏技的なの教えて!!!」
頼む!と両手を合わせて縋られる。
その必死な様子に、他のみんなも呆れたり苦笑いを浮かべる始末だ。
「わ、私は、一族だと魔力香は狩猟にも傭兵業にも邪魔だったから、子どもの頃から魔力香が出ないよう最小限の魔力で練ってたの!」
「裏技なかったー!!」
カロンは頭を抱えて膝から崩れ落ちた。
そういう経緯もあったけれど、一年生の頃に魔力香についてどっかの誰かに揶揄われたのもあり、魔力練成にはここ三年間は特に重点的にやってきたのも理由の一つだ。
「ていうか、お前ら二人とも、神獣を常時召喚して、その上で神獣を介して魔法を使ってんだろ?どういう感覚でやってんの?」
オーウェンのその問いに、カロンとキランはお互い視線を見合わせた。
「こう……、黒羊にドゥン……!て魔力を送る感じ?」
キランが手のひらをオルヴァッキの膝にいる黒羊に向けながら首を傾げる。黒羊はメェと可愛く鳴いた。
「俺は……ブワァ!って感じ」
腕を組んで、カロンもキランと同じ方向に首を傾げた。
「いやいや、二人だって大概じゃん!」
双子の返答に、ソナがケラケラと手を叩きながら笑った。
それに対して、何故かカロンが照れくさそうにしていた。褒められてないのに、こういう所がバカなのだ。
「じゃあ、その感覚で神獣を通さずに魔法を使えば?」
「いやいや、そんな簡単にいくかよ!」
「試しにこれ炙ってみ」
紙袋から干し肉を取り出すと、オーウェンはキランに渡した。
キランはそれを受け取ると、「焦がしても文句言わないでよ」と言うと、眉間に皺を寄せ、うーんと唸りながら指先に集中すると、干し肉が一瞬、火に包まれる。
「えっ、できた」
驚いているキランに、オーウェンが干し肉を受け取ると口に頬張る。
「焼けちまったけど、これでいいんじゃねぇの」
干し肉を飲み込むと、焦げていたのか「にが」と漏らした。
その横でカロンが「いやいや、そんな簡単な話じゃねぇだろ」と指を振ると、その指先から小さな風の渦が生まれた。
「カロンできたじゃん」
カロンが面白いほど目を大きく見開いて、自分の指先を見ている側で、ソナのツッコミが飛んだ。
……二人とも、あんなに出来なかったのに。
(ちょっと、待ってよ)
私の焦りなど気付くわけがなく、オーウェンは両手をぱちんと合わせた。
「はい、じゃあここでまとめのお時間です。魔力練成は個人で頑張って。以上、解散」
「何であんたがまとめんの!?」
「え、俺が結果を出したからだけど」
「私の苦労は!?」
机の上に散らばったチェックリストや教科書をオーウェンが「あー……」と一瞥して、目を瞑り何かを考えた。
「おつかれ、どんまい」
「何がどんまいだ!」
思わず、魔法をぶっ放そうと片手を挙げた私に気付いて、オーウェンは「腹減ってるから」と呟いて紙袋を抱えると、即座に風魔法で防御を作って、男子寮にそそくさと逃げていった。
互いの寮には異性が入れないように工夫をされている。
つまり、追いかけられない。
わなわなとしている私の横で、それまで黙々とクッキーを食べていたメーベルが肩を叩いた。
「うん、よーく頑張った」
「お、俺らもアルクセイのお陰で、何が分かっていなかったか分かったし」
珍しく次男がフォローする。
他のみんなが「お前が一番出張るな」という目線で双子を見るので、二人は即座に口を結んだ。
「……最初はね?強さだけであいつに勝とうとしてたけど、それじゃダメなんだね」
たまたま触れていた机の端を、思わず握りつぶしてしまった。
「全てにおいてあいつに勝たないとダメだ」
私がそう決意した時、背後でため息と笑い声が聞こえた。




