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ラストワン~刻印がもたらす神話~  作者: Pー
第三章 第一部【総合アカデミー】
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26. 信じ合える心

 “聖山”内部の洞窟。


 千花率いる『魔王』派閥とハヴィリア率いる『ハヴィリア』派閥の合計十三人は、バロムア率いる反真龍救済連合を打倒するため、“聖山”内部へと侵入し進軍を進めていた。


 千花の立てた作戦では、妨害に出てくる敵を相性や強さで判断し、各個撃破していくというもの。


第二管制者セカンド・オペレーター』ソフィアと『ハヴィリア』派閥のベクチャドは“聖山”内部へ通じる大門に現れた有象無象の対処。


『剣鬼王』剣聖は謎の斬撃の敵の対処へ。


 そして、この()()では──


「ぶっとばす!」


 総合アカデミーの制服である長ズボンをショートパンツの長さまで切り、白く綺麗な太ももが見える女子生徒が物騒な言葉を口走りながらある人物へと突っ込んでいた。


 その女子生徒の名は、『魔王』派閥のメンバーの一人であるイルア=クレイドール。


「聖なる言葉は神の御心。強風よ、荒れたまえ」


 対するはバロムアに懐柔(かいじゅう)された『三大賢王』が一人、アトレズナ=リアクティウス。


 そして、彼女の言葉の後にはイルアの周りだけに強風が渦巻き、イルアを“聖山”の壁へと吹き飛ばす。


「ガハ──ッ!」


「イルア様!」


 凄まじい音と共に壁から崩れ落ちるイルア。


 “天界の決闘”にてイルアと互いに認め合った『ハヴィリア』派閥の派閥主(トップ)、ハヴィリア=フォン=ギニエルスタ。


 それを尻目に見ながら、『魔王』派閥にイルアと共に加入した(らん)=ボクはアトレズナへ真っ直ぐに突き進んで行く。


「聖なる言葉は神の御心。強風よ、荒れたまえ」


 イルアを吹き飛ばした時と同じ言葉を呟くアトレズナだが、嵐=ボクは吹き荒れる強風をものともせずに進む。


 何故なら──


「ボクは『嵐』の我心論者。ただの強風程度じゃあ、ボクは倒せない」


 その宣言通りに嵐=ボクは自らに吹いている強風すら己の力に変え、スピードを増して進む。


「【旋風地獄(せんぷうじごく)鎌鼬(かまいたち)】!」


 嵐=ボクは“天界の決闘”に向けて時雨監修の元、徹底的に叩きあげられた一人。


 技の精度も、威力も何もかもが入学当初から格段に上がっている。


「嵐=ボク君に続きますよ! 凱竜(がいりゅう)!」


「任せろ! 骸神(がいしん)!」


 彼ら二人はイルアや嵐=ボクよりも一足先に『魔王』派閥へと入った男子生徒。


 経緯はマッチポンプと思われそうだが、ロード・ヴォルダグレイの暗躍の結果としておこう。


「【骸と化せ(ガラ・ガラ・)それが意思である(ガロウドル)】!」


「降竜秘奥“凱竜”! 【鎧武者(アームズ)威風(ウォール)】!」


 アトレズナへ迫る嵐=ボクについて行くように、相当な硬度となったミヴァルが突撃し、ディオクの骸骨兵団(スケルトン)が援護に召喚される。


 しかし──


「聖なる言葉は神の御心。大地よ、隆起したまえ」


 アトレズナは三人の攻撃の基となる地面を流動させ、全員を吹き飛ばしていく。


 アトレズナに勝つどころか、近付くことすら許されない状況。


 この状況にしびれを切らしたイルアは、もう一度立ち上がりアトレズナへ殴りかかる。


 しかし、嵐=ボクたちと同じように吹き飛ばされてしまう。


「(強すぎますわ! いくら『三人賢王』といってもここまでの強さはおかしすぎます! 言葉で紡いだものが現実世界に影響を及ぼすなんて……!)」


 ハヴィリアが考えている通り、『三人賢王』と呼ばれていても生徒は生徒。


 相応の強さというものがある。


 今見せつけられているアトレズナの力は、生徒が持つにしては次元が違いすぎる。


 言葉が現実世界へ影響を及ぼす。


 千花たちならこの現象に既視感(デジャブ)を覚えたであろう。


 何故なら、『女神』フレイヤもよく似た【セイズ】の魔術を使用していたからだ。


 言うならば、アトレズナは『女神』フレイヤの下位互換。


 しかし、甘く見積もってはならない。


 千花たちは紙一重で勝利を掴んだのだ。


 一つでも歯車がズレれば、『女神』フレイヤに勝利し『神殺し』を成す未来は訪れなかった。


「まだまだァ! お前ら着いてこい!」


 めげずにアトレズナへと向かっていくイルアに、続いて行く嵐=ボクとミヴァル。


 だが、アトレズナへ向かう一瞬にイルアはハヴィリアへと振り返り声を出さずに口だけで意図を伝える。


 ハヴィリアは口唇術(こうしんじゅつ)を学んでいたため、イルアの真意の理解できた。


 曰く──「オレたちが気を引いておく。その間に打破する作戦考えてくれ!」


「(……! イルア様! 承知ですわ! このわたくしにお任せくださいですの!)」


 イルアの信頼に応えようと、ハヴィリアが頭の回転数を数倍にまで増加させる。


「(アトレズナ様は言神の征統教信者。起こりうる可能性の約五十パーセントの事象を予言することが出来る…………しかし、今のアトレズナ様は予言の次元を超えていますわ。言葉を現実に反映するなんて、どうしたら越えることができるのですか!?)」


 ハヴィリアの思考はどの視点から見ても、ある疑問にぶち当たる。


「【破壊は創造の象徴(グルア・ジヴェド)】!」


 ハヴィリアが何度も詰まる思考を繰り返している中、イルアは“武竜”の力を際限なく利用し、破壊を繰り返す。


 イルアの拳から放たれる一撃の威力は入学当初からは桁違いに強化されている。


 入学当初は辺りに撒き散らすだけの攻撃が、今は一点に集中した確殺の一撃に様変わりしているのだ。


 この技術をイルアに伝授したのは、善竜騎士団団長のキャンベラ。


 キャンベラ曰く──「相当な威力を持つ攻撃は収束させ、一瞬で放つことにより遥かに強力かつ、強大な威力に変化する」と。


「【破壊は未来を覆す(グルア・ジェイン)】!」


 バキャャャァァァァン! と地面を破壊したとは思えないような、常識を逸した大音量の破壊音が響き渡る。


「聖なる言葉は神の御心。空間よ、外れたまえ」


 しかし、アトレズナの言葉の引力によってイルアの拳は外されてしまう。


 さらに、アトレズナは確実にイルアを始末するためにもう一度口を開こうとする。


「【破壊は防御に転ず(グルア・ウォーハァ)!】」


 だが、拳を外された勢いのまま地面を放射線状に破壊し、一瞬でアトレズナから距離をとる。


 そして、間髪入れずにもう一つの攻撃グループにバトンタッチする。


「【旋風地獄(せんぷうじごく)鎌鼬(かまいたち)・‟乱狼(らんろう)】”!」


 嵐=ボクは空中にて身体を数回転させ、『嵐』の我心論者として全てを斬り刻む風を脚に巻き付け、蹴りを放つ。


「【鎧武者(アームズ)破裂進撃(パンク)】!」


 ミヴァルは全身に“凱竜”の加護を張り巡らし、最高硬度による突進。


「【骸骨巨激(スケルトン)圧迫(プレス)】!」


 ディオクは巨大な骸骨兵団(スケルトン)を一体だけ生み出し、上から圧殺しようとする。


『五大賢人』にすら届くと言われている嵐=ボクに加え、彼と同等の力を持つディオクとミヴァルの合計三人の一斉攻勢。


 イルアの拳が外れた、この状況において嵐=ボクとディオク、ミヴァルの三人同時の攻撃は凄まじい威力を持っている。


 しかし──


「聖なる言葉は神の御心。次元よ、崩れたまえ」


 アトレズナの言葉によって崩壊を迎えてしまう。


 さらに、アトレズナの言葉は空間を崩壊する旨の内容であり、彼女の言葉は現実世界に影響を与えるものである。


 つまり、空間の崩壊を間近で受けることになってしまった三人は──


「……! なっ!?」


「ぐッ……! 痛ぇ!?」


「……!」


 グシャァァァァァ! と肉が弾けるような音の後、アトレズナの周りだけでなく遠く離れていたハヴィリアの元まで、()()()()が飛び散ってくる。


 人体を構成する上で重要な部位の持ち主は、もちろんアトレズナに最も近かった三人。


「……! お前らぁぁぁああああ!」


 イルアが絶叫するほどに三人の怪我は酷いものであった。


 嵐=ボクは蹴り技に転じていた右脚が引きちぎられ、ミヴァルも全身に深々と切り傷が刻まれ、ディオクは骸骨兵団(スケルトン)を通じて身体の内部から崩壊させられていた。


 あの一瞬で三人の強者が戦闘不能に陥ってしまう。


 アトレズナとの差は歴然。


 もはや、イルアたちに勝利への道は残されていない。


 そう思われた時であった。


「仕方ねえなぁ。()()はクソジジイとのケンカにとっておきたかったんだけどなぁ」


 この場に殺意を感じ取れる者が入れば、イルアから殺意が一瞬だけ消えたことが見て取れたであろう。


「降竜秘奥“武皇竜(ぶおうりゅう)”!」


 世界から黒色が消えた。


 そう錯覚するしかないほどの覇気が世界へ放たれた。


 そして、放出された覇気はイルアへと収束され、新たな神話が(つむ)がれる。


「“武皇竜”ですって!? まさか、()()へ足を踏み入れたとでも言うのですか!?」


 イルアの変化に戦いが始まってから表情を変えなかったアトレズナも驚愕を露にする。


 それはアトレズナだけでなく、嵐=ボクやハヴィリアたちもそうであった。


「(イルア様……! まさか“皇竜”へと昇華させるなんて!)」


 ──“皇竜”


 それは、ヴァルディード善竜信仰者にとっては禁忌(タブー)とされる存在。


 善竜信仰において竜には五つの位がある。


 下から順に、“竜”、“神竜”、“皇竜”、“神龍”そして、“神皇竜”。


 さらに、その上の段階(ステージ)があると言う学者もいるが、(なか)ば神話の域の話である。


 正確な理由は分からないが、どの研究者やヴァルディード善竜教徒に聞いても皇竜から上に関しての明確な答えは返ってこない。


 過去に“皇竜”以上に覚醒させた何者かが、〈聖ドラグシャフ世界線〉で大罪でも起こしたのか、はたまた、世界線全土を震撼させたのか。


 そんないわくつきの力を解放させたイルアは──


「なるほどな……。こりゃあいい。力が漲ってきやがる…………!」


 不敵な笑みを浮かべ、己の倒すべき敵を睨み付ける。


 その様相はまさに“皇竜”に相応しい覇気を感じさせる。


「貴女! 自分が何をしたのか分かっているのですか!? 禁忌(タブー)に触れて、一体何のつもりですか!?」


 イルアというある意味新たな恐怖に、正気を疑うアトレズナ。


 それもそのはず、アトレズナが()()()()この数百年、禁忌(タブー)を侵した人間はいなかったのだから。


「ああ? 禁忌(タブー)? 知ったこたぁねえなあ!」


 だが、アトレズナの叫びを聞いてもイルアが止まることはなかった。


 さらにも増して笑みを深くし、まるで不条理に打ち勝つ様を見せる。


「こちとら仲間殺されかけてんだ! 生半可な覚悟でここに立ってんじゃねえ!」


「イルア……」


 バロムアの手のひらの上で転がされていたハヴィリアが、イルアと嵐=ボクの友達であるドルモを殺させようとしたこと。


「人の弱みに付け込んで、使い捨ての道具にしたあのクソジジイぶっとばす! そのために何の躊躇(ちゅうちょ)がいる?」


「イルア様……!」


 ギニエルスタ家の呪縛に囚われていてハヴィリアを使って、己の私欲を満たそうとしたこと。


 イルアは許す気はない。


 バロムアを倒すためにここまで来た。


「だがよ、こんなオレでもわかるんだよ。オレ程度じゃあ、クソジジイに勝てねぇことは…………」


 完全に対峙したわけではない。


 それでもわかるのだ。


 自分よりも格段に強いと思っていた時雨たちが、敗北したという事実を知ったから。


 磔にされた時雨たちを見て、絶望しかけてしまった。


 しかし、怒りを押さえ込み『魔王』への完全覚醒を果たした千花を見て、心の奥底に宿った感情に気付いた。


「だから、ここでお前を超えて『魔王』に追いついてやる! 光栄に思えよ、『三大賢王』。オレの糧になれることをなあ!」


 “皇竜(おうりゅう)”の加護を一身に受けたイルアは迷いなくアトレズナへと拳を振り下ろす。






 ❑❐❑❐❑❐❑❐❑❐❑❐❑❐❑❐






 凄まじい覇気と殺意の渦が“聖山”内部の洞窟内に生まれている。


「聖なる言葉は神の御心。強風よ、荒れたまえ」


 イルアの拳を一度退けた言葉を使い、“皇竜”の加護を得た彼女から距離を取ろうとする。


「はっは! その程度じゃあ、もう止まらねぇ!」


「……!?」


 まとわりつく強風を気合いで弾き飛ばし、遂に誰も成し遂げられなかったアトレズナへの一撃を入れた。


 メキメキッ! と拳が入ったアトレズナの腹から、確実に骨が折れたであろう音が響く。


 あまりの威力にアトレズナはその場に留まりきれず、“聖山”内部の壁まで吹き飛んでしまう。


「うそ……ですわよね…………ただの拳で……?」


 そう、先の一撃はただの拳。


 単純に殴っただけに過ぎない。


 その事実に戦慄するのはハヴィリアだけでなく、嵐=ボクたち三人も驚愕している。


「流石は、クレイドール家のご令嬢。一撃でこれとは、中々に痛いですね」


 しかし、吹き飛ばされたアトレズナは血だらけになりながらも生きていた。


「(おかしいですわ。今の一撃は人知を逸した、本物の“竜”の一撃……! あの一撃を受けて、生存はおろか、身体の無事すら保つことは出来ないはずですわ!)」


 思考を止めなかったハヴィリアは、アトレズナの無事に一つの可能性に思い当たる。


「イルア様! アトレズナ様は既に、()()()()()()()()()()()()!」


「……! マジか!?」


 この場で唯一アトレズナと対等に戦えるイルアに叫びに近い忠告をする。


「驚きました。まさか、ギニエルスタ家のご令嬢にまで見破られるなんて。えぇ。そうですよ。バロムア先生の魔法実験の成果を、わたしはこの身で受けました。それが、この圧倒的な力。お分かり? わたしはもはや貴女方のレベルにはいないのですよ」


 そう言ったアトレズナから、真っ黒な()()が世界へと放出された。


 その()はあまりにも現実離れした黒。


 見る者が見れば、黒の正体を熟成した(ゆがみ)だと看破できたであろう。


 世界線を腐敗させ、世界としての役割を果たすことが出来ないようにする世界の害悪。


 (ゆがみ)を殲滅し、他の世界線から世界を護るのが守護者の役目。


 (ゆがみ)を人体に移植させる実験はミリソラシアの実の父であり〈イントロウクル世界線〉の王であったバラゼン・ディアスも行っていた。


 バラゼンの目論みはたまたま〈アザークラウン世界線〉との戦争を開始した際に、最前線で戦っていた千花、時雨、ミリソラシア、千百合の四人に破られてしまった。


 しかし、バラゼンの(ゆがみ)の移植研究は実質成功していた。


 (ゆがみ)を竜の姿に昇華させた大成功と言っても過言ではない実験成果。


 何の因果か、竜を信仰するヴァルディード善竜信仰が盛んな〈聖ドラグシャフ世界線〉においても、(ゆがみ)の研究が行われている。


 それも、成功している形で。


「バロムア先生は()()()()()()()と申していましたが、わたしを制限することなど何人であっても許しません」


 元よりアトレズナは慢心するタイプの性格であった。


 なまじ実力が高いため『三人賢王』と持て(はや)され、その上、()()()()()()()なんて言う()()()()()()()()()()()()()()()を耳元で囁かられれば、あっという間に流されてしまう。


 要は究極の選民思想(せんみんしそう)


 それも最悪な方向に。


「機密? だからどうしたっ!」


 小難しい話が()()()苦手なイルアは拳で語り合うため、“皇竜”の加護を全開まで引き上げ突撃する。


「聖なる言葉は神の御心。わたしよ、超えたまえ!」


 その言葉の後に驚くべき光景が見えた。


「なっ!?」


「この程度なら、わたしは越えられます」


 なんと、“皇竜”の加護を全開放したイルアの拳を片手で受け止めたのだ。


 つい先程、イルアの拳に吹き飛ばされていたアトレズナが、だ。


「そうかよ……!」


 さらに膨大な覇気を纏い、溢れんばかりの覇気を全て両手に込め、連続で拳を放つ。


「聖なる言葉は神の御心。わたしよ、超えたまえ!」


 しかし、アトレズナが言葉を発するだけで、イルアと同等の威力の連撃を放ち返される。


「(どうやら(ゆがみ)とやらの力は異常な耐久性だけでなく、底力にも反映されるようですわね……! どうすれば…………)」


 思考を今までにないほど加速させ、勝利への道を模索しているハヴィリア。


「(なんてこと……! わたくしではアトレズナ様を超える策が思い浮かばない! こんな時、『魔王』様なら…………)」


 奇しくもハヴィリアの思考の方向は、イルアと同じ方向、つまり『魔王』千花ならどうするかに収束する。


 そして、『魔王』千花の一つの奇策に思い当たったハヴィリアは、生まれてきて初めて心から人を尊敬した。


「(敵いませんわ。『魔王』様には絶対に。あの人──いいえ、あの方は既にわたくしたちとは程遠い次元にいましたのね…………)」


 ハヴィリアが思い出したのは入学試験の三科目目、実技試験での千花の戦闘方法。


「イルア様! そのまま力を上げていってくださいまし!」


「……! おう! まっかせろ!」


 ハヴィリアの叫び声に、いち早く反応したイルアはアトレズナに言葉を紡がれる前に拳を繰り出す。


「【伝説を粉砕する(グルア・クロウ)破壊の権化(デモン・クライ)】!」


 一点に集中させる覇気や殺気、“武皇竜”の加護を全て凝縮し、さらにそれを連撃と成した。


 先までの連撃は全て戯れ。


 そう言外に表現するかのような凄まじい攻撃。


 アトレズナは言葉を紡ぐ間も与えられずに、今までの言葉のみでイルアに喰らいつく。


 しかし──その停滞も終焉を迎えた。


「【軍神は郡中に在らずニア・ニア・クレルドル】」


「なんです!? 急に…………力が……!」


 なんと、ハヴィリアは押し負けているアトレズナをダメ押しするとばかりにイルアへ支援の加護を与える。


「助かりましたわ。アトレズナ様がイルア様と負けず劣らずの力で。少し後押しするだけで勝利も容易いのですわ」


 あの時、イルアとアトレズナの力関係は確実に均衡を保っていた。


 そんなギリギリの関係性の中では、ほんの少しだけの援助で事足りる。


「アトレズナ様が本気でイルア様を越えられると、この作戦も上手くいきませんでしわね」


『魔王』千花が嵐=ボクとの実技試験で起こした支援の自爆。


 今のイルアはそれに近い状態にある。


 “武皇竜”の加護に加え、“軍神竜”の加護。


 下手をするとイルアが自爆してしまう。


 だが、ハヴィリアは信じていた。


 イルアの丈夫さを。


 イルアなら己の加護でも受け入れてくれる、と。


「あんたは強かったよ。だがな、ちっとばかし余裕ぶっこいてたんじゃねぇのか!」


 連撃を止め、一瞬だけ全ての加護による破壊の渦を拳に貯める。


 そして──


「……まっ!?」


 もはや音はなかった。


 爆発音も、破壊音も何もなく、あったのは()()()()()()()()だけ。


 イルアは全てのエネルギーを放出させるのではなく、アトレズナの身体に流し込んだ。


 そうすることにより、アトレズナの身体は内側からの圧倒的な力に耐えられず破裂してしまう。


「お疲れ様です、イルア様」


「ああ。ありがとな。ハヴィリアの支援がなかったら、ちょっと厳しかった。本当にありがとう。……と、とりあえず、嵐=ボクたちの手当てから始めようぜ!」


 最後に面と向かってお礼を言うのが恥ずかしかったのか、早口に(まく)し立ててハヴィリアの前から離れるイルア。


 その行動を暖かい目で見るハヴィリアに、恨みの感情はもうなかった。

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