少年、神様から力を貰う。
「それではいい加減3つの力を決めていきましょう」
「そうですね! レシアさんのおっぱいを早く揉むためにもちゃっちゃと決めていきましょう!」
女神レシアとのバッドコミュニケーションを果たした少年、秋田健太郎のテンションはマックス状態だった。
そんな様子の少年相手に淡々と女神業務をこなすレシアの目はもはや冷め切ったものであった。
「しかし本当にどうするのですか? 非殺傷の力のみで勇者活動を行うというのもなかなか困難なように思えますが」
「でも一応身体能力アップはデフォルトで付いてくるんでしたよね? それだけでも大分いいとこまでいけるんじゃないですか?」
「そうですね。しかしその身体能力は私の世界基準で最高峰のスペックになるというだけですのであなたの使い方次第です」
「ふーん。そうなんですか」
レシアの説明に少年はそっけない態度を取っている。
自分次第で無限の可能性があるという話は少年にとってあまり興味のない事であった。
「ちなみにあなたは何か武道の経験はありますか?」
「ないです」
「なら武道の才という力を授けましょうか? それがあればあなたの努力次第で世界最強クラスの実力を得る事が出来ますよ」
「ほほう……」
武道の才と聞いて少年は考える。
確かにそんなものがあるのなら手に入れて損は無いだろう。
初めからあなたにそういう才能がありますよと言われればその才能を伸ばすべく努力もしやすいというものである。
……しかし。
「却下で」
「え、ど、どうしてですか?」
レシアはうろたえる。その力にはまるで興味がないというような少年の様子に。
「だって……努力しなくちゃ才は芽吹かないものじゃないですか……っ!」
「!」
そう。少年は今紹介された力の有様をきちんと理解していた。
その力は努力があって初めて発揮されるものなのだと。
そして少年は把握している。
己の器というものを。
「俺は努力とか不得手な人なので才能系の力は却下でお願いします」
「…………」
少年は昨今の若者の例に漏れず、堪え性の無い人間だった。
結果を先に求め、過程を軽視するのもそんな現代社会の若者に巣食う闇が原因なのかもしれない。
「……わかりました。才の力は無しの方向でいきましょう」
「ありがとうございます」
「しかし今のままだと武力は己の身一つという事になりかねませんよ?」
「むむむ……」
レシアの言葉を聞いて少年は悩んだ。
少なくとも己の身を守れるような力は欲しいというのが少年の本音である。
しかしそれでお手軽に殺傷できる力を得るのは控えたい。そんなものを手にしても碌なことにはならないと少年は考えていたからだ。
だが少年は技術的な力であればその二つを両立させられないかと閃いた。
「例えば剣を持ったらパパッと最適な動きがわかるみたいな力ってないですかね?」
そして少年はレシアに問う。
自らを守るための、敵を傷つけないための力を欲して。
「ふむ……それなら『神の手』なんてどうでしょう?」
「『神の手』?」
「自らの手に神気を定着させてあらゆる手作業の最適解を導き出すという力です」
「おお! それは凄いですね!」
その力の利便性を考えて少年は素直に簡単の声を上げた。
そしてそんな少年の様子に気分を良くしてか、レシアはフフンと軽く鼻を鳴らした。
「伊達に神という名がついた力ではないのですよ」
「ほほう。もしかして他にも何か神の名が付く力とかってあったりするんですか?」
調子の良いレシアに少年は更に質問を投げかける。
『神の手』以外にも何か有用な力は無いかと模索せんがために。
「ありますよ。聞く者全てを従えさせる『神の声』、あらゆる生物を凌駕する速度を得られる『神の足』、この世の全てを見通すことのできる『神の目』、それから――」
「ストップ」
少年は今己の閃きに従ってレシアの説明を一旦止めた。
「今の説明にあった『神の目』って本当になんでも見る事が出来るんですか?」
「え? はい、そうですよ。『神の目』は意識すれば千里先をも見通す事が出来ます。そこに障害物があろうとも透視機能完備ですので全く問題ありませんし――」
「それください」
「あれ? は、はい。わかりました」
やけに真面目な少年の態度を見てレシアは訝しみながらも少年に『神の目』を与えた。
少年の目が金色の光を放ち、しばらくすると力の譲渡が完了して光も徐々に弱まっていった。
「これであなたに『神の目』が与えられました。やっと一つ目ですね」
「…………」
「? どうしましたか」
「……ブフォオ!!!!!」
「ど、どうしましたか!?」
少年は謎の声を発し、何故かその場に蹲る。
そんな少年の様子が理解できず、レシアは驚くばかりである。
「……ありがとうございます女神様。本当にありがとうございます」
「え? あ、は、はあ。どういたしまして」
少年はレシアに深く頭を下げた。
「とりあえず頭を上げてください。このままだと私がちょっと話しづらいので」
「……頭を上げていいんですか?」
「? 構いませんが」
「では失礼して…………オフォゥ!!!!!」
「え!? なんでまた頭を下げるんですか!?」
レシアは再び頭を下げる少年の行動に混乱するばかりであった。
「これヤバイって……マジヤバイって……」
「? 何か言いましたか?」
「いえ、なんでもありません」
「そうですか?」
「ふぅ……ふぅ……もう大丈夫です。お騒がせいたしました」
「は、はあ」
少年は自らに備わった力を一時的に全てオフにし、やっと女神を直視する事が出来るようになった。
それまで少年の目に何が映っていたのかは少年のみぞ知る。
「この力は絶大すぎる……場合によっては命の危険すらあるかもしれない……多用するのは禁物か……」
ただ少年はその力をそう評した。
彼が再びこの力を全て解放する時はくるのだろうか。
「……なんで前かがみなんですか?」
「ちょっと止むに止まれぬ事情がありまして。しばらくこのままでお話させてください」
「はあ、まあ構いませんが」
少年の謎姿勢に疑問を持ちながらもレシアは話を再開する。
この女神、自らが仕出かした失態に気づかないほどの天然属性も兼ね備えていた。
「これであと2つです。他には何が必要でしょう?」
「そですね。さっきちょろっと話が出ていましたが、『神の手』とは具体的にどんな効果があるのでしょう?」
「『神の手』は手で行う作業全てに補正をつける力ですので用途は様々です。例えば剣を持てば剣豪クラスの剣技を扱う事が出来ますし、それ以外の武器にも同様の補正がつきます。それに素手でさえも達人級の武道家を圧倒するだけの力があります。まあ剣聖クラスや武神クラスには流石に敵いませんが」
「なんか戦闘面ばっかり押してきますね女神様」
武道派たる女神にとって力とはすなわち暴力なのであった。
脳筋とも言う。
「でもこれがあれば無闇な殺生を行うこともなく戦えそうですね」
「確かにそうですね。峰打ちなどもやろうと思えば軽く出来ますし」
「それじゃあそれくださいな」
「わかりました」
少年は軽い調子で『神の手』を手に入れた。
これにより少年は体が丈夫な人間の域を超えて達人クラスを超える武道家並みの力を手に入れた事になる。
……しかしその力を手に入れた少年の真意には、武術的なものとは別にもう一つあった。
「ふふふ……世界を平和にした時が楽しみですね……」
少年はレシアの胸を見て手をワキワキさせながら意味深な言葉を吐いていた。
少年の真意が明かされるのは世界が平和になった時になるのだろう。
「この神の指先でどんな声音上げるか楽しみですよ……」
「? 何か言いましたか?」
「来るべき悲願の成就へ向けてこの力は『テクニシャンズハンド』と呼称しよう……」
ただ世界が平和になった時にならずとも、それがどのような用途で扱われるかはある程度想像が可能だった。
少年の真意はいつだって一つの事に向いていたのだから。
「さっきから何をぶつぶつ言っているんですか? もっと大きな声を出してくれないと聞こえないのですが」
「いえ、なんでもありません。ただの独り言ですから」
そしてその少年の独り言は幸か不幸かレシアの耳に入る事はなかった。
今少年が考えていたことをレシアが知る羽目になるのはおそらく世界が平和になった時であろう。
「それでは我々から力を与えられるのも後一つです。あなたはどのような力を望みますか?」
「う~ん、そうですねえ~」
最後の一つということで少年はようやく真剣に考える事にした。
つまり今までの2つはあまりよく考えずに決めていたということでもある。
しかしながらそれでも少年にとって最適と言える力を手に入れているあたり、少年は自身の事をよく理解しているといえる。良くも悪くも。
「というかそもそもレシアさんの世界ではどんな脅威があるんです?」
そして少年はレシアにそんなことを聞いた。
己が最後に手にする力を定める指標となりえるものを見つけるために。
そんなことは1つめの力を貰う前に聞いておけという話ではあるが。
「そうですね……レンシアでの治安悪化の主な原因は人間族と魔人族が争っていることにあります」
「ほほう……」
人と魔が争う世界という世界に勇者として介入するという王道展開を想像して少年の中二魂は燃え上がった。
少年の心はエロいこと以外でも燃え上がるのである。
「つまり俺の役目はその争いをどうにかして治めればいいわけですね?」
「まあそうなりますね。人間族に加担して魔人族を叩き潰すなり根絶やしにするなりしてくれると助かります」
「そ、そうっすか」
だが女神から発せられたなかなかに暴力的な発言を聞いて少年の燃え上がる炎は弱火となった。
女神の方針は邪魔者なら全て排除せよと言っているようなもんである。
平和主義者たる少年にとってレシアの思想は受け入れがたいものがあった。
「特に現魔王は徹底的にぶちのめしてください。あの魔王のせいで邪神たるシンシアのほうへ一体何人のレシア信者が持っていかれたか……」
「あの、女神様。一応俺平和的な世界平和を目指してますんで」
レンシアという世界には3人の女神がいる。そのうちの2人がレシアとシンシアである。
そして第一女神レシアと第二女神シンシアは互いを邪教扱いし、熾烈な信者獲得争いをしているというような女神事情があった。
しかしそんな事情を知る由もない少年にとって、レシアの要望はただただ物騒なだけだった。
「ですが世界平和を成し遂げるには魔王打倒が不可欠になると思いますよ?」
「え!? マジっすか!? 聞いてないですよそんな事!」
魔王とのバトルは回避できないというレシアの発言に少年はたじろいだ。
「……勇者と聞いて魔王と戦わないという発想もあまり無いような気がするのですが」
「OH……」
少年はあまりに基本的なことを失念していた。
勇者とは魔王と戦う存在であるという事など古今東西の創作物においてもはや常識的なものであったということを。
「ま~じっすか~……俺魔王と戦わなくっちゃいけないんっすか~……」
「むしろ魔王と戦う事を全く考えてなかったあなたは私の世界でどんな勇者活動をしようとしていたのかが気になりますね……」
少年が絶望に打ちひしがれているのを見てレシアはため息をつきながらそうぼやいた。
「えーもう完全にバトル前提じゃないですかーやだー帰るー」
さっきまであれだけおっぱいのために世界を救うとのたまっていた少年は、魔王との血みどろの戦いを想像して怖気づいてしまった。人と魔が戦うところに介入するのはOKだが、魔の親玉たる魔王との流血沙汰はNGというのが少年の線引きであった。
もはや今の少年にさっきまでの中二魂はない。
そんな熱しやすく冷めやすいにも程がある少年の態度にレシアは慌てた声を出す。
「ちょ!? 待ってくださいよ! いきなりそんな事言われても困ります!」
「よく考えてみたら俺には俺の生活がありましたので、やっぱり勇者活動は無理っぽいかなって思います」
「今更それ言うんですか!? ちょっと言うタイミング遅すぎやしませんかね!?」
少年はことここに到るまで全く話にも出さなかった自らが元いた世界での生活についてを理由に勇者活動を降りようとしだしていた。
ちなみに普通まず最初にそれを言うべきだろうという常識的な発想は少年には効かない。
少年はいつだって今までではなくこれからを生きているのだから。
「学業と勇者活動を両立させていくのは俺には無理だと思うんですよね。親も多分反対しますし」
「いやそんな街角で芸能スカウトされた学生みたいな断り方されても困るんですが……」
少年のあまりに素早い心変わりにレシアは頭痛を感じ、額に手を当てていた。
「……ですがそれは問題ありません。あなたは『地球』出身の方ですよね?」
「あ、はい、そうですよ。ちなみに名前でよく聞かれるんですが俺は秋田県ではなく千葉県に住んでいます」
「それは自己紹介のときに聞いたのでもういいです」
少年のしつこい名前ネタをレシアは軽く受け流した。
一発ネタの部類に入る名前ネタはそう多用できるものではなかった。
「『地球』であれば『レンシア』と比べると時間の流れがおよそ1万倍は遅いので時間についてはあまり気にしなくてもよいと思います」
「あらま、そんなに違うんですか」
「そしてあなたの肉体は神の加護を受けているため老化する事もありませんので、私の世界に何年いようと今の姿を維持できますよ」
「なんと! そんな都合の良い加護がデフォルト装備で良いんですか!」
「いいんです。元々勇者活動を心置きなくさせるべく与えられる加護ですから」
またの名をご都合設定と呼ぶ。
神様の加護様様である。
「ですから元の世界がどうのこうので勇者を辞退する事は出来ませんよ?」
「むむむ……なんて用意周到に与えられた加護なんだ……これでは勇者にならざるを得ない……」
そして少年はご都合設定もとい神の加護の前に膝を屈した。
「ようやく魔王をぶっ殺す決心がついたようですね」
「ちょいちょい恐ろしいこと口走るのやめてもらえませんかね女神様」
少年はそろそろレシアの暴力的な発言に引いていた。
だがそれはレシア側からの少年の言動でも同じ事が言えるのでお互い様ではあった。
「とにかく、魔王をどうにかしないことには世界に平和は訪れません」
「は、はあ」
「ただ魔王には邪心シンシアの加護を受けた『魔神の鎧』があります」
「『魔神の鎧』?」
「ええ、『魔神の鎧』はありとあらゆる物理攻撃、魔法を跳ね返す無敵の鎧です。これがあるから魔王は現在の地位に上り詰められたと言っても過言ではありません」
「ほほう」
レシアの話を聞いた限りでは、その魔王は鎧がある限り無敵といってもいいというほどの強敵であろうということが少年には感じられた。
「この鎧を突破するには並大抵の攻撃ではダメです。ですからあなたが最後に手にするのはより強力な、より殺傷力のある、全てを滅ぼすかのような力でなくては……」
「だからちょいちょい俺をダークサイドに連れて行こうとするのやめてもらえませんかね女神様。一応俺クリーンな勇者を目指していますんで」
レシアの脳筋的発想に少年はツッコミを入れていた。
世界平和を勇者に託す女神が全てを滅ぼす力を与えてどうするのか。本末転倒である。
そしてそんな女神に対し、少年は一つの解決方法を提示する。
「強力な装備なら外させちゃえばいいんじゃないですか?」
「え?」
「強制装備解除とかそういう力はないんですか?」
「それは……ありますね……」
「ならそれください。それでその魔王とも戦えると思いますよ」
少年は真正面から戦うのではなく裏技的な方法で弱体化を図って魔王と戦うことを模索した。
そしてその結果、そもそも鎧を装着させないという方法を考えついた。
「なるほど……確かにそれならうまくいきそうですね……わかりました。あなたに『イクィップメント・ブレイク』を授けます」
レシアも少年の提示した方法に納得し、少年へ3つ目の力を与えた。
「え? すいませんレシアさん。もう一回その力の名前を言っていただけませんか? 何ブレイクって言いました?」
ただ少年にはレシアの発音を聞き取れていなかった。
聞きなれない英単語を聞いて困惑する中学二年生がここにいた。
「『イクィップメント・ブレイク』です。ただ無理に覚える必要はありませんよ。重要なのは名前ではなく力そのものなんですから」
「といいますと?」
「あなたが念じやすい名前で読んでくれて構わないという事です。装備解除の神技は既にあなたの身に備わっているのですから」
「ほう……」
少年はレシアの説明を聞いて吐息を洩らす。
つまりこの神技は他2つの力同様、名前を言わずとも自在に使用が可能だという事になる。
「あなたがその力を念じた瞬間、眩い光があふれ出し、その光に触れた存在からありとあらゆる装備品を吹き飛ばす事が出来ます」
「装備品の定義は?」
「それが装備だと思いさえすればどんなものでも」
「ほう…………ん!?」
そして少年はある事に気づいた。
魔王を倒すために貰ったこの力であるが、もっと他の使用方法があるのでは無いか、と。
「よし……この力は『フラッシュライトヌーディスター』名付けよう」
「な、なんですかその名前は。私が言ったのと全然違う名前になっちゃってるじゃないですか」
少年が名付けた名前を聞いてレシアは遺憾の意を示した。
どんな名前を付けようが使用者の勝手ではあるが、適当な名前を付けられたのでは神の沽券に関わるのである。
だがそんな事情は意に返さないのが少年のスタイルである。
そして少年はこの力の核心についてレシアに問う。
「いえいえこれでいいんですよ。それよりこれってどんな相手にでも効きますよね?」
「ええ、勿論です」
「たとえ神でも?」
「流石に上位神たるお父様には効かないと思いますが、それ以外の神にならまず効果はあるはずですよ」
「レシアさん相手でも?」
「え? ええ。多分効くと思いますが」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「『フラッシュライトヌー――」
「さあ勇者よ旅立つのです!!!!!」
少年が何かを仕出かそうとする前に、一足早くレシアは少年を『レンシア』へと飛ばす事に成功した。
流石のレシアでもここまで言われて少年が何をしようとしているのか気づかないはずもなかった。
謎の戦いはレシアに軍配が上がった。
こうして、神へイタズラをすることさえ恐れぬ少年、秋田健太郎は無事(?)3つの力を手に入れて異世界へと旅立ったのであった。
平日だったのでなんとなく予約投稿。
今回は2時間で書けなくて悔しい。
次は多分土日。




